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 拓斗と楓が付き合い始めてから、四日経過。

 その日の放課後、二人は一緒に帰る約束をしたため、拓斗は図書室で時間を潰し、部活が終わる頃に校門の前で待っていた。

 告白して以降、学校での生活は何一つ変わっていない。それほどまでに日常というものは平凡に過ぎて行き、つまらないものだ、と拓斗は認識するには十分だった。

 ただ一つ驚いたことがあるとすれば、拓斗と楓が付き合い始めたことに田中は気付いていたことだった。いつかは報告するつもりではいたのだが、それを言う前に気付いたのだ。が、二人が付き合うことを願っていた田中はそれを誰かに言い振らすわけでもなく、放っておいてくれた。それが救いではあったのは言うまでもない。


 楓に至っては公園で拓斗に言ったように、勇の彼女のカモフラージュは辞めることをその日の内に連絡し、翌日謝罪があった。相手が幼馴染だけあって、少しだけ話に華が咲き、『いつかダブルデートをしよう』という約束をさせられたほど。

 拓斗からすればダブルデートをするのは構わないのだが、勇や初対面になる勇の彼女の前でイチャつくなんて勇気がないため、そのことを考えるだけで憂鬱になり、ため息を溢す日々が続いていた。

 しかも、まだそれを楓に話していない。なかなか話すタイミングがなく、そのことも原因でさらに憂鬱になってしまっている。


「しかし、寒いなー」


 日中は暑く夜は寒い気候が続いている現在、日中に服装を合わせているため、拓斗は身体を一度ブルッと震わせる。

 一度、校内に顔を覗き込むが、楓らしき人物の姿はまだない。

 時間を確認するため、拓斗はスマホを取り出し、ディスプレイに表示される時間を確認すると、すでに六時半を過ぎていた。本当ならば、とっくの昔に部活は終わっているはずの時間帯。しかし、まだその姿が見えないのは、今週に県大会であるせいだった。

 それを了承して待っている拓斗は、この待ち時間にイライラしたとしても文句を言える状況ではない。だからこそ、そのイライラを消すために、大きく深呼吸をしていると、


「ごめんね、たっくん! 予定より遅れちゃった!」


 少し離れた所から全力ダッシュで走ってきた楓がそう言いながら、拓斗の元へ到着。部活に疲れているにも関わらず、全力ダッシュでやってきたせいで、拓斗の元へ着くなり、肩で息をし始める。

 その様子を見せられた拓斗は、心に溢れかえっていたイライラという感情は一瞬で消え去り、


「大丈夫、今来たところだから」


 なんてバレバレのウソを吐くぐらいの余裕が生まれたほどだった。

 そんなウソに対し、


「バレバレのウソは言わなくていいから。それに待たせてるのは授業が終わってから、ずっとでしょ?」


 そう言って、まだ苦しそうな表情のまま笑う。


「一度は言いたい言葉だよね」

「それはデートの時に言ってよ」

「それもそうか」

「じゃあ、後は帰りながら話そうか? 今日は大事な話が二つあるし」

「二つも?」

「うん、二つもあるの」


 楓がそう言いながら歩き始めたので、拓斗は普段歩くよりもゆっくりとしたスピードで歩き始める。それは歩き始めたら、拓斗の歩幅が大きいせいで楓より早く歩いてしまい、楓が自然と早歩きになってしまう。そうなってしまえば、現在思考で疲れている楓に鞭を打つ羽目になってしまうからである。

 もちろん、理由はそれだけではない。

 大事な話がある以上、ゆっくりと歩いた方がなるべく多く話せると考えたからだ。


「えへへ、ありがとう」


 そんな拓斗の気持ちを読み取ったのか、楓はそう嬉しそうに漏らす。


「ん。それより大事な話って何?」

「んー。どっちから聞きたい? 一つはたっくんからすれば驚くことだと思う。もう一つは言い訳をしないといけないものかな?」

「言い訳をしないといけない方からで」

「迷うことなくそっちを選ぶんだね」

「いや、なんとなく想像がついただけ」


 拓斗はそう言って、視線を逸らす。

 わざとらしく視線を逸らした拓斗の正面に移動し、拓斗の歩みを止める楓。


「ダブルデートの件、聞いてないんだけど?」


 その約束を話してくれなかったことが気に入らないらしく、楓は本当に頬を膨らませて、不満を露わにした。


「それ、だよねー。分かってた」


 拓斗はそんな不細工に膨らます楓の頬を両手で押さえて、無理矢理息を吐き出させる。

 その初動が早かったためか、楓の頬に溜まっていた空気はブーッ! と鈍い音を立てて口から噴出。その音に楓は顔を真っ赤にして、慌てて拓斗に背中を向ける。


「恥ずかしい音出させないでよ!」

「頬を膨らませたのは楓」

「それぐらい怒ってるってことなの!」

「拗ねたふりの間違いでしょ」

「……むー、察し良すぎだよ」

「幼馴染だからすぐに分かるよ。っていうか、幼馴染だから僕の気持ちも分かってるくせに」

「うん、分かってるよ。長谷部先輩の彼女さんに会うのが嫌なんでしょ? 知らない人に対しては一時的な人見知りが発動するしね!」


 意地悪な笑みを浮かべながら、再び拓斗の方へ楓は振り返る。

 その様子を見て、拓斗は『楓が望むような』言い訳を考え始める。楓に話すことを渋っていた理由を即興でもいいから作って欲しそうな表情をしていたからだ。

 が、考えるまでもなく、拓斗はその言い訳をすぐに思いつく。


「そうそう。それにもっと大事な言い訳があるんだよ」

「大事な言い訳?」

「うん。ダブルデートより先に二人っきりでデートをしてない。だから、まずは二人でデートしてからじゃないと嫌だ」

「……ッ! ご、合格!」


 予想していなかった言い訳に楓はちょっとだけ上擦った声で、その言い訳を素直に受け入れる。

 ほっ、良かった。

 何が合格なのか拓斗にも分からなかったが、その言い訳に論破出来ない雰囲気だけは分かり、心の底から安心して小さく息を吐く。

 そして、その言い訳に照れている楓の横をすり抜けるようにして、拓斗は歩みを再開。

 楓もまた一瞬、反応が遅れるも拓斗の横に並び、同じように歩き始める。


「まさか、その言い訳が来るとは……。女心分かってるねー」

「いやいや、分かってないって。本当のことを言っただけだし。とにかく、ダブルデートの件はそれで許してくれる? 長谷部先輩にはなんて?」

「あ、それはもうちょっと待ってくださいって言っておいたよ。それより先に県大会あるから、それが終わってからだと思ってるし」

「そっか。なら、いいや。フォローありがとう」

「どういたしまして」

「それで、もう一つの大事な話って?」

「あ、それはねー……」

「うん」

「県大会終わったら、私もマネージャー辞めるってこと」

「へー、そうなんだ」

「うん」

「今までおつか……れ……?」


 そして、拓斗は歩みを止めて、一歩分前に出た楓の背中を見つめる。

 今、なんて言った?

 聞き流すつもりなんてなかったが、楓のあっさりとした報告のせいで事の重大さが全くなくなり、それに対するまともな反応が遅れてしまったのだ。


「どうしたの?」


 再び楓はしてやったり顔で拓斗を見つめ、動揺する拓斗へもう一度聞き返すことを期待するような発言を行う。

 元より聞き返すことが確定していた拓斗は、


「もう一度言ってくれる? 今の言葉」


 と、迷うことなくそう尋ねた。


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