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「あの、聞きたいことがあるんですがいいですか?」


 しばらくは無言で美雪の後を追う拓斗だったが、やっぱり疑問に思ったことを口に出さずにはいられず、そう尋ねる。

 美雪は振り返ることはなく、


「ん、いーよー。どうしたの?」


 と、少しだけ歩くスピードを落として、拓斗に答えた。


「お姉さんの家に行くのはいいんですけど……、危ないとか思わないんですか?」

「危ない?」

「はい、身の危険とか感じないのかなって」

「身の危険、ねー」

「あまり実感わいてないみたいですけど、僕だって男ですよ? もしかしたら、お姉さんを襲ったりする可能性だってあるわけじゃないですか」

「あー、それもそうだね」

「気付いてなかったんですか?」

「ううん、気付いていたよ」

「え? だったらなんで?」

「そういう人には見えなかった。そういう理由じゃ駄目かな?」

「ダメじゃないですけど……。そんなの当てにならないですよ」

「んー、何か分かりやすく説明出来るものねー」


 何を思ったのか、美雪はその場で足を止めて、空を見ながら何かを考え始める。

 それに従い、拓斗も足を止めて、同じように空を眺めた。

 空は先ほどよりも暗闇に包まれており、ちらほらと一番星などが光り始めていた。

 普段はあまり夜空を見上げる機会が少ない拓斗からすれば、これぐらいの星の光でも綺麗だと思ってしまうほど。

 そんなことを思っていると、美雪が空から顔の位置から戻し、口を開く。


「拓斗くんって犯罪をした人が捕まるところを見たことがある?」

「それはリアルで、ですか?」

「ううん、テレビでも大丈夫」

「テレビならちょっとだけあります。捕まるというか連行シーンとかですけど……」

「うん、十分。その人の目とか見たことある?」

「目?」

「そう、目」

「目……目……」


 警察24時などが好きである拓斗にとって、そういうシーンを見たことがあるだけであり、深く意識して見たことはなかった。が、言われたからには思い出す必要があると思った拓斗は一生懸命をそのシーンを思い出そうと脳を必死に動かす。

 しかし、そのシーンだけが思い浮かぶだけであり、犯罪をした人の表情までは上手く思い出すことは出来なかった。

 それ以上にもっと重要なことに気付く。


「すみません。思い出せないです。っていうか、顔にモザイクかかってるから想像出来なかった。それにニュースの連行シーンも人権を理由にジャケットを頭から被せられてるので、目限定にされると……」

「あー、それもそうだね。じゃあ、ちょっと面倒だけど、警察のサイトに入って指名手配のページ見てくれる?」

「はぁ」


 拓斗はその指示に従い、スマホで警察のサイトへ行き、指名手配犯のページへ飛ぶ。そこには警察署やたまに見かけるボードに貼ってある顔の写真が載っていた。そして、美雪に言われる前に目を見る。写りが悪いのか、それともそういう風に貼ってあるのか、そこまでは分からなかったが目に光というものがないように感じた。


「なんか悪そうな目してますね。光がないというか……」

「そうそう、そんな感じ。一番特徴的なのって目が鋭くなっていることかな。犯罪っていても千差万別だし、この人たちは殺人を犯した人たちだから余計にだろうけど、こんな風に目付きが悪くなるんだよ。雰囲気も表現しにくいような感じでしょ?」

「確かに表現しにくいです」

「うんうん。それに比べたら拓斗くんなんて真っ白に近いようなものだから信じることが出来たんだよ。目だって悲しみに満ちてるしね」


 言いたいことが終わったのか、美雪は再び歩き始める。

 拓斗もそれに付いていく。


「でも、演技かもしれないですよ? もしかしたら悪い方の悩みで、そうやって女性に近付く犯罪者みたいな――自分で言ってて悲しくなってきた」

「そう思うなら言わなきゃいいのに……」

「で、でも……」

「演技してるなら、まずこういう話を振って来ないでしょ? だから、予想は確信に変わったんだけどね。なにより本当に私を襲うつもりなら、私の家じゃなくて自分の都合の良い場所に連れていくと思う」

「それ、ただの結果論です」

「結果論だろうが何だろうが、最初から邪な気持ちはないんでしょ?」

「当たり前じゃないですか!」

「だったら、男の子がこんなことでグダグダ言わないの! 女の子に嫌われちゃうよ?」

「うっ!」


 その一言が拓斗の心に突き刺さり、落ち込むには十分な一撃だった。

 美雪の方も拓斗の雰囲気が伝わったらしく、「あれ?」と振り返る。そして、その様子を確認し、困ったように髪の毛を撫でる。


「え、えーと……なんかごめんね?」


 美雪が唯一言える言葉を拓斗にかけるも、


「も、問題ないです」


 拓斗は発言とは正反対の声質で空笑いを溢す。


「あのさ、もしかして相談したいことって恋愛関係のことなの?」

「なんで分かったんですか?」

「この落ち込み方を見たら、誰でも分かると思うけど……」

「……そう、ですか……」

「ま、まぁ、今は元気出してよ。家に着いたら、好きなだけ相談に乗ってあげるからさ」


 自分の言ってしまった言葉に対するフォローが見つからなかったらしく、問題を先送りにする美雪。その代わり、なるべく早く家に向かおうと思っているのか、ほんの少しだけ歩くスピードが早くなる。

 拓斗もそのスピードに自然と合わせる形になり、少しだけ早足になった。

 それから二人は話すことはなくなる。

 拓斗に至っては、美雪に言われたことが少しだけ心に引っ掛かってしまい、そのことについて考え込んでしまっていたからだ。

 美雪は時折、拓斗の様子を確認するために振り返っていた。が、何を考えていることが分かっていたため、これ以上傷を作らないように遠慮していたのだ。

 二人が無言になって数分。 


「もうすぐ着くよ。あそこが私の家だよ」


 ようやく美雪が口を開いたのは自分の家を指差しながらだった。

 

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