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(5)

 その告白に楓はしばらく呆然とした様子で拓斗を見つめていたが、顔を俯かせる。そして、拓斗の肩に頭を置くようにして凭れかかり、


「なんで、このタイミングで言うかなー」


 と、涙声でそう答えた。

 その答えを聞いた途端、拓斗の中ではスゥに見せてもらった最悪の現実が、本当の現実に理解することに時間はかからなかった。同時にあの噂が本当であることも確認出来たため、胸に少しだけ痛みが走ってしまう。しかし、後悔だけはしない自信だけはあった。後悔しないために告白したのだから。

 が、なんて答えたらいいのか分からなかったため、拓斗は言葉の代わりに言葉の代わりに、凭れてきた楓の頭を撫でることしか出来なかった。


「バカだなー、本当に。こんなことしたって許さないんだから」

「……分かってる」

「本当に分かってるの?」

「うん、分かってる。全部、僕が悪いってこと。今まで告白出来なくてごめん」

「……本当だよ、これに関してはたっくんが悪いってことにしとく」

「それでいいよ。告白なんて本当は男からするものなんだし……。楓からきっかけを待ってた僕がバカだったんだ」

「よく分かってるね。それが相談した成果?」

「うん、女の子の気持ちをちょっとだけ分かったのかもしれない。全部は無理だけど」

「それはね。私自身、分からないし」

「僕も僕自身のこと分からないから、お互い様だよ」

「それ言っちゃう?」

「言っちゃう」

「……そっか。じゃあ、告白の返事しないとね」

「え? あ、いいよ、しなくても」


 拓斗はこれ以上、楓に辛い言葉を言わせたくなくて断ってしまう。

 いや、正確には自分がこれ以上、傷付きたくないという気持ちの方が強かったのかもしれない。が、実際どっちもあったため、返事なんて聞きたくなかったのだ。

 それに問いに対して、楓はバッと拓斗から離れて、


「え、なんで!? そこは聞こうよ。じゃないと私の気持ちがすっきりしないよ!」


 と、必死な様子で拓斗の顔を見た。

 楓の表情はさっき以上に泣きそうな表情に変わっており、拓斗はその表情を見たくなくて、顔を思わず逸らしてしまう。


「これ以上、傷付かなくていいんだって。長谷部先輩と幸せになってくれれば、それで僕は満足だよ。後悔しないようにちゃんと告白した。少しの間は引きずっちゃうのは仕方ないけど、ちゃんと前を見て歩くからへい――えっ?」


 その瞬間、拓斗は楓によって強制的に楓の方へ向けられ、右から飛んできた手によって再び左へ強制的に向けられてしまう。

 盛大なビンタ音。

 寒さのせいで敏感になってしまった肌に伝わる鈍い痛み。

 拓斗は一瞬、何が起きたのか分からず、目を丸くしたまま遠くにある砂場を見つめる。が、しばらくして錆びてしまったロボットのように楓の方を見つめた。

 なんで叩かれたんだろ……。

 叩かれた意味が見出せないまま、視界に入った楓の表情は完全に泣いていた。が、同時に怒ってもいた。そのせいで、拓斗は心の中に遅れて湧き上がっていた怒りさえも瞬時に冷めてしまう。


「たっくんのバカッ!!」


 声に響き渡ってしまうほどの怒鳴り声を拓斗へぶつける楓。


「な、なにが?」

「何も分かってないじゃん!」

「は? え? は、はせ――」

「付き合ってるわけないでしょ!? 何をどうしたら、そういう勘違いしちゃうの!?」

「え、え、ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 楓の言葉を聞いた拓斗は絶叫した。先ほどの楓の怒鳴り声に負けないくらい大きな声で。

 それぐらい状況が飲み込めていなかったのだ。

 そんな拓斗を見ながら情けないと言わんばかりに楓は盛大にため息を吐く。

 良いムードが台無しになってしまったことを自覚した拓斗は、慌てて自分の保身に向かい、言い訳をし始める。


「だって、『タイミング云々』って言ったじゃん!」

「それはたっくんの言うタイミングが悪いんだよ。もうちょっと昔の私からのプロポーズの話に華を咲かせて言うのかなって思ったのに、すぐに告白するんだもん」

「あ、悪い。そんな余裕なかった。……っていうか、また僕が悪いことしちゃったなー。あの噂の件で勘違いしちゃったんだよ。もう付き合ってるだったし……」

「ああ、あれね。あの全容教えてあげようか?」

「知りたいかな。あ、いや、その前にやっぱり返事を聞きたい」

「台無しにしたのに?」

「うん、したのに」

「『イヤ』って言ったら?」

「……どうしよう」

「分かった! じゃあ、もう一回たっくんが告白してくれたらいいよ」

「はぁ!?」

「これならいいでしょ? 台無しにした罰だから」


 意地悪をして面白がっている楓の顔が拓斗の目に入る。

 断固拒否の姿勢を取れば、嫌々でも告白の返事をしてくれそうな雰囲気ではあるものの、拓斗にはそんな態度を取ることなんて出来ない。自分自身が良い雰囲気であったものをブチ壊してしまったのだから、その責任は取らないといけない。そう心の底から思ってしまったからだ。

 がっくり肩を落としながらも拓斗は、


「分かったよ。もう一回告白すれば良いんだよね?」


 と、改めて確認する。

 「うん」と頷きながら、目がまた輝き始める楓。

 拓斗はその期待に応えるべく、もう一度口にした。


「好きです。付き合って下さい」


 そう言って、ペコリと頭を下げる。

 前回と同じように長い台詞が言えなかった。それは、前回はドッキリの要素が多かったため、楓の反応をそこまで気にする必要がなかったからだ。だからこそ、拓斗も楓に意識せず、勢いで言うことは出来だ。

 しかし、今回は完全に分かった状態でほぼ言わされたようなもの。緊張が先ほどまでの数倍あった。その状態で躊躇いも見せず、噛まずに言えたことを褒めてほしいと思ったほど。

 拓斗は下げた頭を見て、少しだけ不安そうな表情で楓を見る。


「私もたっくんのことが好きだよ。こちらこそお願いします」


 拓斗が顔を上げるのを待っていたらしく、そう言った後、今度は楓が頭を下げる。しかし、すぐに頭を上げて、


「返事するのも恥ずかしいね」


 なんて恥ずかしそうに楓ははにかむ。

 その様子と返事を聞いた拓斗は我慢出来ずにガバッ! と楓に抱きついた。


「ちょっ、たっくん!?」


 いきなりの抱きつきに楓は動揺した声を上げるも、拓斗はその言葉を聞いていなかった。

 羞恥心というものを知ってから、抱きつく行為をしなかった数年間の隙間を埋めるように拓斗は力強く抱きめてしまう。


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