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「もう、そういうの止めない? 僕に気を使うの」


 拓斗がそう言うと、楓は目を丸くして、慌てて拓斗を見つめる。

 こうして二人は自然と目を合わせることになってしまう。拓斗は今の言葉に揺らがないという信念に近い目に比べ、楓の目は少しだけ潤んでいた。それは、拓斗がそんなことをいうはずがない、という動揺から来るものだった。もちろん、拓斗もそれに気が付いていた。


「ど、どういうこと?」


 楓は動揺を隠しきれないのか、返答は一時的に遅れ、声には動揺を現す震えが含まっていた。


「どうもこうもない。あの噂を聞いた日の帰り道、楓を傷付けちゃったのは間違いなく僕が悪いってことだよ。長谷部先輩の登場は本当にタイミングが悪かったって思うけど、きっと居ても居なくても傷つけてたことには変わりなかったんだ。だから、僕が素直に謝らないといけないんだよ。ごめん、傷つけて」

「え……あ、あの……うん、き、気にしてないよ? うん、気にしてない。私だってたっくんに余計なお世話しちゃったんだし……。変に気遣おうとして、部活までサボったんだから。だから、たっくんだけが悪いってわけじゃないと思うんだ」

「――あの時は複雑だったんだよ。今さらだけど、楓に優しくされたかったし、少しだけ距離をとってもらいたかった。一概に楓だけが悪いってわけじゃないんだよ。楓は僕のことが心配で、僕がして欲しいことをなんとなく分かってて、それで部活までサボって来てくれたんだし……」

「…………うん、そうだね。分かってたんだよ、きっと。それがたっくんにとって迷惑だと分かってたたし、して欲しいとも思ってたことも。突き放されたとしても、きっとそうしなきゃいけないって……思ってたのかもしれない」

「うん、だからさ、ごめん。その優しさに甘えてた」

「ううん! 私は甘えて欲しかったし……。だからね、お互い悪いってことにしようよ。私はたっくんの気持ちを考えずにお節介を焼こうとしたんだからさ」

「……うん、そうしよっか。ただ、今回だけは僕の非が多い所だけは譲らないから」

「別にいいけど……」


 楓は何かを怪しむようにちょっとだけ空いていた隙間を埋めるように、拓斗の方へ身体をずらす。そして、今度は疑いの目で拓斗の目を見つめ始める。


「ねぇ、夕方からこの時間までの間に何かあったの?」


 楓はしばらく無言で拓斗を見つめた後、そう尋ねた。「有無を言わずにちゃんと答えて」、と強制的に発言させる雰囲気を放ちながら。


「なんでそう思うのさ」

「それは、いくつか不自然な点があるから。家にも帰ってないんでしょ? 制服だし、学生鞄持ってるし……。それ以上になんか少しだけ大人になった気がする」

「……そういうことがあったのは否定しないけど、よくそこまで推察出来るよね」

「幼馴染だからね」

「なるほど、その言葉だけで納得させられるのがすごいよ」


 拓斗はここまで見抜かれると思ってもいなかったため、思わず苦笑いが溢れてしまう。

 逆にそれが楓の神経を逆なでしたらしく、


「いったい何があったの!? 教えてよ!」


 と、いつになく気になるらしく、少しだけムキになり始める。

 そこでちょっとだけ悩む拓斗。

 美雪の存在をバラすのは口止めされていないため、バラしても問題なかった。が、見知らぬ人にこのこと相談したと知れば、怒り出す可能性があったからだ。自分では「本能的に」という答えが出ているものの、楓は常識の方でぶつかってくる。ここでまた言い合いをしてしまえば、せっかくの仲直りが無駄になり、告白するチャンスがなくなってしまう。

 そう考えると、拓斗は『美雪の存在は隠す』という選択を選ぶことになった。


「ちょっとだけ相談に乗ってもらったんだよ」

「相談? 誰に?」

「楓の知らない人。その人のことは明日、お礼を言いに行くつもりだから、その時に一緒に来る?」

「え? あ、ううん、いいよ。それで何の相談をしてたの?」

「どうやって仲直りしたらいいのか? って」

「そう、なんだ。たっくんも考えてくれてたんだ」

「僕が考えないでどうするのさ。さっきも言ったように僕に一番原因があるんだから。むしろ、考える必要がないのは楓の方だろ?」

「そんなことないよ。誰とケンカするよりも、たっくんとケンカする方が一番心に来るよ? それだけ私の心に近い人なんだし」

「それは光栄だね。僕も同じだけど」

「たっくんの中でも一番なんだ。良かったー!」

「うん」


 告白するには絶好のチャンスと言わんばかりの会話になってきたため、拓斗は緊張から溢れ始めた唾を飲み込む。そして、その告白しようと口を開く。


「あ、あのさ――」

「それより気になったんだけどさ、なんで公園にしたの? あ、ごめん。何?」


 言葉が被さってしまったことで、拓斗は告白するタイミングを失くしてしまう。

 そのことに気が付いた楓が、


「あ、ごめん。何を言おうとしたの?」


 と、気遣ってくれたが、


「いや、良いよ。あとで話すから」


 拓斗はそう言って、告白することを後に回すことにした。

 それは、この公園に来た理由を話してからでも告白するチャンスを作れるからだった。むしろ、そのことを聞かれるという確信があり、当初の予定の流れに戻ったにすぎないからだ。


「それで公園を選んだ理由だよね?」

「うん、なんで公園にしたの?」

「二人っきりになれるからってのもあるけど、ちょっとだけ昔のことを相談した時に思い出したから」

「昔のこと?」

「あの砂場、覚えてる?」


 拓斗は公園に備え付けてある街灯によって、暗闇の中でもうっすらと見える砂場を指差す。

 その指差された方向に楓も自然と視線を向ける。


「うん、覚えてるよ。ううん、忘れるはずがないよ。だって、子供の時にあそこでいっぱい遊んだでしょ?」

「そうそう。バカみたいに遊んで、泥んこになって帰って、よく怒られたよ」

「それは私もだよー」


 楓はあの時のことを思い出したのか、クスクス笑い始める。

 それを利用して、拓斗は緊張から渇いてしまった口を潤すため、残してあったカフェオレを全部飲み干す。


「その時にした約束を守るために呼んだのが、本当の理由。仲直りはついでなんだよ」

「やく、そく?」

「楓は覚えてないかもしれないけど、楓にプロポーズされて、僕は『うん』って答えたんだよ。だから、それを果たすためにさ」 


 今まで砂場に向けていた顔を楓の方へ向ける。

 すると、拓斗の方を見て、びっくりしていた楓と目が合ってしまう。

 楓の目は少しだけ涙で潤んでいたように拓斗は思えた。それが、その約束のことを覚えているからなのか、それともあの噂の件でもう約束を守れないという暗示なのか、それは分からない。が、どっちにしても気持ちを伝えたかった拓斗は、


「今まで待たせてごめん。僕は楓のことが好きなんだ。僕と付き合ってくれないかな?」


 と、少しだけ早口になりながらもそう告白した。


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