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(2)

 拓斗はしばらく駆け足で住宅街を走った後、少し息が切れた場所で足を止める。

 拓斗の視界に入るのはすでにいつも見ている家たち――つまり、通学路まで戻って来ていた。が、普段はこんな遅くまでこの道を通ることがほとんどないため、気分的に道に迷ってしまいそうな感じになってしまう。

 しかし、そんなことを考えている場合ではないと言わんばかりに、ポケットからスマホを取り出す。そして、ディスプレイに映る時間を確認した後、連絡帳から楓の電話番号を選択。

 耳に押し付けると、二コール後、電話が繋がる。


『もしもし? どうしたの?』


 楓の声はいつも通りの声だった。

 あの時のことを怒っているものでも、悲しんでいるものでもない。ただ、この時間に拓斗から電話することが珍しいという反応の声。

 本当に珍しいから仕方ないか。

 この時間に基本的に電話をすることがない拓斗はそう思いながら、楓の声に少しだけ緊張してしまっていた。

 告白するつもりで電話をしたのは良かったが、話しかけ方についてまで深く考えていなかったからだ。


『おーい、どうしたの―? 間違い電話?』


 そんな拓斗の気持ちなんて知らない楓は、案の定追撃の言葉が受話器から拓斗の耳に届く。


「間違い電話でかけるほど、僕はドジじゃない」

『黙ってるから悪いんだよ? それで何か用? こんな時間に電話してくるなんて珍しいけど……』

「それだけ急ぎの用事があるってことでいいかな?」

『急ぎの用事? 何かあったの?』

「何かあったってわけじゃないけど、話したいことがあるんだ。今から外に出れる?」

『今から!? 門限があるの知ってるでしょ? 無理だよ』

「知ってる。知ってるけど、どうしても話したいことがあるんだ。お願いだから、出て来てくれない?」

『……明日は?』

「今日じゃないとダメなんだ」

『今からかー。んー、ちょっと待ってて。お父さんに相談してくるから』

「うん、分かった」


 拓斗がその返事を返すと同時にゴソゴソという音ともに受話口から一切音声は聞こえなくなる。楓がスマホから離れる際にいつも消音にしてから動くことを知っている拓斗は、いつもでも返事に答えられるように受話器から耳を離さずに待ち続ける。

 その間、拓斗は『もし、家から出られなかった場合』について考え始める。しかし、拓斗は『楓の家の前もしくは楓の部屋で話す』以外の答えは見つからなかった。


「楓の家で告白するのはちょっとなー」


 実際、拓斗の考えでは場所はどうでもよかったが、この時間で楓の家で話すということは、両親に聞かれる可能性があるため、それが嫌だったのだ。

 そんなことを考えていると、受話口からゴソゴソという物音がいきなり聞こえ始める。


『あ、たっくん、聞こえる?』

「うん、聞こえる。どうだった?」

『大丈夫だって。相手がたっくんだから許してくれたよ。頼んでみるものだね』


 受話口からでも分かるほど、楓の声は喜んでいた。

 この時間帯に外に出ることが少ない楓からすれば、自分と話せることに喜んでいるわけではなく、この時間帯に出られることに喜んでいるにさえ感じてしまう拓斗。が、そんなことを気にしている暇もないため、


「じゃあ、待ち合わせ場所は……子供の時にいつも遊んだ公園で」


 と、待ち合わせ場所を指示した。


『え? なんで公園?』

「なんでもいいじゃん」

『んー、分かった』

「外、寒いからちゃんと厚着して来るんだぞ?」

『うん、分かった。準備するから切るよー』

「あ、もしかしたら、僕の到着ちょっと遅れるかもだから」

『うん。分かりやすい場所にいるよ。じゃあ、後でね!』

「うん、また」


 その返事を最後に楓から電話の方を切られる。

 電話している間に息切れも治まっていたため、拓斗は待ち合わせ場所である公園に向かって走り出す。

 拓斗が公園を選んだのはある理由があった。

 いや、それはずっと昔から決めていたこと。

 告白するならば、あの公園でしようと密かに心に秘めていたのだ。

 その理由とはもちろん、あの公園であの約束をしたからだ。拓斗からすれば、全てはあの約束から始まったようなもの。そのことがあるから、ムード的にも良いと感じたのだ。

 それに加えて、スゥが見せてくれた子供の時の幻術の件も含まっていた。公園で告白すれば、姿は見えなくても幼い頃の自分たちが応援してくれるという変な自信があり、そのせいなのか、あの公園で告白するならば上手くいく、と直感がそう囁いたのだ。美雪との会話で得たその本能に逆らうことなど、現在いまの拓斗に出来るわけがなかった。


「やばっ、きっつ!」


 拓斗は不意に足を止めて、脇腹を右手で押さえる。

 最初は駆け足の予定だったのだが、気付いた時には全力疾走になっていたからだ。気分がノっている時は、その状態が長続きするということは過去に実体験していたため、その勢いに任せて走った結果がこれだった。

 が、おかげで公園までもう少しの所まで来ており、公園の周囲に張り巡らされている草木が視界に入っていた。

 もう少しだ、頑張らないと。

 時間的に美雪はもう到着していると思った拓斗は、気合で走ろうと走る体勢になったタイミングで。


「あっ、やっぱりちょうどいいタイミングだった」


 と、後ろから声がかかる。


「え?」


 二歩ほど足を進ませたところで慌てて拓斗は足を止め、息も切れ切れに声を漏らした後、後ろを振り返ると、そこには待たせていると思っていた楓の姿がそこにあった。


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