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「この話は止めにして、最後の質問にしていいですか?」


 何も言えないからこそ、拓斗は美雪にこういうしか出来なかった。

 美雪も首を縦に振り、賛同の意思を示す。


「最後の質問をしますね。なんで、そんな職業に就かなかったんですか? お姉さんのその能力があったら、お姉さんのひいお祖父さんや曽お婆さんみたいに探偵や心理カウンセラーとかちょうどいいと思いますけど」

「んー、それは私の性に合わなかったから。それが一番の答えだと思うよ?」

「でも、こうやって僕の――」

「うん、相談に乗ったね」

「でしょ?」

「それはね、お節介っていう感情が多いの。困ってる人が居たら助けてあげたい、なんて思うのは偽善者と呼ばれても仕方ないことでしょ? 職にするとね、きっとそういう気持ちは長く続かない気がするんだ。あれって最終的にはお金が関わってくるから、人助けっていうよりは『自分の生活のため』になるような気がするの。だから、私の性に合わない」

「えっと……、お節介や偽善者扱いされてもいいから、自分が思ったように行動したい。ってことでいいんですか?」

「うん、その通り。それにね、拓斗くんは私と同じような答えを見つけたから良かったけど、他の人に私と同じような答えを見出せないでしょ? 哲学の話はそんなものだからね」

「そう言われたから、僕は言い直したぐらいですし」

「ね。あくまで私は『こういう考え方もあるよ』って言いたいだけだし」

「はい。その考え方のおかげで僕は成長出来ました!」

「うんうん、良かった良かった」


 美雪は再びその成長を褒めるように、スゥを撫でるのを止めて、拍手し始める。

 撫でるのを止められたせいか、今まで黙っていたスゥが不意に口を開き、


「しかし、あれじゃな。美雪がそうやって仕事として働いている姿が想像出来んのはワシだけかのう?」


 ある種の疑問を拓斗へとぶつける。

 まるで、今まで誰かに相談したくて仕方なかったのに、相談出来る相手が居なかったため、相談出来なかった疑問をようやく口に出した。という雰囲気を出しながら。

 その疑問をぶつけられた拓斗は改めて美雪を見つめる。

 そして、頭の中で誰もが想像する探偵の服装、病院での看護師姿を想像し始める。

 が、探偵姿は即座に却下される。それはあの姿が女性には似合わないからだった。

 そして、次は看護師姿だけに思考を絞る。服装自体は問題なく似合うのだが、次の段階である働く姿を想像してみるも、その姿はあまり鮮明に映し出されることがなかったからだ。というよりも、美雪が誰かに指示されるより、誰かを指示を出す立場の方が似合っており、美雪自身が言うように楽しそうにやっている姿じゃなかった。そのため、イメージが上手く出来なかったのだ。


「えっと、どう? スゥの言う通り、イメージ出来ない……かな?」


 拓斗が想像していることを知り、今まで口を閉ざしていた美雪がタイミングを見計らい、そう尋ねる。その顔は少しだけ不安に満ち溢れていた。

 美雪の表情を見る限り、本来ならば「想像出来ますよ!」なんてお世辞の一つでも言いたかったが、美雪の能力の件で考えを読まれていることを知っているため、


「すみません。スゥの言う通り、イメージがしにくかったです」


 と、素直に自分の感想を言うことしか選択肢がなくなっていた。


「だよねー。うん、それは私自身が分かってるんだけど、これ見よがしに拓斗くんにそれを尋ねるなんてどういう了見かなー?」


 拓斗に否定されたことよりも、そのことを尋ねたスゥへ美雪の怒りの矛先は向く。

 スゥは慌てた様子で美雪の膝から飛び降り、窓際の方へ逃走。そして、言い訳をし始める。


「しょうがなかろう! 尋ねられる相手がなかなかおらぬのじゃから!」

「分かるけど、分かるんだけどね。でも、それは思っておくだけにしておけば良かったでしょ!」

「気になることは尋ねるのがワシの主義じゃ!」

「そんな主義、初めて聞いたんだけどー?」


 美雪は怒りを隠しきれないように、手をポキポキと鳴らし始める。

 拓斗から見たその様は、完全に脅迫しようとする昔の男そのもの。スゥではないものの、拓斗も少しだけ恐怖を感じてしまう。


「ま、まぁまぁ! それは僕が帰った後にでもしてください。もう聞きたいこともあらかた聞き終わりましたし!」


 地雷を踏んでしまった自分自身の身を守るために、こうやって美雪を宥める発言をすることしか出来なかった拓斗。

 スゥは「はぁ!?」みたいな顔をしていたが、余計なことを言えば殺られると思ったのか、口を挟む様子はなかった。

 美雪に限っては「ふぅ」と息を吐いた後、


「そうだね、そうしようかな。これ以上、拓斗くんに私の悪いイメージを付けたくないしね」


 と、反省した様子で笑いを溢す。

 拓斗もまたそれに対して、首を縦に振ることしか出来なかった。


「それで、拓斗くんはこれからどうするの?」

「えーと、連絡は帰りながらします。たぶん、今から待ち合わせしても僕が遅れそうな気がしますから」

「そっか。じゃあ、もうお別れだね」

「はい、そうなりますね。遅くまで相談に乗ってもらってありがとうございました!」


 拓斗は頭を深々と下げる。いくら下げても、土下座しても物足りないぐらい美雪への感謝が尽きない気持ちをこめるように。


「いいよ、気にしないで。ほとんどお節介なんだから」

「それでも、やっぱり僕の中にある鬱憤うっぷんを晴らしてくれたんですから、しっかり言っておかないと」

「そっか。スゥ、そろそろ時間を動かしていいよ」


 美雪はそう言って、スゥを見つめる。

 その合図を待っていたかのようにスゥが頷くと、先ほどとは逆に部屋に張られていた膜がスゥへ向かい吸収されていく。

 それが完全に吸い込まれてから、拓斗と美雪は壁時計を見て、時間が動き始めかの確認を行う。


「ん、ちゃんと秒針が動いてるね」

「はい。これで元通りですね」

「ん、じゃあ帰る準備しようか?」

「はい」

「忘れ物に気を付けてね?」

「スマホしか触ってないので大丈夫です」


 拓斗はそう言いながらもソファー周辺を確認しながら、制服のポケットに入れてあるスマホの確認も行う。無事に入っていることを確認した拓斗は学生鞄を手に取り、ドアの前でドアを開ける準備をしている美雪に、「玄関に行きましょう」の意味を込めた頷きを行う。

 そして、ドアを開けた美雪に導かれるようにして、三人は玄関へと向かった。


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