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「じゃあ……順番的には『生まれつきの件』ですかね?」


 拓斗はほんの少しだけ考えてから、そう尋ねた。


「んー、これって結構難しくなるかもしれないんだよねー」


 美雪は少しだけ言いづらそうにそう拓斗に言った。

 今までのような、どんな質問や愚痴が来ても大丈夫! みたいな雰囲気ではなく、本当に歯切れが悪い言い方。

 その様子を今まで見たことのなかった拓斗は「ん?」と感じてしまう。美雪でもそんな風に歯切れが悪くなってしまうことがあるのか、と考えてしまい、


「あ、あの! 僕のワガママで聞いてるようなものなので、嫌なら無理に話さないでも大丈夫ですよ? お姉さんにはお姉さんの言いたくない話や理由とかあると思いますから」


 と、思わず遠慮の言葉が出てしまうほどだった。

 美雪は遠慮し始める拓斗を見ながら、美雪は苦笑いを溢す。


「別に言いたくないわけじゃないから安心して? 言いたくないわけじゃなくて、これって結構不思議な出来事だから説明しにくいだけ」

「それなら良いんですけど……。お姉さんでも説明しにくいことがあるんですね」

「それはあるよー。他人が言いたいことをある程度、的確な言葉で表すことは出来るけど、自分の言葉を的確に表現出来る人は少ないでしょ?」

「少ないですね。とにかく説明してくれますか? もしかしたら、僕がちゃんと理解出来るかもしれませんし」

「んー、そうだね。考えても仕方ないし。説明するだけ、説明してみようかな?」


 拓斗の言葉を受け、美雪も自己解決したらしく「うんうん」と声を出しながら頷く。そして、説明し始める。


「えーとね。私の曽祖父母が探偵だったんだよ。いきなり始まって悪いけど……」

「本当にいきなりですね。って、スゥの飼い主さんでしたっけ?」

「そうそう、その人たちがそういう読心術的な感じの能力を持ってたんだって。というか、家系がそういう能力を持っている家系なのかもしれないけど、そこは私には分からないからなー」

「あれ、ご両親はそういう能力が覚醒してないんですか?」

「うん、してないよ。……たぶん」

「たぶん?」

「うん、たぶん。だって、その曽祖父母って本当のお父さんの方なんだけど、本当のお父さんは亡くなってるから私が知る前に死んじゃったしね。あ、ちなみにこの家は義理のお父さんの祖父母の家ね?」

「それは気付いてました」

「あ、やっぱり?」

「だって落としたキーホルダーでお父さんが亡くなってるって言ってたのに、この家の説明をされた時、『お父さんを説得した』とか言ってましたよね?」

「聞いて来ないから不思議に思ってたんだけど、そこまで察してたかー」


 美雪はちょっとだけ恥ずかしそうに髪を触りながら笑う。

 あまり自分のことを話すことが得意ではない。

 拓斗はそう感じてしまう。


「とにかくね、そういうわけで本当のお父さんのことは分からないの。分かっていることは、曽祖父母がこの読心術に近い能力で探偵をして、人助けをしてたってこと」

「あれ? 本当のお父さんの祖父母は?」

「亡くなってるよ。私が生まれる前に」

「すみません」


 再びあの時のように墓穴を掘ってしまったかのように、拓斗は即座に謝る。

 一度してしまったことは二度、三度ある。それはことわざにもあるのだが、こればかりは二度も三度も踏んではいけないこと。

 それを分かっていたはずなのに、再び踏んでしまったことに拓斗の心は申し訳ない気持ちで心がいっぱいになってしまう。


「大丈夫だから気にしないで。っていうか、本当のお父さんとの祖父母との思い出が一切ないから他人って感覚なんだよね」

「で、でも……」

「本当のお父さんの祖父母に関しては割り切ってるから本当に大丈夫。だから、気にしないで」

「は、はぁ……」


 美雪のような能力がない拓斗はあまり納得がいかなかったため、そんな返事を返した。が、結局美雪の言葉を信じて、納得するしかないのも事実だった。

 そんな風な拓斗を見ながら、美雪は「あっ」と声を漏らし、


「ちなみにこの能力は生まれた時から持ってたわけじゃなくて、後から目覚めたものだからね? さっきは『生まれつき』って言ったけど、本当に目覚めたのは十歳頃の話だし」


 と思い出したように話す。

 なんで、そんな話をしたのか分からなかった拓斗は、


「え? なんで――」


 そう聞こうとした途中で、


「拓斗くんが聞きそうだったからかな? ちょっと先読みしてみたんだ」


 美雪に止められて、その理由を聞かされてしまう。

 拓斗はその美雪の理由に「あー」と漏らしながら、思わず納得した。

 それは、自分なら目覚めたきっかけを聞くと思ったからだ。現在いまは全然思いつかなかったが、話が進むに連れて、思い出したようにそのことを聞いてしまうような気がした。

 だからこそ、拓斗はその先読みを褒めるべく拍手しながら、


「さすがです、お姉さん」


 美雪にそう言った。


「ありがとうね。って、ついでにきっかけのことも話しておこうかなー。たぶん、これも聞くでしょ? 後天性の発現だから」

「よく分かりますね。考えようもなく、今聞こうと考えてたところでした」

「だよねー。これに関してはあまり深く答えたくないからぼかすけど、ちょっと色々な人の相談や愚痴を聞くことがあってね、そのせいなの。これで勘弁してくれる?」


 美雪の口調はその説明の部分だけ暗くなってしまう。

 本当に言いたくない。

 あまり思い出したくない。

 絶対に深く聞かないで。

 そんな棘が口から発される言葉一句一句に含まれているように拓斗は感じてしまう。

 お姉さんも話したくないことの一つや二つあって当たり前だよね。

 人間として当たり前のトラウマに近いものを理解した拓斗は、美雪に言われた通り、そのことについて深く追究することをあっさり諦める。

 当たり前のように拓斗の心を読んだ美雪は、ホッとしたような安堵の表情を浮かべ、小さく息を吐いた。


「ごめんね」


 そして、なぜか謝罪をする美雪。

 その言葉に逆に拓斗が焦ってしまい、


「謝らないでください! お姉さんが悪いわけじゃないんですから。悪いとしたら、時間を取らせてまで、こんな質問をしている僕なんですから!」


 と、フォローを入れる羽目になってしまう。

 しかし、美雪はあまり自分自身で納得いかないような顔をしていた。 

 拓斗は、それだけで美雪がどれだけ責任感が強い人間か分かってしまう。それが原因でこの能力まで目覚めてしまったことも。が、その能力に対してのフォローの言葉は見つからなかった。いや、見つかるはずがなかった。自分がその能力を持っていないため、かけられる言葉が最初からなかったのだから。


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