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(6)

 拓斗は美雪の言葉にビクッと身体を震わせて、反応が一瞬遅れつつも首を振り、


「い、いえ! そんなことないです! そんなことないですよ!」


 急いで否定する。

 相談に乗ってもらっている立場でありながら、美雪にそんな失礼なことを考えていた、と思われたくなかったからだ。いや、思うことは自由であったとしても、それを悟られたくなかったのである。

 しかし、美雪はジッと拓斗を見つめていた。怒っているわけでもなく、その反応を楽しんでいるかのような表情で。


「諦めるのじゃな。美雪は小僧の挙動と反応の全てで、心を読み取るぞ」


 その反応が無意味だと言わんばかりにスゥが拓斗にそう声をかける。

 や、やっぱり!

 確信はなかったが、スゥに言われるより前にそのことに気が付いていた拓斗は、心の中で声を荒げる。同時に隠し事が通じないことも悟り、情けない様子でため息を吐き、


「すみません。ロクでもないことを考えてました」


 と、素直に頭を下げる。

 美雪に対して出来ることが、これぐらいしかなかったからだ。

 しかし、美雪はそれに対して責める様子はなく、


「いいよいいよ。拓斗くんが考えてることぐらい分かってるから」


 なんて笑いながら、拓斗の負い目を吹き飛ばし始める。


「えっと、ちなみになんて考えてたか、当ててもらえますか?」

「私よりもスゥの方に相談に乗ってもらったような気がする。じゃないかな?」

「当たってるし。しかも、迷うことなく答えるし、本当にお姉さんはすごいですね」

「そうでもないよー。私は他の人より生まれつき? 他人の行動に敏感なだけだから」

「敏感だからって、ここまで言い当てることは出来ないですよ」

「そうかな? 私が拓斗くんの考えてることが分かった理由、教えてあげよっか?」

「え、良いんですか?」

「うん、良いよ。拓斗くんもきっと納得がいくと思うし……」

「ぜひともお願いします」


 願ってもない質問に拓斗は頷く。

 美雪が簡単に自分の考えていることを当てる理由を少しでも知りたかったからだ。

 それに、時には誰にも口外できないような秘密を持つことがあった場合、これから美雪に教えて貰うことを気を付ければ、上手く隠し通すことが出来ることが出来るかもしれないと考えたからだった。


「じゃあ、言うけどいい? 覚悟出来てる?」


 美雪はその考えさえも読み取ったように、ワザとらしく尋ねる。

 その溜めが拓斗にとって緊張を煽るものでしかなく、口の中に溢れ始めた唾液を一度飲み込み、


「大丈夫、です」


 と、答えた。


「うん。じゃあ言うよ。私が拓斗くんの考えてることを読み取れたのは――」

「読み取れたのは?」

「それはねー、拓斗くんが私とスゥをチラチラと交互に見ているせいでした!」


 美雪は溜めに溜めた後、人差し指を立てて、あっさりと答える。

 その回答に対し、拓斗は思考が停止してしまっていた。

 それはどういう反応をしていいのか、分からなかったからだった。

 拓斗が反応出来ない間を埋めるようにスゥが口を開く。


「美雪よ」

「何? スゥ」

「その回答は反応が取りにくいだけじゃぞ」

「でも、本当のことだから」

「それは分かるのじゃがな。うん、美雪からすればウソを吐いておらぬからこそ、小僧の期待を裏切ったのじゃ」

「『顔に書いてある』の方が良かったかな?」

「きっとそういう問題でもないぞ」


 スゥは情けなくため息を漏らす。

 美雪とスゥの会話に拓斗は思わず苦笑していると、スゥに声をかけられる。


「小僧よ」

「何?」

「こんなこと誰もが出来るわけではないから安心せい」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「当たり前じゃ。出来るのは……そうじゃのう。探偵や心理系に通ずる者、つまり人の挙動で物事を解決する職業の奴らばかりじゃ」

「探偵や心理系かー」


 拓斗は顎に手を置いて、少しだけ考え始める。

 それは拓斗が一度は学んでみたいと思っているものの一つだったからだ。ただ、興味があるだけで、本格的に手にしたいと思うものではない。あくまで関心がある程度の認識だった。が、この流れでそのことが話題に出たということは、これからの自分に何かあるのだろう、と思った拓斗はそのことについて美雪へ尋ねることにした。


「あの……美雪さんはどうやって、その心理系の知識を手に入れたんですか? もしかして、職業がそういう探偵とか心理系の職業なんですか?」

「ううん、職業は普通のOLだよ。それに、この知識はさっき言った通り、生まれつき。だから、私から拓斗くんに教えられることなんて何もないよ」

「そうやって先読みしないでもらえます? 流れを理解してもらえるのは嬉しいんですけど、僕の言葉が詰まってしまいますから」

「ごめんごめん。どうも、心を許し過ぎるとそういう風なことを自然にやっちゃうタイプみたいなんだよね」

「それを言われると、悪い気がしないのが不思議ですね」

「あはは。心を許してるからね」

「それより、生まれつきってどういうことなんですか? しかも、心理系の職業じゃないって、そういう職業についてもいいと思うんですけど……」

「同時に二つ質問されても困るから、一つずつ解決していこうかな。っと、その前に拓斗くん、時間大丈夫なの?」


 美雪はそう言って、拓斗へ時計を見るように促す。


「え?」


 拓斗はそれに従うように時計を見ると、すでに九時半になろうとしていた。


「あ、やばっ! やる気が出ている今日の内に告白したいのに……」


 時計を確認した拓斗は少しだけ慌て始める。

 拓斗の家の門限は0時までに家に帰ればいいことになっている。もちろん、遅くなることが分かった時点で連絡を入れることは必須となっているものの、ちゃんと連絡を入れたら怒られることはない。

 しかし、楓の家には22時という門限がある。これでも高校生になってからはかなり緩くなったものであり、中学生まで20時までだった。それほど、両親が娘の心配をしている証なのだ。


「あ、やっぱり門限あるんだ。じゃあ、もう行かないとね」


 美雪は拓斗の発言から、そう言い聞かせるように話すも、


「あ、あの! 明日とかまた来てもいいですか!? じゃないと、きっとモヤモヤすると思うんですよ! このチャンスを逃したくないんです!」


 と、拓斗は本能的に感じた『チャンスの喪失』という考えに従い、美雪へ食いつく。

 拓斗がまさか食いついてくると思っていなかったのか、美雪は驚いた顔をした後、すぐに困った表情へと変わる。

 あまり自分の力について話したくない。

 そんな表情をしていることに気付くが、


「お願いします!」


 と、拓斗は咄嗟に土下座までしてしまう。

 それほど、美雪へ興味があったのだ。


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