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「じゃあ、僕が得た解答こたえを言いますね」


 拓斗は説明する前に一度軽く深呼吸を行う。

 その解答が間違っているなんて思ってはいない。自信はあったのだが、それでも外れてしまっていることを考えるとドキドキしてしまっていたから。が、意を決して、得た解答を口に出す。


「お姉さんが言いたかった解答は、『解答はない』が正解だと思うんですが、どうですか?」

「うん、それは間違ってないね。なんで、そう思ったの?」

「スゥに見せてもらった幻術で、結婚を約束する場面なのは知ってますよね?」

「知ってるよ。そのシーンを見せるようにしてたらしいし」

「その約束って実は変に軽いノリの約束だったんですよ。僕が長年ずっとそのことに縛られていることがバカらしく思えるほど。下手をすれば、楓も忘れてしまってるぐらいに」

「え、そうなの?」


 美雪はそれを確認するように、拓斗の頭の中を確認したスゥを見つめる。

 尋ねられたスゥは、


「じゃから、美雪にも『見るか?』と聞いたんじゃろうが。それを拒否したのはどこの誰じゃ」


 と、不満を隠すことなく答える。


「いや、それは……ほら……ねー? 拓斗くんに許可を貰ってないのに勝手に見るのはダメでしょ」

「はいはい。ともかく、小僧の言う通り、ガキの戯言みたいなものじゃったぞ」

「ふーん。そっかそっか。うん、分かった。それで?」


 スゥからの真偽がとれた美雪は再び拓斗へ顔を向ける。


「それで、簡単に約束しちゃったんですよ。ツッコミを入れたくなるぐらい、簡単に」

「うん」

「んで、考えたんです。なんで、こんなにもあっさり楓の言う言葉に返事しちゃったんだろうって」

「あ、それを言い出したのは楓ちゃんの方なんだ」

「あ、そうです。言い忘れてました」

「ううん、平気だよ。考えてみたら、女の子の方がそういうことを考えるの早いからね」

「みたいですね」


 ついさっき見た楓の発言から、美雪の言ったことを納得出来た拓斗は思わず笑ってしまう。

 それにつられるように美雪もクスクスと笑い始める。

 一通り笑った後、拓斗は続きを止められた会話の続きを話し出す。


「まぁ、それでなんで幼い頃の僕がそんな約束を受け入れたか、を考えたんです」

「うん」

「きっと、何も考えてなかったんだって。だから、あんな風に将来に関わる重要な約束をいとも簡単に受け入れたんだって」

「言い方としては結構酷いよね、それ」

「かもですね。でも、もっと考えてみれば、きっかけなんてなかったんじゃないかって思ったんです。子供だからこそ、純粋な気持ちで好き嫌いがはっきりしているんじゃないかって。もし、好きじゃなかったら、楓ともあんな風に一緒に遊んだりしないと思った。だから、『好きになったきっかけ』とか『どこを好きになったのか?』って聞かれて困るのは、解答が最初からない。だって、本能的な何かで好きになっちゃってるから」

「なるほどねー」


 美雪は腕を組み、「うんうん」と頷く。

 拓斗自身、言葉が足りなくて、上手く説明出来ていない。その自信はあったが、それでも一生懸命、自分が持てるだけの言語能力を駆使して話したつもりだった。ただ、美雪の「正解」という言葉が欲しくて。


「上出来なんじゃないかな? うん、正解だね! 私が考える解答と同じだよ!」


 そんな拓斗の願いが叶ったかのように、美雪は今までにないぐらいの笑顔を浮かべて、パチパチと拍手し始める。

 スゥもまた、


「うむ、よくやったぞ」


 そう言いながら、尻尾をユラユラと揺らしていた。

 その言葉をいくら望んでいたとはいえ、まさかここまで的中していると思っていなかった拓斗は、一瞬固まってしまう。そして、しばらくした後、


「よっしゃあああああ!」


 と、大きな声を上げながら、ガッツポーズをした。

 認められた。

 一歩成長出来た。

 その喜びが拓斗の中で一気に湧き上がり、これからやること全て全部上手くいく、と思って

しまうほどだった。


「ほーら、拓斗くん落ち着いてー」


 拍手を続けていた美雪だったが、拍手より大きな音で手をパンパンと叩いて、テンションが上がった拓斗を宥め始める。


「あ、は、はい!」


 拓斗は美雪の言葉に従い、大きく深呼吸をした。

 そうでもしないと拓斗は落ち着かない自信があったからだ。


「すみません、ちょっとだけテンションが上がりすぎて……」

「ううん、いいよ。仕方ない仕方ない」

「いやー、まさかお姉さんの考えと一致するなんて思ってもみなくて……」

「それは私も、かな? ね、スゥ」


 そう言って、美雪はスゥを見る。


「そうじゃのう、ワシも小僧がその答えを見つけてくるとは思ってもなかった。やはり、美雪の思考によって、小僧の考え方も引き上げられたみたいじゃのう」

「ねー。まさか、ここまで拓斗くんがしっかりとした解答を見つけてくるなんてねー」

「本当じゃったら、『きっかけ』の方を見つけてくると思ったんじゃがなー。結構、それっぽいところあったしのう」

「あ、そうなの?」

「あ、そうなんだ」


 美雪の反応に重なるように、拓斗もそうスゥに尋ねる。

 今でこそ、あの時の場面は簡単に思い出されるものの、それより前後の記憶は未だに思い出せていないのだ。


「んむ。ワシは小僧の記憶を全部見たからのう。だから、分かるだけじゃ。しかも、ワシは完全な第三者。小僧が楓とやらに惚れそうなきっかけぐらい、何個か見つけることが出来た。ただ、それだけの理由じゃ」


 二人の疑問に対し、スゥは何でもないことのようにその質問に答えてみせる。

 その答えを聞いた拓斗は、「なるほどー」と返事を返すことしか出来なかった。それぐらい納得がいったからだった。

 スゥがいたからこそ、ここまで成長出来たんだな。

 同時に拓斗はそう思った。

 スゥが居たからこそ、あの最悪な未来を見ることで『勇気』が生まれ、お姉さんが考える答えを導き出すことが出来た。下手をすれば、『美雪よりもスゥに感謝すべきなのではないか?』と思ってしまうほど。


 その時、拓斗の中にある疑問が思い浮かぶ。

 それはスゥが居なかったことを考えた場合のことだった。

 美雪一人でここまで、自分を導くことが出来たのか?

 美雪と同じ答えが出なくても、勇気を出させてくれることが出来たのか?

 今となっては分からない問題だったが、そのことを拓斗が考えていると、


「また何か考えてるでしょ? きっとロクでもないことを」


 なんて、美雪が拓斗の考えていることを見透かしているかのように、意地悪な笑みを浮かべていた。


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