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「そういうことで今日はありが――」


 拓斗はこの勢いのまま告白しようと立ち上がろうとすると、


「ちょっと待って! 拓斗くんにまだ話したいことがあるんだから!」


 美雪が慌てて引き止めにかかる。

 これ以上話すことがないと思っていた拓斗にとって、美雪が引き止める必要性と話したい内容が分からず、半立ちの状態で動きを止める。


「なんですか? 勇気が出ているうちに告白しておきたいんですけど……。それに時間が……」

「時間?」

「はい。もう十時ぐらいに――」


 そう言いながら拓斗は壁に掛けてある時計を確認。


「……あれ? え?」


 時刻は八時四十分手前。

 体感的にもっと時間が経っていると思った拓斗は呆気に取られてしまう。

 拓斗の驚きに反応したのはスゥ。


「幻術で体感時間でも狂ったみたいじゃな」

「あー、そっか。スゥのせいか」

「……二日ぐらいかけて見せてやった方が良かったか?」

「いや、それは困るよ。でも実際、幻術の半日分ってここでの時間って何分ぐらいだったの?」

「――十分ぐらいかな」


 拓斗の質問に美雪が答える。

 じ、十分!?

 予想外の時間の短さに拓斗は驚いてしまう。が、幻術をかける際にそういう設定が出来ることを思い出す。


「だから、こんなに時間が経ってなかったのか……」

「そういうことだね。そういうわけで私との会話に付き合ってもらいたいんだけど、どうかな? というより、拓斗くんにとって一番大事なことを思い出させてあげるから」

「大事なこと? 勇気よりもですか?」

「そう、勇気よりも」

「そんなのないでしょ?」

「あるんだよ? スゥの手助けがあったから簡単に勇気を出すことは出来たけど、こんなことをしなくても、勇気を出させる方法はあったの。順番的には、その()()()()()の流れで勇気を出してほしいってのが私の流れだしね」


 そこまでして美雪が聞かせたいことが気になった拓斗は、


「じゃあ、話を聞きます。でも、時間的にはキツそうなので簡単にお願いします」


 ソファーに腰を下ろしながら、ちょっとだけ早口でそう答える。


「ん、ありがとう。でも、聞かせるというよりは拓斗くんの過去の話になるから、結果的には私が聞く側になるんだけどね」


 拓斗が話を聞く気になってくれたことにホッとした様子で、胸を撫で下ろす美雪。

 そんな中、スゥだけが少しだけ不満そうな表情をしていた。


「えっと、どうしたの?」


 スゥの表情が気になった拓斗はそうスゥに尋ねると、


「なぜかのう。ワシのしたことが余計なことした扱いになっておるのは……」


 と、不満の表情を美雪に向ける。


「気のせいだよ」


 美雪はスゥの方へ視線を向けると、気まずそうな雰囲気もせずにあっさりと言い切った。

 さすがにそうやってあっさり言いきられるとスゥも追及することが出来なくなってしまったのか、口を閉ざす。

 あー、これが狙いかー。

 拓斗はスゥを黙らせるためにこんな冷たい態度を取ったことに気付く。

 拓斗がそのことに気付いたことに美雪も気付いたらしく、ウインクをして、そのことを言わないように口止めを行ってきた。

 これ以上時間を取られたくなかった拓斗は、それに素直に頷き、


「それで、お姉さんが僕に聞きたいことって何ですか? それを話すことによって、僕はそれを思い出すみたいですけど……」


 そう尋ねた。


「楓ちゃんのことが好きなのは分かったんだけど、好きになった理由を聞いてなかったよね。だから、そのことを聞きたかったの」

「好きな、理由?」

「うん、好きな理由」

「言ってませんでしたっけ?」

「聞いてないよ」

「あれー、そうだったかなー」


 言ったつもりでいた拓斗は「んー」と首を傾げながら、スゥを見る。二人だと「言った」「言ってない」の押し問答になるため、その判断を仰ぐためである。

 そんな拓斗の意図に気付いたのか、


「言うてないぞ。突っ込むべきところは一度聞いた人間が、再びそれを聞くのかということじゃ」


 と、聞いてないことまで答えてくれた。

 スゥの余計な一言に拓斗は納得し、


「なんか疑ってすみません」


 そう美雪に頭を下げる。


「ううん、いいよ。気にしないで。結果的に行動が最初に決まっちゃったからね。順番が逆になったら、そんな気分になっても仕方ないから」

「はい。えーと、好きな理由ですよね」

「うん」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「あれ?」

「どうしたの?」

「いえ、そう言われると好きなところが分からないような気がして」

「分からない?」

「はい。一般的に好きな理由で『優しくしてくれるから』『気を使ってくれる』とかありますよね?」

「あるね。一応、それも好きな理由に入ると思うよ」

「でも、僕と楓の関係って幼馴染じゃないですか。だから、『僕のことを気にしてくれる』とか『僕に優しくしてくれる』とかって、幼馴染として昔からの当たり前の行動なんじゃないかなって思って。そのことに今、気が付いたんですよねー。なんでだろ?」


 拓斗はそのことが不思議で首を傾げる。

 美雪に出会うまではその優しさに惹かれていた。いや、ずっと見てくれていたことが分かっていて、そうやって気にかけてくれることが嬉しくて好きだったのだ。なのに、現在いまはそれが好きな理由じゃないような気がしたのだ。


「……思考が美雪に引っ張られておるみたいじゃのう」


 拓斗の悩んでいる解答を答えるスゥ。「こんなことが起こるとは」みたいなびっくりした表情をしている。


「思考が引っ張られる?」


 言葉としての意味は分かるものの、そういうことが起こる理屈が分からない拓斗はスゥを見て尋ねる。


「単純は話、頭の知能が上の奴の考え方に下の奴が引っ張られるって話なだけじゃ。もっと簡単に言うのであれば、察しが良くなると言うた方が良いかのう」

「あー、そういうことかー」

「つまり、小僧が疑問に思ったことをバカ正直に答えておれば、美雪に突っ込まれておったということじゃな。良かったのう、そのことに気付けて。また悩む時間が増えておったぞ?」

「……ありそうだから言わないでよ」


 スゥの言う通りのことが想像出来た拓斗は、困った笑いを溢すことしか出来なかった。


「引っ掛からなかったかー。ちょっとだけ残念だなー」


 美雪はそう言いながらも「うんうん」と満足したように頷いている。まるでその様子は、自分が伝えたいことをすぐにわかってくれるかも、とそんな期待に満ちた表情だった。

 

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