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「これで何の問題もなく、幻術をかけることが出来るな。ワシの目を見ろ、小僧」


 スゥは美雪の許可出たことが嬉しいらしく、口端を歪めながらそう拓斗に命令を出す。

 拓斗は緊張から口の中に湧いてきた唾を飲み込みながら、スゥの目を見ようとした時、


「ちょっと待った。許可は出したけど、ちょっとだけ待って」


 スゥの目を隠すように美雪の手が伸びる。


「まだ何かあるのか?」

「あるに決まってるでしょ。拓斗くんに言っておかないといけないことがあるの」

「僕に?」


 スゥではなく、自分に話があると言われた拓斗は、美雪の方へ顔を向ける。


「言っておくけど、追い込まれて勇気が出るとは限らないんだからね? もちろん、幻術が解けた後に励ますつもりだけど、そんなに落ち込まないこと。それをしっかりと理解しておいてね?」

「分かってます。大丈夫です。ちゃんと幻術だって頭に入れておきますから」

「ん、ならオッケー。じゃあ、スゥ、よろしくね」


 目元を隠していた手を退けて、スゥの頭を撫でる。

 その行為に自然と目を閉じながら、気持ちよさそうに、


「美雪は甘いのじゃ。ほら、それを止めい。目が閉じて、幻術をかけられないじゃろ」


 と、嫌がる様子はなく、そう美雪に注意を促す。


「はいはい、分かった」


 美雪はしぶしぶとスゥの頭から手を離す。許可は出したものの、やはり完全には納得出来ていないらしい。

 拓斗はもう一度、スゥへと視線を向ける。


「小僧、ワシの目じゃ。ワシの目に集中しろ」

「分かった」


 言われた通り、拓斗はスゥの全体ではなく、目だけに意識を集中させる。

 すると、スゥの目が一瞬ピカッと光り、拓斗の身体はガクンと自然にソファーに凭れかかり、心地よさそうな寝息を立て始める。


「うむ、成功じゃな」


 スゥは成功したことに安堵するようにホッとした一息吐いた。

 そして、美雪を見ながら、


「相変わらずの策士じゃの」


 と、美雪に対して悪態をつく。


「何が?」


 スゥの発言に対して、美雪は意味が分かっているように笑みを溢し、足を組みながら尋ねた。


「何を言っておるのじゃ。ワシが『幻術をかける』と言った瞬間から、こうなることを望んでおったくせに。なぜ、ワザと戸惑った表情を見せたのじゃ?」

「拓斗くんは臆病だからね、きっかけを作らないとダメだと思っただけだよ。そう考えた場合、私が迷う姿を見せたら拓斗くんは食いつく可能性が高かった。それだけだよ」

「その賭けに勝ったわけか」

「正直言うとね、こんなことしなくても拓斗くんを説得出来る手段はあったんだけど、スゥが手伝ってくれるっていうから、ついね」

「『つい』のう。少なくともワシを部屋に招いた時点で手伝わせるつもりじゃったろう?」

「あー、失礼な! そう言いながら、部屋に入れなかったら後で文句言うくせに!」

「当たり前じゃ! この部屋の空気が好きなのじゃ!」

「……あっそ」

「信じておらぬな!?」

「それ、違う部屋でも聞いたからね。言葉は正確に使いましょう」

「うぐぐ……」

「正確に言い直してください」

「うぬぬ……はぁ……分かった分かった。『美雪が居る部屋が安心するんじゃ』。これで良いか?」

「よろしい。っていうか、拓斗くんは大丈夫なの?」


 美雪はソファーに深く凭れかかっている拓斗を見つめる。寝顔はすでに辛そうな表情をしており、心にダメージを追っていることが手に取るように分かってします状態。

 スゥもまた拓斗を見ながら、


「大丈夫じゃと思うか?」


 と、大丈夫でないことを示唆する発言で尋ね返す。


「ううん、絶対に大丈夫じゃないよね?」

「手を抜かぬと言うたじゃろう。じゃから、小僧が『幻術をかけられている』という意識をちゃんと消しておいた。つまり、小僧が見ておるのは夢ではなく現実という状態じゃ」

「あらら、それは辛いね」

「他人事みたいになっておるぞ?」

「結果的には拓斗くんが望んだことだからね。私が同情するのも変じゃない?」

「小僧の話を聞いて、泣いておった美雪はどこへ行ったのじゃろうな」

「あれはあれ、これはこれでしょ? ま、これで()()()の気持ちも思い出して欲しいんだけどなー」

()()()とはどの時のことじゃ?」

「それは拓斗くんが戻って来てからのお楽しみということで。どっちみち、その時の話はするしね」

「ほう、それはそれで楽しみじゃのう。お主の『探偵の力』がどんな解答出したのか、見える瞬間じゃな」


 スゥはニヤニヤしながら、期待した様子で美雪を見つめた。

 しかし、美雪はその言葉に対して嫌そうな表情を浮かべ、


「私はそんな立派なものじゃないの。それに探偵だったのは私の曽祖父母たちでしょ? 隔世遺伝して、そういう『謎を解く力』はあるけど、あくまで興味やお節介レベル。ドラマとかであるようなものじゃないの。どっちかっていうと心理カウンセラー寄りでしょ。そのことを分かって言ってるスゥの意地悪」


 そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、再びトレイに二人分のカップを乗せ始めた。


「それで幻術が解ける時間はいつなの?」

「十分ぐらいじゃな」

「じゃあ、おかわりを作ってくる暇はあるね」

「そうじゃな」

「かなりヤバそうになったら、ちゃんと幻術解いてあげるんだよ?」

「分かっておる。解く前にちゃんと美雪を呼ぶ。いつも通りの流れじゃろう?」

「うん、分かっているならよろしい」

「早く行って来い。無駄話ほど時間の無駄遣いもあるまい」

「はいはい」


 そう言って、美雪は部屋から出て行く。

 部屋に残されたスゥは眠そうに欠伸をした後、身体を丸め、苦しむ拓斗の様子をジッとつまらなさそうに見守り始める。


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