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「それで美雪よ、小僧に『勇気』を出させる手段は見つかっておるのか?」


 スゥは拓斗に「勇気は生まれたか?」と聞かず、ワザとらしく美雪に尋ねた。もはや、拓斗自身に『勇気』を生む力がないと判断したからだ。

 そのことを理解かった拓斗だったが、突っ込むことはしなかった。いや、本当のことだったから出来なかったのだ。

 スゥにもとうとう僕の心を見透かされちゃったか……。

 そう思うことが拓斗の精一杯だった。


「んー、難しいねー」


 質問された美雪の方も回答が見つからないらしく、腕を組み、考え込んでいた。


「じゃあ、どうするのじゃ? このままではこの相談は終わりそうにないぞ?」

「分かってるよー。ううん、勇気の出し方なんて、私が指示するものじゃないってことも分かってる」

「やっぱりそうなるかー」

「それしかないでしょ? ほら、テレビのCMのあれと同じだよ。やる気スイッチ探さないと……」

「また懐かしいCM出しましたね……」


 拓斗は美雪の言うCMを見たことがあるので、少しだけ懐かしい気持ちが湧き上がる。そして、「あのCM、まだやってるっけ?」と最近のテレビのCMを思い返してみるも、最近は見てないことに気付く。

 つまり、あのCMは廃れてしまったのだろう。

 そう結論付ける。


「でも、あれと同じなんだよねー。実際の所、拓斗くんってそこまで深刻に考えてないでしょ?」

「え? 深刻に考えてない? そ、そんなことないですよ!? 深刻に考えてますよ! だから、悩んでるんじゃないですか!」


 美雪の予想外の発言に拓斗は動揺してしまう。

 なぜ、美雪がそんなことを言ってきたのか、そのことに対しての理解が追いつかなかったからである。


「人間って追い詰められすぎると、とんでもない行動に出ちゃうものなんだよ。最近の子供が親を殺したり、親が子供を殺したりのニュース見てる? 介護疲れやニートの子供を殺したりする事件で」

「それは今でもありますよね」

「あれって実際追い詰められてるからだからね? 私は被害者……私の思う被害者は加害者の方だけど、気持ちは分からなくもないと思ってるの。自分の時間を潰され、誰も助けてくれない、相談出来ない状況で精神的に追い詰められたせいで衝動的に! っていう気持ちはね。だからと言って、『それが正解か?』と言われると違うけど……」

「きょ、極端な話過ぎませんか?」

「でも、これぐらい極端な方が結構分かりやすいでしょ」

「その通りですけど……」

「つまり、拓斗くんの様子を見る限り、まだ余裕があるんだよ。精神的に追い詰められてないせいか、楓ちゃんなら大丈夫だと思ってるのか、あの噂を信じきっていないか、考えれば考えるだけあるけどね。だから、悩んでるのは本当だけど、注意報止まり。警戒レベルには達してないでしょ?」

「それを言われたら……」


 美雪の言葉を聞いて一瞬だけ考え、


「……そうかもしれないです」


 と、素直に答える。

 確証はないけれど、美雪の言う言葉はある程度自分の本心を代弁しているものがあるからだ。だからこそ、否定することが出来なかった。なによりも「楓ちゃんなら大丈夫」と言われた時に、拓斗の心に痛みが走ったからだ。この痛みは否定するものではなく、間違いなく心の端で思っていたことを当てられた時の痛み。つまり、そう考えていると気付かされた瞬間だった。


「ふむ、ワシの力でそれを現実にしてやることも出来るのじゃがの」


 スゥは拓斗の甘さに対しての対処法の一つを提案するも、


「それはそれで拓斗くんに言っちゃってるからダメ」


 美雪が即座に否定する。


「言わなければオッケーじゃったのか?」

「そういう問題じゃないけどね」

「それではどういう問題なのじゃ?」

「まぁ、拓斗くんが実際どう思ってるかだよ。『楓ちゃんを本気で手に入れたい』と思ってるのか、それとも『今の関係のままダラダラ進んでいきたい』のか。それは私が拓斗くんに指示するものじゃないし、何よりは拓斗くんが決めることだよ」

「じゃとよ、それで小僧はどうしたい?」


 スゥは改めて拓斗の方を見つめながら問いかける。

 拓斗の中では言うまでもなく、答えは決まっていた。いや、あの噂が耳に入った時点でどうしたいかなんてことは確定済み。しかし、気持ちだけが上手く働いてくれない。だからこそ、どうすればいいのか分からない。美雪の言うやる気スイッチさえもどうすれば入ってくれるのか、それが分からない。

 だからこそ、気持ちは決まっていたとしても拓斗はスゥの質問に答えることは出来なかった。

 そんな拓斗の心情を察したのか、


「ダメじゃな。やはり美雪の言う通り、スイッチの在り処が分からんらしいな。美雪、幻術をかける許可を寄越すのじゃ。こやつは体験しないと分からんタイプじゃぞ」


 スゥは呆れた様子を隠すことなく、そして残酷なことをあっさりと言い放つ。

 しかし、美雪は悩んだ様子で拓斗を見つめ続けている。判断に悩んでいるみたいだった。というよりも、そんな残酷な場面を体験させたくないのだろう。そんな風に美雪の目が語っていた。


「スゥ、僕に幻術をかけてくれないかな?」


 そんな迷う美雪の代わりに、拓斗がそう頼むことにした。

 その発言に対し、美雪は、


「え、ちょっと拓斗くん!?」


 と、少し上擦った声を出した。


「大丈夫です。たぶんスゥの言う通り、僕は実際に体験しないと分からないタイプみたいですから」

「それでも、これから見るのは本当に心が痛む場面なんだよ? 楓ちゃんの見たくない場面を見るかもしれない。それでもいいの?」

「見たくない場面?」

「うん。拓斗くんよりもその先輩を選ぶ様子とか……さじ加減はスゥの判断になるから分からないけど」

「……」


 そう言われると、やはり拓斗の中に迷いが生まれてしまう。が、それがダメなんだ、とその迷いを消し去るように頭を左右に振って、


「やらないとダメなんです! きっと変われない! そう思ったら、スゥの気遣いを無駄にするわけにはいかないような気がしたんです! だから、お願いします!」


 深々と頭を下げてお願いする。

 その様子を見ていたスゥは「くっくっく」と邪悪な笑みを溢し始めた。自分の仕掛けた罠にハマったことを楽しむような雰囲気を出しながら。


「言っとくが容赦はせぬぞ? 手加減をすれば、小僧のためにならんからな」

「……分かってるよ。それでも体験出来るなら、それに越したことはないと思うからさ」

「そうじゃな。ワシがこうやって手を貸すのは珍しいのじゃから感謝するが良い。そういうわけじゃ構わんぬな?」


 そう言いながら美雪の許可を得ようと、スゥは美雪を見つめる。

 拓斗の真剣な姿を見た美雪は『許可を出す』以外の選択肢はなく、呆れたようにため息を漏らしながら、


「分かった。拓斗くんがそこまでしたいなら、私が止める権利はないね」


 と、しぶしぶ許可を出した。


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