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 叩かれた……?

 そう判断するまで一瞬遅れる拓斗の脳。

 驚いたらいいのか、それとも怒り返せばいいのか、それすらも分からないぐらい反応に困ってしまっていた。


「どれだけ浅田のことをバカにするつもりなんだよ! 君は嫌かもしれないが、浅田は本当に心配してるんだぞ! 分かってるのか!」


 勇もさすがに我慢の限界らしく、拓斗に向かって怒鳴りつける。

 が、拓斗は何も答えない。いや、勇の言っていることが最もだからこそ、反論出来る言葉が見つからなかった。だから、沈黙してしまった。


「何とか言えよ!」

「……」

「何があって、浅田の優しさを無下にしてんだよ!」

「……」

「長谷部先輩! 私なら大丈夫ですから! たっくんは調子が悪くて、イライラしてるんですよ! だ、だから止めてください!」


 今まで勇の行動に驚き、拓斗と同じく思考停止していた楓が慌てた様子で二人の間に入る。

 怒りに満ちているとはいえ、拓斗とは違って勇は素直に胸倉を掴んでいた手を離して、拓斗から距離を取った。


「いくら体調が悪くてイライラしてるからって、こんな扱いされて良いわけないだろ。なんで、そいつをそんなに庇うんだよ」

「それだけの理由があるんです。だから、分かってください!」

「それだけの理由って……。分かるように教えろよ」

「……そ、それは――」


 楓の口ごもった理由を拓斗は察することが出来た。

 それは例の噂の件。

 それで拓斗が傷付いていることを知っているからこそ、楓は言えなかったのだ。


「たっくん、無理に心配してごめんね。私が悪かったから、もう帰っていいよ。体調悪いんだし、早く家に帰ってゆっくりしないとね」


 勇との会話を中断し、楓は拓斗に向かって弱々しい笑顔を向ける。傷付いているが、それを誤魔化すために気丈に振舞っている無理な笑顔だった。

 拓斗はその笑顔を見て、さらに自分の心の傷を広げてしまう。が、それに対するフォローや慰め、ツッコミも何も出来なかった。


「……ありがとう」


 何も出来ない拓斗に残されたのは、感謝の言葉を述べる。たったそれだけだった。

 楓に聞こえたのかも分からないぐらいの小さな声で言った拓斗は、その場から全力で駆け出す。

 勇から逃げるために。

 楓の優しさからも逃げるために。

 そのまま振り返ることなく家まで着いた拓斗は自分の部屋に直行。ドアを開けて部屋の中に入り、学生鞄を壁にぶつけるように投げ捨てると、ベッドに潜り込んで全力で泣いた。

 自分の無力さ。

 楓に冷たい対応しか出来なかった自分の幼さ。

 勇の正論に反論すら出来なかった自分の情けなさ。

 そんなぐちゃぐちゃになった感情を吐き出すように、拓斗は声を上げて泣いた。

 両親の帰りが遅いことに感謝しながら。


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