(6)
「お姉さんが言いたいことって『信頼』とか『信用』が大事って言いたいんですよね? 違いますか?」
拓斗は促されるまま、美雪が求めた解答を述べる。
美雪はその答えに満足したらしく、首を縦に振った。
「その通り。人間ってのはあくまで自分のことを良く見せたい人間なの。『なんで見せたいのか?』っていう解答に関してはさまざまだけど、簡単に言うならば悪い所を見せて幻滅させたくないから」
「そうですね。さっきまでの僕がそうでした」
「うん、その通り。でもね、私から言わせてもらうとそれは大間違い。人間なんだから格好良いところだって悪いところだって、その人の魅力なの。この世の中に悪いことをしない人間はいない。極端な話、犯罪だけじゃない。意味もなく虫を踏み潰したり、誰かを知らずに傷つけてたりする。何気ない行動、何気ない一言、それが全部何かに繋がってる」
「話の幅が広すぎです」
「ごめんね。とにかく私が言いたいのは、その隠してることも話してほしいの。それを聞いて初めて、拓斗くんの求めてる答えを答えられるかもしれないから」
拓斗は小さくため息を吐く。
ここまではっきりと言われてしまうと言わざるをえなくなってしまっていた。
それだけ美雪が真剣だということが嫌というほど伝わってしまったのだ。
が、それでも幻滅されてしまうかもしれないという恐怖が拓斗の心から拭えることはない。それだけ酷いことをしてしまった、と拓斗自身が思っているからだった。
「――分かりました。ちゃんと話します。だけど、ほんの少しだけ時間をください」
「うん、それは別にいいけど?」
「あっさり許可を出すんですね?」
「え? どういうこと?」
「お姉さんのことだから、『そういうのは勢いで言うのが一番だよ!』みたいなことを言うのかと思ってました」
「あー……そういうのは勢いで言うのが一番だよ! ほら、はーやーくー!」
拓斗の言葉に乗るように美雪はお茶目に、下手をすれば子供のように拓斗を急かす。
そんな美雪のいきなりの変貌ぶりに拓斗はどう突っ込めばいいのか分からず、言葉が出なかった。
結果、二人の間に沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは拓斗。
「自分を犠牲にしてまで緊張をほぐしてくれてありがとうございます」
また首から上だけを下げるようにして、お礼を述べた。
「うん……そうだね。本当に犠牲になっちゃったよねー……」
そんなつもりが一切なかったように美雪は視線をわざとらしく逸らし、拓斗の方を見ないように呟く。
「ちょっとだけ心にゆとりが生まれたような気がするんで結果オーライってやつですよ!」
「フォローになってないよ、それ。拓斗くんの意地悪」
「あ、あはは……」
「本当に私が普段はやらないようなことをやっちゃったからいけないんだけどさー」
美雪はそう言いながら唇を尖らせる。
拗ねてる雰囲気出してるけど、やっぱり気を使ってくれたんだ。
拓斗がそう気付くには時間はいらなかった。
だからもう一回、お礼を言うことにした。
「本当にありがとうございます。これで話す勇気が出ました」
「はいはい。私が恥ずかしいから早く話してくれる?」
「そうですね。お姉さんのために話します。あれはその日の放課後のことです」
そう言って、あの日の続きのことを拓斗は話し始める。




