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Two Hearts  作者: シ皮糸文
第一章
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魔法使いの少女

二人と別々に本を探していたブラックだが、それらしき本が見当たらずぽつりと一言。

「ねーな、畜生…。」

がしがしと頭を掻く。

「あ、あのっ。」

「?」

振り向くとブラックと同い年くらいの大人しそうな女の子が立っていた。

少したれ目で瞳は緑、髪は長くふわふわしていて薄い水色をしている。

服は白いローブの下に黒いセーター、太腿までの丈のスカート、そこから下には黒いニーソックスが見えた。

「何?」

苛立ちを抑えながら答える。

「あなたも、記憶を取り戻す方法を探してるんですか?」

「まーな、俺のツレが記憶を失くしたっつーか何と言うか…。」

「私も、母の為に調べてるんです…。」

俯きながら言う。

「記憶喪失に?」

「はい…。一月ほど前から突然そうなってしまって、ずっと放心状態なんです。

 食事は食べてくれるんですけど、ベッドから動けなくて…。」

「大変だな…、父親はいないのか?」

そう聞くととても悲しそうな顔をしたため、

「いや、無理に話さなくてもいい。俺は赤の他人だしな。」

と慌てて前言を撤回した。

「ブラック、その方は?」

イールとルリィが隣に歩み寄る。

「ああ、この人も記憶を取り戻す方法を探しているらしいんだ。えっと名前は…。」

少女は、はっと顔を上げ明るい顔をして、

「ユミルと言います。」

と無理やり作ったような笑顔を見せた。

その後三人も自己紹介をし、ブラックが話を切り出した。

「ユミル、あんたはこの町の人間だし俺たちより詳しいだろう。

 俺たちは記憶を奪う魔法やファカルティの情報を探しているんだが、いい本はないか?」

ユミルは口元に手を当て考える仕草を見せて言う。

「少なくとも、記憶を奪う効果のある魔法なんて物は聞いたことがありません。」

「じゃあファカルティなのかな…。」

イールが呟く。

「ファカルティ全書という本があるので、もしかしたらその中に似たような物があるかもしれません。」

そう言うとユミルは近くにあった梯子を持ってきて、一段ずつ上り始めた。

短いスカートの為、上っているときに中が見えそうになり、イールとブラックは慌てて目を逸らした。

本を一冊手にしてユミルが梯子を下りてきた。

「これがその本です。」

と、分厚く大きな本を見せながら言う。

こっちに、と言われてついていくと、大きな長机があった。

その内の一脚にユミルが座り、本を広げて索引を見出した。

イール達はその周りに立ち、ドキドキしながらユミルの次の一言を待っていた。

「あ、これかな。」

三人は一斉に身を乗り出そうとして、互いの頭をぶつけて悶えた。

ユミルはくすっと笑い、これだと思います、と指さしながら見せた。

[『忘却の彼方(アムネシア)』:他者の記憶の一部、または全てを奪い取る力。

 奪った記憶は水晶のような球体となり、どんなことをしても破壊することはできない。

 また、この能力を使った者の腕には徐々に体を侵食していく黒い刻印が刻まれ、

 これが胸まで達した時にその者は死ぬと言われている。

 ちなみに、記憶は一人分しか奪うことができず、記憶を奪われた者、

 奪った者のどちらかが死亡したとき、水晶と共に刻印は消滅・還元する。

 この水晶は記憶の持ち主の体に触れると消滅し、奪われた記憶は全て還元される。]

イールが目を見開いて呟く。

「水晶のような球体…。これだ!」

彼の大声に反応して、他の客たちは顔をしかめながらこちらを見る。

「す、すいません…。」

頭を下げて再び本に向き直る。

「間違いない、これだよ。」

ブラックが体を起こして言う。

「『忘却の彼方(アムネシア)』…ねぇ、でも何でお前が狙われたんだろうな?」

「さあ…、殺すつもりなら僕が気絶している間にでもできたし、犯人の目的は一体…。」

ルリィがそんな疑問を吹き飛ばすように言う。

「目的なんて、捕まえてから聞けばいいじゃない。

 とりあえず、腕に黒い刻印がある男を探せばいいってことが分かったから良しとしよ?」

その通りだ、と思ったイールは、ユミルにお礼を言って図書館を後にしようとした。


出口まで来て、ユミルが険しい顔をして言う。

「あの、最近通り魔が出るらしいので気を付けてくださいね。」

「通り魔…?」

三人の顔が少し陰る。

「はい、夜中に出没して人を刺しているようなんです…。」

時計を見ると今は午後3時、まだ夜にはなっていない。

「わかりました、気を付けます。ユミルさんもお気をつけて。」

そう言ってイールは扉に手を掛け、ルリィと共に外に出た。

「あんた、一人じゃないのか?」

とブラックが問う。

「え、は、はい…。」

「いつ頃帰るんだ?」

「8時くらいに帰ろうかと…。」

「じゃあ帰り道は俺がボディーガードになってやるよ。一人じゃ危ないしな。」

「え、でも…。」

「ここで会ったのも何かの縁だろう。それに手伝ってくれた恩を返したいしな。」

「あ、ありがとうございます!」

ユミルは笑顔を零した。

イール達にその旨を伝えて、ブラックはユミルと共に図書館に残った。

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