ファカルティ
辺りはすっかり暗くなり、今日はブラックの家に泊めてもらうことになった。
自警団を抜ける旨は団員達に伝えたそうだ。
家への帰路にて、ブラックが思い出したように言った。
「そうだ、俺、妹がいるんだが覚えてないか?」
イールは首を横に振った。
「そっか…。置いていく訳にもいかないし、あいつも誘ってみるかな。」
手を頭の後ろに組んで歩きながら呟いた。
その後はお腹が減った、高速移動歩法についてなどといったことを話しながら歩いていた…。
「さあ、着いたぜ。」
三角の屋根にレンガ造りの壁、至って普通の家である。
ブラックは徐ろにドアを開け、
「ただいまー。」
と言うと、二階から、おかえりー、と女の子の声が聞こえた。
「ルリィ、イールが来てるぜー。」
するとドアを開け、階段を下りてくる足音が聞こえた。
「あ、イールさん!久しぶりー♪」
屈託なく笑う少女の顔を見て、自分の頬が少し赤くなっているのが分かった。
髪は茶色でセミロング、前髪を右から左に流している。
素直にかわいいと思い、懐かしさを感じた。
以前会っていたであろうときのものよりも、もっと以前に会っているような…、そんな感覚がした。
「今日はどうしたの?」
「実は…。」
事情を話し終えると、ルリィは口をぽかんと開けていた。
「つまり、イールさんは記憶を失って…というより奪われて、
お兄ちゃんがその男を探す旅に同行するってこと?」
「そういうこった。んで、お前を一人にしちまうことになるのが心配だし、
どうせなら連れて行こうかと思ってな。」
「行く、行くよ!」
即答だった。
「イールさんにはお兄ちゃんがいつもお世話になってたし、恩返ししたいと思ってたしね!」
「よし、じゃあ明日の朝出発しようぜ。」
二人とも同意した。するとルリィが、
「ところで、記憶がないってことはファカルティも使えないの?」
「ふぁ…?何て?」
ルリィとブラックは顔を見合わせ、頷いた。
「とりあえず上がって?居間で説明するから。」
イールは言われるままに、ブーツを脱いで上がらせてもらった。
居間の椅子に座り、先ほどの話を再開する。
「それで、それって何なの?」
「ファカルティって言うのは魔力で自分のイメージを具現化したもののことを言うの。例えば…。」
彼女は細身の剣を持ってきて、剣を抜いた。
「ちょ、ちょっと…!?」
「まぁ見てろって。」
ブラックに肩をぽんと叩かれる。
彼女は自分の胸の前に剣を掲げ、祈るように目を瞑った。
すると剣が光り出し、すぐに光は消えた。
イールがしかめっ面をしていると、
「やぁやぁ、イール君。久しぶりだね。」
「!?」
ブラックでもルリィでもない男性の声が聞こえた。
声の主を探すが見当たらない。
「ま、まさか…。」
「これは私のファカルティ、『命無き者との対話』って言うものなの。
私が手で24時間触れていた物は、私が触れている間は声を出したり
意志疎通をすることができるようになるの。
こういう特殊な能力のことを総称してファカルティって言うの。
同じファカルティでも性能には個人差があって、人一人が習得できる数は大体三~四つって
言われてるんだけど、これも個人差があってたくさん習得可能な人もいれば、
一、二個しか習得できない人もいるらしいよ。
私は今はこれの他にもう一つあるんだけど、それは機会があるときにね?」
「そういうことだ。理解していただけたかな?」
また剣が語りかけてきた。
ぶんぶんと頭を縦に振る。
信じられないが、実際に話している以上信じる他ない。
「俺のファカルティは戦闘向けの奴が一つだけだが、万能で困ったことはないぜ。明日見せてやるよ。」
ブラックが言った。
「僕にもこんな力が…?」
「ああ、俺が知ってるのは一つだけだがな。ま、明日のお楽しみだな!
「そうだね。とりあえずご飯にしよっか。お腹すいてるでしょ?」
ルリィは剣をしまいながら二人に声をかけた。
(…そうだった、腹ペコなんだった。)
急に空腹感が襲ってきて、お腹がぐーと音を立てる。
恥ずかしがる様子を見て、二人とも笑い、イールもつられて笑った。
時刻は午前0時、イールは空き部屋のベッドの上で、仰向けになって天井を眺めていた。
「ファカルティ…、記憶を取り戻すきっかけになるといいけど…。」
眠気に誘われ、十分と経たぬ内に寝息を立てたイールだった…。