死人の定義
気が狂いそうな程規則正しい時計の音で、俺は目覚めた。
「え……と。あれ?」
間抜けな声を上げながら、必死で頭を働かせる。
大体、今居るこの部屋はなんなんだ? 机と壁掛け時計しかないとはシンプルにすぎる。というかちょっと待て。ドアすらないじゃないか。
こんな場所に覚えなどあるはずもなく、当然のこととして自分でやって来た記憶もない。
思い出せ。最後に覚えているの何だ?
昨日は職場の同期連中と3時間もカラオケで馬鹿騒ぎをした挙句、飲み屋を何軒かハシゴして……タクシーに乗った。
その後の記憶が曖昧だ。何かの偶然が働いて、無意識のうちにここまで来てしまったのだろうか?
考えが頭打ちになってきたので、俺はとりあえず周りを見渡してみることにした。
これまた至ってシンプルな四角机の上に、なにやらメモ書きが置いてある。
俺はそれを手にとって音読した。
『あなたは死にました。』
瞬間、俺の中に強いイメージが後頭部を殴打されたかのような衝撃と共に流れ込んでくる。
頭に響く衝撃。舌に残る鉄の味。暗転する視界。
──ああ、そうか。
俺は、死んだのか。
自分でも驚きな程の理解の良さだった。
「まぁ……いいか」
深いため息と共に呟く。
別にそれほどやりたい事があったわけでも無し。彼女も、好きな娘もいたわけでも無し。
両親に先立ってしまったのは少々申し訳ないけど、それを考えてもしょうがない。
人間、どうせいつかは死ぬのだ。
未練が無いうちに死ねた俺は幸せだったのかもしれない。
ふと顔を上げると、さっきまでは存在しなかったドアが現れていた。なるほど、そういうことか。
「オーケイ神様。今行きますとも」
神など信じた事も無いクセに、なぜか得意げに呟いてドアに手をかけた。
「──ん?」
気が狂いそうな程けたたましい目覚ましの音で、俺は目覚めた。
「え……と。あれ?」
間抜けな声を上げながら、必死に頭を働かせる。
使い古した座敷布団。毎朝同じ時刻に聞こえてくるけたたましい電車の音。
なんてことは無い。俺の部屋だ。
夢、か。
「怖い夢だったな」
俺はそう呟きながら、気だるそうに出社の準備を始めた。
別に死ぬことが怖いわけじゃなく、
“死んだことをあっさり認めた自分”が怖かった。
もしかして俺は、もう死んでいるのかもしれない。
相当昔に書いたものなので、多少荒い部分もありますが個人的には短くまとまっていて好きです。
予断ですが、物書き授業の「起承転結」という課題において担当教諭に「文句無しの」
評価をつけられました。
高校レベルで ですけれど(苦笑