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交際の意味を考えてみる。

 バイトをすることになった。好きな時間に来て、好きな時間に帰って良いし、休みも自分都合で良いとかいう、とんでもない好条件の。仕事内容はとにかく雑用だそうだ。更に時給も良い。破格と言っても良いだろう。

 あまりにもおいしい話しすぎて、どんなあやしい仕事をさせる気だと思ったのだけど、その仕事をちらつかせた本人は、ちゃんと普通の仕事だと言い張る。

 胡散臭かった。

 しかも簡単な面接だけで決まった……というより、あれは一般的には立ち話というような気もする。

 何でこんな事に……と、思いながら、でもおいしい話にうっかりつられて、今、私は会社のドアの前に立っている。

 何でこんな事になった。

 面接相手はすぐ隣にいる。

「本気ですか」

 未だ状況がつかめず、私は聞き直してみた。

「冗談で会社になんか連れてくるか」

 そう言われても、ここまで来て未だに冗談にしか思えないのだから仕方がないと思う。

「……ていうか、大河くん、何者ですか。さっきから俺の会社とかいってましたけど、「俺の勤めている会社」じゃなくって、「俺の所有している会社」ですか、もしかして」

 まあ、もしかしなくてもそうなんだろうな、と、自分の一存でバイトを雇うのをきめたり、条件決めたりしているところを見て思う。ていうか、仮に社長でも、そこまで緩く決めて良いのかよって思わないでもないけど、良いからやっているのだろう。どんなに緩い会社なんだと思わないでもない。家族経営か、そうか。いや、それとも、一人で設立して経営しているというヤツか? でも、このビルのフロアの一角を借りてやってる訳だし、ていうか、ドアの向こう、人の気配するよ。


 私はさっき出会ったばかりの男の人に、ビルの中の一室に連れ込まれようとしていた。

 なにやら仕事の打ち合わせがあるとかで、約束の映画を見せられないからと、とりあえず会社に連れ込まれることになった。いや、もう、映画は良いからって言ったのに、問答無用で連れ込まれている。

 連れ込まれたと言ったら、人聞きの悪い事を言うなと怒られた。だったら連れ込まないで欲しいと思う。

 あからさまにこの状況はおかしいだろう。と、思う。

 ちょっとマテ、と。突っ込みたくなるのはおそらく人情だと思う。

 普通に考えて、この脈絡はおかしいのだから。おかしいけれど、なっているのだから、たぶんこの世の中がきっといろいろ間違っているんだろうと思う。

 私の手を引っ張ってここまで連れてきた、私好みのイケメンさんは、安達大河という。

 名前で呼べと言われたので、名前で呼ぶことにした。

 なのに、「大河くん」と、ちゃんと名前で呼んだのに、すごく複雑そうな顔をされた。

 なぜ?! よべって言ったの、自分なのに!

 でも、文句を言われたわけではないし、他にどう呼べばいいのか分からなかったので、大河くんとそのまま呼んでいる。


「ただいまー」

 大河くんが緩い挨拶をしながらドアを開けた。

 私はその後ろに続く。

「深月、こっち」

「社長、その子、どこでナンパしてきたんですか?」

 からかうように声がかかる。

「俺の雑用に雇うことにした。俺のだから手ぇだすなよ」

「うわ、何っすか、その職権乱用!」

「うらやましいか」

「マジでうらやましいっす!」

 うん、なんか、このノリ、納得がいった。

 緩いな。うん、緩い。

 その後、簡単に紹介され、簡単に挨拶して、契約書とか後で作るとかで、結局そのまま雑用に任命された。

 ちらりと話を聞いた感じ、社長業は、いろいろと残業が多いらしい。で、その間の人手が欲しかったという事らしかった。学校が終わってから夜までの間のアルバイトを探していた私と、ちょうど需要と供給が合っていた。なので、学校が終わってから来て、大河くんの仕事が終わったら終わりという、何ともいいかげんな時間割の仕事らしい。猫の手程度で構わないから、気楽に物を頼める相手がよかったんだよ、と説得された。

 ちょっと待って。気楽に物を頼めるって、さっき会ったばっかりなんですけど。その微妙な信頼と安心感はどこから来たんですか。

 ていうか、そういえば私も大河くん恐くないし、ここまで付いてきているし、そこはお互い様なのか。普通なら絶対について行かないし、逃げてるし、そもそも名前を教えたりしないよね!

 微妙なラインでうっかり納得してしまいました。

 私と大河くん、どこかで通じ合っちゃったんだね、きっと! と、思うことにした。

 で、思い出したんだけど、そう言えば、大河くん私と付き合うとかどうとか言ってたよね。……通じ合ってても、アレは冗談だと思うことにした。

 うん、綺麗さっぱりその辺りは覚えてないことにする!

 ということで、「ええ? そんなの、あって良いの?」とか思わないでもないけど、この日からちゃっかりと、学校が終わったり、手が空いたりしたら会社に行くのが日課になりました。




つづく。

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