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ナンパとキスと恋愛事情  作者: 真麻一花
本編

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3/9

交際宣言です。

「じゃあ、まあ、今日は、俺、ホントに時間ないから、映画とかホント無理なんだけど、今度埋め合わせするから、機嫌直しとけ」

 私が見つめる先で、お兄さんが困ったように言った。

 え、ああ、そういえば、そういう話をしてたね。お兄さんの怖さとキスでうっかり忘れていました!

 って、ちょっとまって。ていうことは、お兄さん、また私と会う気?

 いや、いいから。こんななんかごーいんぐまいうぇいな、でも私好みのイケメンお兄さんと会っていたら、私の神経持たないから。

「もう、良いです。でも、そこの近くのケーキ屋さんでケーキを四つ買って下さい。それで許してあげます」

 手ぶらで帰るなど、あり得ぬ!

 こんな恐い思いして、ファーストキスを奪われて、このままさよならとか、また会うとかないから。

 私は、彼を引っ張って、近くのケーキ屋さんを指した。

「そうか。じゃあ、今回は、それな」

 彼が少しほっとしたように笑って、そして私の頭を撫でる。

 この人、私をペットか何かと勘違いしてないか?

 ぺしっとその手を払うと、お兄さんは楽しそうに笑った。

 何でそこで笑うかな?!

 そして、家族みんなの分と、私の分は何と余分にもう一個合わせた、なんとケーキを五個も買ってもらって、今日のことは許してあげることにした。自分の分をどっちにするか悩んでいたら、両方買ってくれるなんて、なんていい人だろうって思ったね!

「ありがとう!」

 私の二個分のケーキがうれしくて、少し浮かれた私はお兄さんにお礼を言った。

 うん、ちょっと恐かったけど、ファーストキス奪われたけど、お兄さんかっこいいし、ケーキ買ってくれたし、許してあげよう。

 私の気分はおおらかになっていた。現金とでも何とでも言ってくれ。甘味は世界を救うのだ。ケーキばんざい! みんなケーキで幸せになって、争いをやめたらいいと思う。

 礼を言った私に、お兄さんがにこっと笑った。

 今までの笑い方と全然違った。すごく柔らかくて、すごく優しい笑い方。

 うあ……かっこいい……。

 いっつも、こんな笑い方したらいいのに……。

 一瞬見ほれた私は、慌てて思ったことを否定する。いつもこんなに笑われたら、私、耐えられません。

「おまえ、俺のこと、好きだろ?」

 思わず頬が熱くなってしまっている私を見てお兄さんが言った。

 ……ん?

 そういわれると………どうなんだろう。顔は、もちろん好きだ。声も言い声をしている。体つきについては言うに及ばず……いや、素直に言おう。大好物だ!(力説)

 だけど、それらは全部オプションだ。

 おにーさんのことが好きかと言えば……。

 悩んで、私好みのその顔をじっと見つめた。

「おい、そこは真剣に悩む所じゃないだろ」

 はっとする。

「あっ、そうですね。うん、好きです、好きだと思います」

 うっかりと、マジレスするところでした。こういうレスポンスは、基本的に上辺だけで、礼儀的に行う物だよね! 社交辞令というやつだね! 私、うっかりしてた!

 満面の笑顔を浮かべた私に、彼が突然腕を伸ばしてきて、私のほっぺをぐにっとつかんだ。

「思いっきりスルーしたな、おい」

「えええ!! 真剣に悩んだら突っ込んだくせに、マナーを重んじたらスルーしたと文句言われ、一体私にどうして欲しいんですか!」

 あんまりだ。横暴だ。

「社交辞令で言われてもうれしかねぇよ」

 文句だけ言って答えてくれないし。

 あ、でも、もう会うこともないし、良いか。

 うん、面白かったし、イケメンさんだし、いい体してたし、そういう事でいいや。

 返事のないお兄さんに、これは、きっと、もうこのタイミングでさよならと言うことだろうと「はっ」と気付く。そうだった、さっきから用事があるって言ってたし。ごめんごめん、うっかり絡んじゃったよ。

 うん、もう許してあげるし、良いよ! おわびのしるしももらったし。すごい笑顔も見たし。

「じゃあね、お兄さん」

 私は、今日のこのことは冥土の土産だと、お兄さんの笑顔を脳裏に焼き付ける。いや、まだ死ぬ気はないけどね。

 そして手を振って別れようとした私は、お兄さんの手によって阻まれる。

 掴まれた腕。

 私をなんだかまじめな顔で見ているお兄さん。

 な、何でしょう。まだなんかありますか。


「なあ、俺ら、付き合うか?」


 は?

 何を言ってるんですか。そんなまじめな顔してジョークとか、きついですよ。まじめな顔してるからうっかり本気にしそうになったじゃないですか。

「いやです、お兄さん恐いから、いやです」

 はっはっは! と、笑って言ったら、お兄さんがにっこり笑った。

「おまえの意見は聞いてない。よし、じゃあ、決まりな」

「聞いたよ、さっきお兄さん聞いたよね?! 決まってないから! 名前も知らないし、無理!」

「俺、安達大河。おまえは?」

「あ、私は、篠原深月です」

 どうもよろしく~。

 ……って、うっかり名乗っちゃった!

 しまったと思ったときには、遅かった。お兄さんはにやっと笑っている。

「じゃ、名前も分かったことだし」

「いやです、お兄さん、恐いですから!」

「俺のどこが恐いんだ。おまえが怖がったからキスもやめただろ」

「いえ、おにーさんは、普通の人とは違う、何か恐い空気を纏っています、私みたいな一般人の手に負える物ではありません、では!」

 爽やかに笑って、背を向けて立ち去ろうとしてみたけれど、私の腕をつかんだお兄さんの手は離れない。

「逃げられると思うな?」

 腕を掴まれて、耳元で、ふぅっと息を吐くように、低く言い声が響く。

 ぞくぞくぅうっと、背筋に寒気がした。

 そ、そんな良い声で言ったって、ダメなんだから……!!

 でも、ちょっと気持ちいいとか思ったのは、ぐっと見ないふりで対処せねば、なのですよ。

「へぇ? 俺の声、好きか?」

 ば、ばれてるぅぅぅ?

 まあ、声だけじゃないけどね! 顔も好みだけどね! ついでに体もね! むしろそれ(体)が一番重要!

「声が好きでも、無理な物は、無理なのです!」

「大丈夫だ、俺が気に入ったんだからな、……深月?」

 ひぃぃぃ!! だから、耳元はやめてぇぇぇ! しかも甘く名前を囁かないでぇ!


 この後、住所も、携帯の番号も、全部うっかりと聞き出され、お兄さんと付き合うことになっていました。

 ちょっと待てぃ! 私は了解してないから! ていうか、そもそも順番を間違えているから!

「「付き合って下さい」「(頬を染めながら)はい……」という最も初期的な何かをすっ飛ばしたのでアウトです」

「ちゃんと深月のレベルに合わせて「付き合う」って明言してやったんだ、文句言うな」

 今、なんかバカにされた気がした! ちょっとお兄さん、それはちょっと、そこに正座モノの発言ですよ。お付き合いをするのなら、ちゃんと段階を踏むのが当然でしょう!

「大人のつきあいには必要ないからな」

「それは大人とか子供とかいう問題ではなく、人間性と、品性の問題だと思います! ついでにお兄さんが言うといやらしいです」

「今更お兄さんはないだろう? 大河だ、た・い・が。しかもいやらしいとか……そうか、深月もそういうことに興味あるんだな。俺が教えてやろうか?」

 お兄さん、ずるいよ……!

 その顔と声で口説かれたら、うっかりいろいろ流されちゃいそうになるじゃないですか。

「……違うな、俺が教えるんだったな、なんせ、お付き合いするんだからな?」

 み、認めてないんだからね!!

 こんな釣り合いがとれないって言うか、遊ばれてるよね? みたいな状態で、そんなの、付き合うって言わないんだからぁぁぁ!


 結局そのままなし崩しに「付き合う」事が決定され、気がつけば探していたアルバイト先まで彼の会社ですることになっていて、あれ? 何でこんな事に? と気付いた数日後には、なんかいろいろ遅かったのでした。

 あれ?


 そして、今日も私は餌付けされていたりする。

 仕事が終わった彼から今日も声がかかる。

「深月、晩飯行くか」

「はーい」

 ………あれ?


 何でこんなことになったんだっけ……?




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