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第四節:風が連れてきた再会





翌日。


午前中は畑の手伝いをした。




午後は昼食を食べた後、祠へ向かう。




『昨日の神社に行ってくる』




そう言うと、ばーちゃんから、


『しっかり拝んできんさいよ』と、五円玉を渡された。




『あ……』




そういえば、じーちゃんと祠へ行く時も、


必ず神社の賽銭箱に五円玉を入れて拝んでいた。




昔の記憶に浸りながら、受け取った五円玉を握りしめる。




神社の石段まで、歩いて五分程。




ここからが大変。


高さがバラバラの石段を上がってゆく。


小さい頃もここを登るのは大変だった。




すでに息があがる31歳。




いやいや、31歳、馬鹿にするなよ。


パワハラ上司め、三十路過ぎた行き遅れですって…?


誰が行き遅れですか。


こっから味が出てくんのよ、私は。




私は確かに"のろま"かもしれない。


けど、一歩一歩確実に登っているんだ。


こうやって、石段を登るようにね。




イヤな上司と、日々のストレスを蹴散らすように、私は階段を踏みしめ、着実に上がっていった。




階段を登り切る前に、どっしりと構える石の鳥居が現れる。




木漏れ日の中、佇む鳥居。




これが幻想的で、いつもここでじーちゃんと立ち止まっていたものだ。




鳥居に頭を下げて、また階段を上がる。


すると拝殿が現れ、それを横目に回り通ると、開けた広場が広がった。




昨日はここで火を焚いて、それを囲むように屋台が出ていた。




その先の段差の高い石階段の向こうに、木造の幣殿と本殿が佇む。


狛犬に見守られながら必死に足を上げて階段を登ると、ようやく幣殿に辿り着いた。




じーちゃん曰く、幣殿は"入母屋造り"でその奥の本殿が"神明造り"という造りらしい。


今思えば、建築に興味を持ったのは、この頃からかもしれない。




幣殿の賽銭箱に五円玉を投げ込む。




二礼して。




――パン、パン




と、二拍手。




静かにお祈り。




その間、木のざわめきと、鳥の鳴き声が森に響き渡る。




心が洗われるような気分。


小さい頃は気付かなかったが、どこか神聖なモノを感じる。




目を開けて、幣殿をじっと眺める。


じーちゃんはいつもそうしていたなぁ。




ふと真似をしていた自分が面白くて、私はひとりで笑った。






さぁ、いよいよだ。




あの祠へ続く獣道を、私は登り始める。


山なりに続く道なき道。


額から汗が流れる。


息が上がってきた。




『ええぞ。その調子じゃあ』




じーちゃんの声援を思い出す。




じーちゃん、久しぶりに来たよ、秘密の祠。




風少年くん、いるかなぁ?


私のこと、覚えてるかなぁ?




いろんな想いが私の胸に溢れてくる。




「もう、少し……」




光の差し込む、秘密の祠。






やっとの思いで、その(いただき)に足を踏み入れる。




「はぁ、はぁ」




私は、息を整える間もなく、祠とその向こうの景色へ近付いた。




田舎の町を、一望する。




青い空が広がり、


森で小鳥たちがさえずる。


山が秋色に染まり始めて綺麗だ。


土の匂い、木の香り……


その中には、昨日のお祭りの匂いも感じる。






しかし、そこに、彼の姿はなかった。






会えないかもしれない、とも思っていたが、


思いの外、彼との再会が楽しみだったようだ。






肩を落とす私。






すると、ふわりと優しい風が頬を撫ぜた。




爽やかで、柔らかくて、


なんて心地良い風だろう。




「風少年くん、かな?」




私は、彼に会いたかった。






私のことを覚えているかわからないけれど…。




たくさん話を聞いてくれて、嬉しかった。


突然いなくなって、ごめんなさい。




今までの私の話も、聞いてほしいな。






それと……






貴方は、私の壊れそうになっていた心を救ってくれた、恩人です。




「ありがとう」




風を感じながら、私はつぶやいた。






この風……


太陽の温かさを運ぶ、この風が、彼ならば……




この想いだけでも、届くといいな。








私は暫く風の余韻に浸った。








私には見えなくなってしまった"風少年くん"。




感謝の念を、この風に送る。




今出来ることは、それしかない。








その時――。








「また、泣きにきたのか?」






突然、背後からテノールより低い、柔らかく美しい声が耳に入る。




「え?」




聞き覚えがあるような、無いような……。




振り返ろうとした瞬間、突風が吹いた。


思わず私は、目を瞑る。




一気に吹いた風は、徐々に弱まる。


森のざわめきも静まってゆく。




少しして風が止み、


私はゆっくりと瞼を上げる。




そこには、スラっとした黒髪の青年が立っていた。






なんて、好青年そうなイケメン…!






男性経験の乏しい私にとっては、刺激が強すぎる。




だけど、一目見て、わかった。




「え、え……!?」




背も高いし、髪も黒いし、なんか大人だし、




違うと信じたいけど、






顔の雰囲気は、出会った頃と同じで、




シュッとした顔立ちに、




高い鼻に、色の白い肌。






そして、左右色の違うオッドアイ。








もしかしなくても……






「か、風少年、くん……?」




「穂風……やっと、会えた」






微笑む青年に、心臓が高鳴った。






再会。






風の化身との、再会。






だけど、




風少年は、風青年になっていた。






え、待って。




風の化身も、成長するの?




私の頭は、パニックだ。






すると、目の前の青年は、ハッとしたように空を見た。




「あ、風……吹く」




「風?」




私が首を傾げた瞬間、




さぁっと爽やかな風が吹いた。






え、やっぱり……風の化身だ。






森を揺らす風、




私の心を揺らす風青年。






呆気に取られていると、風青年さんが口を開く。




「話なら、聞くけど」




出会った時と同じの台詞(セリフ)じゃん。






会えた…。




会えたんだ、私。




あの"風少年くん"に。




嬉しい……




嬉しいすぎる。






頬が緩む。




そして、私はここに来て初めて、




嬉し涙を流した。




.

お読み頂きありがとうございました。

こちらで完結の、短いお話でした。


次回は、風少年視点の小説でお会いしましょう。

(ファンタジーではないので、あしからずご容赦ください…)

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