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傲慢なる金髪〜取り巻きたちとの不思議な日常〜  作者: 酒太郎
ライアンvs影・決着編
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第三十八話『北の廃坑再び』

 ライアン一行がレオンを救出するため北の廃坑に入って3日が経った。


「レオンさん見つからないね…」

 沈黙に耐えられなくなったのか、真里がそう切り出す。

「帰るか?」

 ライアンは冷ややかな目でそう言う。

「え!?い、いや、そういう意味では言ったわけじゃないよ」

 真里は慌てて首を振るが、内心ではもう無理かもと思い始めていた。

 それはライアンを含め、他の取り巻きたちも思っていた。


「それじゃあ、後1日奥まで進んで、何も進捗がないのなら、引き返すとするか」

「いいの?」

 菜月は不安げな表情で言う。

「よくない。だが、食料も有限だしお前の体力の面もある。またもう一度、次は冒険者なんかを雇って入ってみるのも悪くない」

「そっか、何も私たちだけで行く必要ないもんね!」

 翔子は合点がいったように声を上げた。

「でも、こことても危険なんでしょ?そんなところに入ってくれるような強くて信頼できる人、いるの?」

 紗季はそれでも不安そうにしている。ただでさえ、敵が強く何度か危険な目にもあったのだ。


 ライアンはふとライオネルの顔を思い浮かべるが、いやいやと首を振る。

(ライオネルにこれ以上世話をかけるわけにはいかない)

 その時。


 ”ズズッ“


 何かを引きずるような音が耳に入り、ライアンは剣を構える。

 そこには、道中に何度か戦ったクマの魔物がいた。


「ホールベア?いや、何か違う」

(道中で戦った時には”鎧“なんか着ていなかった)


 ホールベアは“影の鎧”を纏っていた。


「気をつけろ!こいつはさっきまでのとは何か違うぞ!」

 ライアンは声を張り上げ、カウンターの構えをする。


 ホールベアはその重そうな体からは想像ができないほど素早い動きでライアン一行に迫る。

「くっ!」

「サンダーバスター!!」

 ライアンはホールベアの攻撃を受け流そうとするが失敗し、体勢が崩れる。

 そこに、翔子は雷魔法で援護をする。


 “グゴォ!”


 雷に焼かれたホールベアは一瞬怯むが、すぐにまた突進をしてくる。

「なんで!前まではこれで一撃だったのに!」

 翔子が立ち尽くしていると、後ろから声が掛かる。

「翔子!どいて!...風刃!」

 菜月が走りながら翔子の脇を通り抜け、そのままホールベアを風刃で斬りつける。

 風の力で強化された風刃はホールベアの胴体を易々と切り裂くはずだった。


「なっ!」

 ホールベアの纏っている影の鎧が完全に菜月の風刃を掴んでいる。

 風刃を掴まれた菜月は瞬時に風刃を解き、後退しようとする。

 だが、影は風刃のみならず菜月の腕にまで伸びてくる。

 影に腕を掴まれた菜月は身動きを取れず、ホールベアはその隙を見逃さない。


 “グゴガァ!!”


 鼓膜を破りそうな叫び声と共に、攻撃が菜月目掛けて飛んでいき、菜月は目を瞑る。


 ザンッ!


「菜月、大丈夫か!?」

 菜月が目を開けると、そこには返り血で少し汚れた金髪の剣士がホールベアの腕を切り落とし、立っていた。

「う、うん」

「お前たちは前で戦う必要はない。俺のフォローに徹してくれ。」

「分かったわ」


 左腕を失ったホールベアは重心が偏り、速度が落ちている。

 速度が落ちたホールベアではライアンの動きを捉えきれない。


 ライアンはホールベアの攻撃を易々と回避し、首を切り落とした。

「ふぅ」

 ライアンは剣を鞘に納め、取り巻きたちに一瞥する。

「無事か?」

「えぇ。おかげさまで」

「よし、引き返すぞ。そろそろ食料も底が見えてきた」

 ライアンがそう言い、入り口に向かって歩き出そうとした時。


「もう帰るのですか?」

 背後から掛けられたその言葉にライアン一行は振り返る。

「お前は!エルド!」

 ライアンは目を見開き、その名前を口にする。

「お久しぶりです」

 エルドはニヤリと笑いそう言う。


「自分からのこのこと殺されにくるとは、愚かだな」

 ライアンは自信ありげにそう言う。

「はっはっは。残念ですが、あなたと戦うのは私ではありません。あなたと戦うのはこの子です。おいで、“アイアン”」

 エルドがそう言うと、エルドの足元の影が広がり、人型の影に包まれたものが出てきた。

「僕の最高傑作の一人、アイアンです」

 その言葉と同時にアイアンと呼ばれたものの影が剥がれていく。

「なっ……!」

 ライアンは影が剥がれた姿を見て、目を見開いた。


「あなたたちが必死になって探していた、”彼“は私の手に堕ちました。せいぜい足掻いてみてください。光の使徒……」

 エルドはそう言い残し、アイアンが出てきた影の中に沈んでいった。


「お、おい。“レオン”だよ…な?さっきのやつとは知り合いなのか?」

 ライアンは不安げな表情で“アイアン”と呼ばれた人物にそう言う。


 レオンは目が真っ黒に染まり、体のそこら中に黒い血管のようなものが浮かび上がっている。

「………」

「……レオンさん?」

 翔子は目に涙を浮かべながら小さく名前を呼ぶ。


『レオンに僕の影を飲み込ませてアイアンを作りました。かなり無茶をして作りましたからねぇ、持って1時間と言ったところでしょうか。ふふふ……』

しばらくエルドの笑い声が反響していたが、やがて消えていった。

 

「くそ!レオンを元に戻せ!……!!」

 キンッ!

 ライアンが叫んだその時、アイアンが剣を抜き肉薄してくる。


(重い!あの時のレオンとは比べ物にならないほど強くなってる!)

「レオン!正気になれ!」

 ライアンはアイアンの剣を受け流しつつ、そう叫ぶ。

「………」

 しかし、アイアンはまるで心を失ったかのように沈黙を続ける。


「クッ!」

 レオンの鋭い一撃がライアンの頬をかすめる。

 流れる血が、痛みがより一層レオンが手遅れなのだと感じさせる。

(レオンって確か、影刃流の上級剣士だったよな?やっぱり影を飲まされたことで膂力も上がってんのか。今の俺とほぼ互角だな)

「……もたもたしてるとこっちが殺られるな」


 ライアンはアイアンの剣を剣で受け、アイアンを蹴り飛ばす。

 そして、後ろを振り返り取り巻きたちに喋りかける。

「このままいなし続ければ、いずれ俺の方がやられる。だから……」

 ライアンは少し言いにくそうな顔をする。

 その顔を見た取り巻きたちが覚悟を決めたような顔で返す。


「大丈夫だよ」

「……あぁ」

 ライアンはニヤリと笑い、再びアイアンの方に向き直す。

 アイアンは影刃流の奥義である、影抜きをしようと構える。

 ライアンはそれの対策ではなく、己も瞬刃流の奥義、瞬幻一閃で迎え撃つ。


 互いは向き合い、静止する。

 静寂、それを打ち破ったのはライアンである。

 影抜きは攻め、受けどちらにでも転用できる万能の奥義。

 アイアンはライアンが動き出したと同時にカウンターを準備する。


 ………だが、ライアンは聖級剣士。レオンの動体視力では到底捉えきれなかった。

 アイアンは胴体を真っ二つにされ、どちゃりと地面に落ちた。


 アイアンの体からズルズルと影が抜けていき、やがて見覚えのあるレオンの体になった。

「………つよくなったな」


 レオンは最後にそう言い、動かなくなった。

「すまない、レオン。俺が不甲斐ないせいで、お前を助けられなかった」

 ライアンはレオンの亡骸を前に、頭を下げた。


「帰ろ、ライアン」

「あぁ、そうだな。レオンは……翔子、紗季火葬を頼めるか?」

「分かったわ」

「うん」

 翔子と紗季は力強く頷いた。

「ライアン、傷見せて」

 真里はライアンに駆け寄り、戦闘で負った傷を回復魔法で治癒する。

「助かる」

 ライアンは小さく頭を下げる。

「いいのよ。私だって助けてもらったし、お互い様よ」

「ねぇ、私はどうすればいい?」

 菜月は手持ち無沙汰といった感じでライアンに聞く。

「菜月は…確か、風の結界を張れたよな?レオンを焼く匂いに魔物が寄ってくるかもしれない。この辺りに結界を張ってくれ」

 「了解」


 ーーーーーーーーーー


 ライアンはレオンの骨を砕き、丁寧に持ってきた食料を入れる用の箱に入れた。

「じゃあ、帰るか。帰りも魔物には油断しないように」

「了解」

「分かった」

「後衛は任せて」

「怪我したら私が」

 取り巻きたちはそれぞれ自身ありげに胸を張った。



 出口から出た時、外は夕陽がかかっていた。


(帰る道中に何度か魔物に襲われたが、影らしきものは見当たらなかった。影は逃げたのか)

 ライアンはそう思いつつ、ヴァルンを目指す。

 取り巻きたちも後を追う。


「この戦いは序章に過ぎない。この後にもっと大きな戦いが来る。それまでに腕を各自磨いておけ」

 ライアンの言葉に取り巻きたちは当然といった表情で頷いた。


 ーーーーーーーーーー


 ライアン一行はヴァルンに着いた後、寄り道することなくある場所を目指した。

「ここが、蒼き狩人たちがいる宿だな?」

「そのはずよ」

 翔子が答える。


 宿の一階では冒険者の男が北の森ででかい魔物を狩ったと豪語していた。

「いた」

 端の方に男の自慢話を横目にチビチビと酒を飲んでいる集団がいた。蒼き狩人だ。


「おい」

「ん?っておい!ライアンじゃねぇか」

 ルーカスは暗い顔から一転、酔っ払ってるのかでかい声でそう言ってきた。

「レオン……どうだったの?」

 エリナは暗い顔のまま、開口一番にそう聞いてきた。

 隣に座るカイルは黙ったままだが、同じことを聞きたそうだった。


「あぁ。順を追って話す」

 そこからライアンは、北の廃校での出来事を詳しく話していった。

 前に来た時よりも魔力が濃かったこと。影を鎧のように纏ったホールベアがいたこと。エルドがいたこと。レオンがエルドに影を飲まされ、アイアンになり襲ってきたこと。そして、レオンを殺したこと。


 蒼き狩人の面々はライアンの話に口を挟まず、静かに聞いていた。レオンに名前が出てきた辺りからエリナが露骨に顔を顰め、レオンを殺したところでは泣き出してしまった。

 エリナはソロで冒険者をしている時にレオンに命を助けられ、蒼き狩人に入ってからもずっとレオンを尊敬していたのだ。

「すまない。俺の力不足でレオンを助けられなかった。これが、レオンの遺品だ」

 ライアンはそう言い小さな箱とレオンが身につけていた剣をテーブルの上に置き、頭を下げた。

「いや、ライアンのせいではないさ。レオンだって、俺たちだっていつかはそういうことが起きることを覚悟して冒険者をやってたんだ。だから、お前たちのせいではない。むしろ、こうやって遺品を持って帰ってくれてんだ。感謝しても仕切れないさ」

 ルーカスはそう言って笑った。

「そうか……」

 ライアンも安心したように笑った。


「それはそうと、お前たちリーダーが死んでこれからどうするつもりだ?」

 ライアンはいつもの調子でそう聞いた。

「さっきそれについて話し合ってたのよ」

 まだ目元が赤いエリナがそう言う。

「冒険者は引退かな。俺は故郷に帰って実家の手伝いでもするよ」

 カイルは薄く笑いそう言う。

「俺はまだ冒険者を続けるぜ。俺にはこんくらいしか脳がないからな」

 ルーカスは自傷気味に笑った。

「私は……そうね、この辺りで商人でもやろうかしら。これでいて口は立つからね」

 エリナは鼻をすすり、そう言った。

「そうか……また次に会ったときは酒でも飲もう」

 ライアンは笑いながらそう言った。

「ははっお前がそれ言う側かよ」

 ルーカスは声を上げて笑った。


 その後、取り巻きたちはしばらくエリナと話していたが、やがて握手を交わし離れていった。


「なんの話してたんだ?」

「えー?内緒」

 真里はふざけたようにそう言った。


 ライアンたちは少し大きなものを失った。友人だ。

 でも、そこで立ち止まっていては前に進めない。

 ライアンたちにはまだ大きな戦いが残っている。

 その戦いのために、亡き友人のために、戦い続けなければならない。









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