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アイドル育成ゲームの世界に転生しました



 ――さて、それで?

『え? なんで朝チュンなんてすることになったの?』

 というツッコミに対する説明をする前に。


 まず、ここで、私の自己紹介をさせていただきたい。


 私の名前は山敷藍やましきあい

 27歳、女子、未婚。

 職業、男性アイドルユニットのマネージャー。

 彼氏いた歴、0年――である。

 

 そして。

 実は私には、前世の記憶ってやつがあります。

 どういう経緯で死んでしまったのかは全く覚えていないのだけど(おそらく十中八九過労死なんだと思うのだけど)、前世では普通に大手企業の営業としてバリバリ働いていた記憶がある。

 

 でもって、そんな前世の私には。

 イケメンアイドル育成ゲームアプリちゅうという、あまり人には大っぴらに言えない趣味があった。

 

 表ではバリキャリ社会人としての体裁をがっちがちに固めながら、裏では社会人として稼いだお金の大半をお布施として課金に回しまくっていたのだ。


 こんな素晴らしいコンテンツを作ってくれてありがとう!

 このままずっとこの素晴らしいコンテンツを続けてね――!


 という感謝の念と共に、周囲に隠れて日々こっそりゲームをプレイしまくっていた。

 総額でいくら課金したのかは正直、考えたくない。考えない。


 そんな私が特に一番好きだったのが『UnitE(ユナイト)!!!』という男性アイドル育成ゲーム。

 

 リリース当初は、5人組の新人アイドル『UnitE(ユナイト)!』を育てながら、マネージャーとの関係値もはぐくんでいくという、【アイドル育成乙女ゲーム】という(うた)い文句だったにも関わらず、いつのまにか物語が進んでいくにつれ、恋愛要素が全くと言っていいほど排除されていったそのゲームは。


 最終的にアイドルグループのユニット内の友情・ぶつかり合い、スターダムを駆け上がるまでの少年たちの葛藤を熱く描いた、スポ根アイドル育成ゲームへと移り変わっていった異例のソーシャルゲームだった。


 ――で。私も最初は乙女ゲーム目的で始めたわけなんだけど。


 ストーリーを進めていくうちに、作り込まれたキャラクターの設定や家庭環境、それにからんだ隠された過去や謎があまりにも良くできていて、最終的に恋愛そっちのけで物語を追っかけていくようになったわけです。


 そうして私がこのたび、転生? 憑依? したのは!

 このゲーム『UnitE(ユナイト)!!!』のナビゲーター的な存在であり、プレイヤーのポジションに当たる、アイドルグループ『ユナイト!』のマネージャーである!

 

 と言っても、私も最初っから前世の記憶があったわけではないんだけどね。

 

 あれ? これ、『UnitE(ユナイト)!!!』の世界じゃない――?

 と気づいたのは、この事務所に入社して、まさにこれから売りだそうとする『ユナイト!』の担当マネージャーに任命された瞬間のことだった。

 

『彼らが、今日から君がマネージャーとして担当することになる『ユナイト!』のメンバーだよ』

『…………えっ?』


 と。

 事務所の社長をやっている叔父から彼らを紹介された時に、ビビッと下りてきたのだ。


 ――あれ私、前世でやっていた大好きなゲームの世界に転生しちゃってませんか――? と。

 

 今世の私の生い立ちは、幼い頃ある日両親が突然交通事故で亡くなって。

 そんな私は叔父に引き取られ、叔父がそのまま父がやっていた芸能事務所を引き継ぎ。

 物心ついてからは、ほとんど叔父に育てられた――というものなのだけれど。


 これ――、『UnitE(ユナイト)!!!』のチュートリアルで説明されてた話そのままじゃね?


 原作ゲームのヒロインは、『だから私も、育ててくれた叔父のために、日本を代表するアイドルを生み出す手伝いをし、事務所を繁栄させます――!』と言ってゲームがスタートするのだ。


 そしてまさに私も、そんな心持ちでこの事務所で働こう! ということとなったわけが。

 

 私は。

 自分がこのゲームの世界の主人公に転生したことを悟った瞬間に。

 完全に、この世界では黒子に徹すると決めました!

 

 前述したとおり、このゲームでは展開が進むにつれ、まったくマネージャーとアイドルたちとの恋愛要素が皆無になっていく。


 どうせ恋愛要素が絡んでくることがないのなら、マネージャーとして彼らを売ることに全力を尽くしてやろうじゃないか!


 そして敬愛する叔父のために一肌脱いでやろうじゃないか!

 かつて前世の営業で、敏腕びんわんと呼ばれた腕を存分に振るって!

 

 そうと決めたら、やるべきことは明確だった。

 

 この業界、女性マネージャーがファンから目の敵にされるのは当たり前。

 本来なら女性が男性アイドルのマネージャーをすること自体、あまり好ましく思われないのだ。


 なので私は、常日頃からなるべく地味な服装、地味なメイクで立ち回り、あくまで『マネージャーとしてのポジションから揺るぎませんよ! 彼らは商品ですよ!』という鉄の思いで常に彼らに付き添ってきた。

 

 叔父からも「藍……、どうして突然そんな地味になったの……?」と不審がられたが、そんなことはどうでもよろしい。

 

「自分と、担当タレントたちの保身が大事だったから」


 と叔父にはっきり答えてやりました。


 あとは単純に、私が仕事大好き人間だったということもある。

 前世でもそうだったんだけど、努力した分だけ成果が実るということ、手をかけた分だけ携わった仕事が成長していく様をみるのがすごく好きなのだ!

 

 だから、『ユナイト!』に関してもめちゃめちゃ営業したし、スケジュール管理を回しながら仕事もバリバリ受けて、彼らが成長していくのをすごく楽しく隣で見ていた。


 周囲のスタッフや関係者からも、最初は「なんだよこの地味女……」みたいな目で見られていたが、仕事で信頼を勝ち取った結果、今ではどこに行っても顔見知り!

 

 そうして20代の大半を、彼らをスターダムにのし上げることに費やし尽くした結果――。

 

 ――やばい。

 20代……、いや、生まれてからこの方。なんなら前世から。

 全く恋愛しないでここまで来てしまった――ということに気づいたのが現在である。

 

 山敷 藍。

 27歳。

 いや、もうすぐ28歳。


 『ユナイト!』も、年末の歌番組に出場できるくらいには知名度が上がってきた。

 もう、私の力なんてなくても、彼らだけで十分やっていけるはずだ。


 だから――。


 私もそろそろ、自分の幸せを追うことを考えても……、いいよね?

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