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イケメンアイドル育成ゲームのマネージャーに転生しましたが、私、推しとは付き合わない主義なんですけど!?  作者: 遠 都衣


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11/23

そして、初心にかえる



『柊生さんですよ。文字通り、私の人生初のキスを奪ったのは』


 その言葉に、観覧車の中で私の目の前に座る柊生さんが、両手で顔を覆って自戒していた。


 ――まあ、本当にそうなんだよね。


 あの夜。私のマネージャー最終日。

 飲み会でうっかりアルコールを摂取してしまい、私が柊生さんの家まで行ってしまったあの時のことだ。


 私が、人生初めてのキスをしたのは。


「……謝った方がいいのか?」

「……う〜ん」


 どうなんだろう?

 別に謝ってほしくて言ったいうわけじゃなく、ただ事実として思い出しただけだからな……。


 とひとり考え込んでいると、柊生さんが「いや、やっぱり謝らん」と発言をしだした。


「え?」

「俺はちゃんと『嫌だったら言えよ』って事前に確認したし。その時も嫌だとは言われなかった」


 だから、事後のクレームは受け付けない、と柊生さんが強気な態度に出る。

 酔っ払った女子相手の事前確認に、いったいどれくらいの意味があるのだろうと思うところはあるが。

 でもまあ。


(別に……、嫌ではなかった、と思うけどな……)


 なんと言っても、相手は最推し。

 嫌だったわけがない。

 思わず、その時のことをちょっと思い出してしまって、妙な気分になりかけたところで――。


「っはああ〜〜〜……」


 すると、突然柊生さんが狭い観覧車の中で唸り声のような声をあげたのに、私はびくりとし。


「お前なあ……、今ここでそれを言うのはずるいだろ……」

「えっ?」


 柊生さんが、絞り出すようにそう訴えてくる。


「ああ……、すげえ今キスしてえ」

「えっ? いやっ……」


 あれ!? もしかしてさっきの、口に出てた!?

 別に嫌じゃなかった、って思ったやつ。

 口に出したつもりはなかったけれど、どうやら無自覚にこぼれ出ていたらしい。

 柊生さんの突然のキスしたい発言に、思わず私は奇声をあげる。


「しねえよバカ。……でも抱きしめてもいいか」

「で、でも……」

「こんなに暗くて、しかも観覧車のてっぺんまで来たら外からは見えない」


 そう言って、どこか切実な様子の柊生さんに、私はハグならまあ……、と思い「いいですよ」と答える。

 それを聞いた柊生さんは、観覧車の揺れを気にするように、ゆっくりと立ち上がり私の方に向かってくる。

 そうして、柊生さんが私の隣に座り、大きな体で私に覆いかぶさるように両腕で抱き締めてきた。


 柊生さんの鼻先が私の首筋に当たり、吐息が肩を暖める。

 

 私は、抱き締め返すか否かを躊躇ちゅうちょして――、結局、そっと背中に手を添えるだけにとどめた。


 ――人って、力強く抱き締められるとなんでこんなにも言いようのない気持ちになるんだろう。


 柊生さんの肩越しに見える観覧車の外の景色は、群青からだいだいへのグラデーションを描き出していて、とても綺麗だった。


 これを見せようとして、この時間帯を選んでくれたんだな、と思うと。

 私を抱き締めてくる、この目の前の男の人に対する愛しさが増したが。

 それをぐっと飲み下し、柊生さんが満足するまで、私は黙ってそれを享受した。




 ◇




「はぁ……」


 あれから。

 柊生さんが予約してくれてた個室のあるお店で食事をして、家まで送ってもらった私は。


 帰ってくるなり、ばたりとベッドに突っ伏した。


 ……可愛かったなあ。柊生さん。

 ……。

 ……いや、可愛すぎだろ。

 おかしい。

 イケメンなのにあんなに可愛いとか犯罪じゃないかってくらい可愛い!


 まずいなあ……。


『友達としてなら』大丈夫かと思って始めたはずなのに、ズブズブと深みにはまっていっている自分を自覚する。


「…………」


 いやダメだろ!?


 一瞬、虚空を見つめ、もういいのでは? という思考が働きかけた自分をすかさず叱咤しったする。

 いやー、ダメでしょ!

 ダメダメ!

 

 いや、いかんよ。

 一瞬気持ちに流されかけてしまった。

 そりゃあだってさ。

 あんな、顔面ドストライクの男の人に、あんなに大切な存在みたいに扱われて素の顔散々見せられて、揺らがないわけないでしょうが!

 

 でもダメなんだってば! (泣)


 ベッドの上で、堂々巡りに頭を悩ませ、ごろごろと端から端まで行ったり来たりを繰り返す。


 そこでふと、ある一計が私の頭におりてくる。


 ――あ、わかった。

 私、このまま頑張ってお友達ポジを続けて、柊生さんの親友ポジにいけばいいんじゃね――?

 と。


 そう、そうだよ!

 なんで今まで思いつかなかったんだろう! そうだそうだ!


 柊生さんに、女としてではなく人間として、『こいつ、一緒にいると楽だな』と思わせれば。

 女としての魅力はそこまでだけど、人として一緒にいると楽しいなって思ってもらえるポジションを築けば、誰にも迷惑をかけないのでは!?

 

 私天才かな!?


 そうだそうだ、それだったら誰も傷つかないし、お互いに一緒にいることに問題もない!

 素晴らしいひらめきを得たことで、私は一瞬にして気持ちが上昇する。


 ――この時の私は、素晴らしいアイデアがひらめいたという高揚感で溢れていたために、まだ気付いていなかったのだ。


 そんなことを私が言い出したとて、柊生さんが「うん」と言わないであろうことを。

 そして、もし本当にそうなったとして――、柊生さんに他に好きな女の人ができた時に、自分が苦しくなるであろうと言うことを。


 この時の私は、まだ気づく由もなかったのだ。


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