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 ダンジョン。

 地中に、ある日突然現れる構造物で、階層ごとにモンスターが待ち受けている。

 冒険者は攻略に向けてパーティーを組み、経験を重ねて成長していく。モンスターからドロップするアイテムや、宝箱からは、希少品が入手できることもある。

 最深層となると、勇者など選りすぐりの精鋭しか到達できない関門である。踏破した暁には、比類なき栄誉と、達成感を得られること請け負いだ。

 だが、考えてみてほしい。勇者の対に魔王があるように、侵略サイドがあれば防衛サイドもあるのではないか。

 モンスターを使役し、迷宮を拡張し、トラップを巡らす。ダンジョン側にも、運営を捗らせる職業が求められる。


 

 ここはダンジョンの最深部。

 原理は不明だが、神秘的な力が働いていることは間違いない。

 どうやら俺、萩原風雲は、ダンジョンマスターに転生してしまったらしい。



 無機質で殺風景、灰色の壁で囲まれている。牢獄のようで、閉塞感を感じる。1つだけ木製のドアがあり、そこが唯一の出入り口。

 見たところ光源などないのに、なぜか周囲の様子がうかがえる。壁が薄く発光しているからだろうか。

 硬い椅子に俺は着席している。目の前にはあまり画質のよくないモニターがあって、画面はずっと灰色のままだ。どうやらずっと同じところを映しているようだ。

「風雲、ここがどこだか分かるピヨ?」

「ああ、さっき散々説明を聞かされたからな。俺はダンジョンマスターで、お前はダンジョンコアなんだろ」

「お前じゃないピヨ。ピヨの名前は、ダンジョーナムパピヨ。ナムパと呼ぶピヨ」

「分かったよ、ナムパ」

 ナムパは小さな羽でぱたぱた俺の周りを飛び回っている。端から見れば、本当にただの赤い鳥だ。サイズは少し小ぶりで、俺の握りこぶし程度しかない。

 最初はひよこが突然変異して赤くなったのかと思った。語尾もピヨだし。

 ナムパは、ダンジョンコア。ダンジョンの核となる存在だ。ナムパいわく、ナムパが死ぬと、俺も死ぬらしい。

 ダンジョンコアを、死守することが、俺に課された使命であるとかなんとか。

 正直俺からすれば、ダンジョンコアというのだから、宝石みたいにじっと佇むほうが、威厳があるし守りがいがある。

「何かいったピヨ?」

「おっと」

 思ったことが口に出ていたようだ。

「いえいえ、喋り相手に困らなくてよかったなーって」

「絶対そんなこといってなかったピヨ」

 ナムパは炎の息を吐いた。反抗のつもりらしい。

 ナムパは時々火を吹く。変な鳥だ。

 火力はマッチに勝らずとも劣らないといったところだ。ここは可燃物がないので、安心して見ていられる。

「話を戻すピヨ。そうピヨ。こんな甘い話をしてる場合じゃないピヨ」

「うん?」

 不思議な鳥に、不思議な場所。ここまでの体験だけでも、俺にとっては相当心臓に負担がかかっているが。

「まさか、もう侵入者が入ってきたっていうんじゃないだろうな」

 初手から詰みは御免である。

「そしたらまだよかったピヨ。問題は場所ピヨ」

「場所?」

 場所というと地理的な話か。

「ここは深海ピヨ」



 深海。

 ……は?


 

「あー、なるほど。つまり右も左も分からない状態で異世界に飛ばされ、一人きり。なぜかダンジョンマスターをやるようにいわれて、しかも守るのは謎のひよこ。挙げ句には、深海ときましたか。ああー。深海×ダンジョン。わくわくするなー」

「め、目が笑ってないピヨ……」

「どうして深海でダンジョンを造る羽目になっちゃったのかな? ナムパくん」

「さ、さっきまで君付けしてなかったピヨ……」

 あたふたするナムパだが、焦りたいのは俺の方だ。

 どこかで上手い手段でも見つけ、ナムパに留守番を任せて、旅に出かけようかなーとか考えていたのに。この様子だと、旅に出かけるどころか、一歩外に出るだけでも命に関わってくる。

「実は、ピヨの造ってたダンジョンが勇者に一瞬で攻略されて……。うう、話すのも屈辱的ピヨ」

 といいつつ、意外にもナムパはすらすら語った。

 勇者にダンジョンの最深部まで攻略されたナムパは、ダンジョンで一番強いドラゴンに期待をかけた。だが、勇者がたった一撃放っただけで、自慢のドラゴンは地に伏せたらしい。

 ナムパは、なんとかダンジョンの隠し通路から外へ逃げ出したが、勇者はダンジョンコアの存在に気がついて追ってきた。

 あとちょっとで死、というタイミングで都合よくあった海に飛び込んだというわけだ。

「勇者が言ってたピヨ。『海に逃げ込むとは卑怯だぞ!』そこでピヨは、溺れ、薄れゆく意識の中で閃いたピヨ」

 それで辻褄があってきた。

「なるほど。勇者に見つかりづらい深海で、ダンジョンを構えようと思ったわけか」

「そうピヨ。でも、一人は心細かったピヨ。そこで、ピヨは再び閃いたピヨ。相手が異世界から勇者を呼ぶなら、ピヨも異世界から仲間を召喚すればいい……」

「ふう。それで俺が召喚されたわけか」

 さらっといわれたので聞き逃すところだったが、どうやら俺と同様、勇者も異世界から召喚されているらしい。同郷の者だったら話が通じるかもしれない。メモメモ。


 

 大体の経緯が分かったので、次の段階に移りたい。

 俺はこの世界についてあまりに無知だし、生き延びるうえでやるべきことが多すぎる。

 敵を知るにはまず味方からというし、これからの住居となるであろうダンジョンの様子を把握することにする。

 まず、ナムパからモンスターについての説明を聞いた。


 ・モンスターは、魔法の源となる魔素から発生する。

 ・魔素は、生物が普段から僅かな量垂れ流していて、対象が魔法を使ったり死んだりすると空中に一気に放出される。

 ・ダンジョンの壁は、魔素を内側に閉じ込める性質を持つ。

 ・周囲の魔素濃度が濃くなると魔物が生まれ、濃度が濃いほどに、強い魔物が生まれる。

 ・ダンジョンで生まれた魔物は、ダンジョンマスターの言うことに従う。

 

 つまり、侵入者からより多くの魔素を奪い取ることが、ダンジョンを強化する術になる。

 まあ、ここは深海なので、あまり収入は期待できそうにないが。

 収入がないとなれば、大事なのは預金額。

「現状、このダンジョンの魔素濃度はどのくらいなんだ?」

「ぎ、ぎくっ。スライムが生まれる……か生まれないかの瀬戸際くらいピヨ」

 スライムが生まれない程度っと。

「スライムは最強のモンスターなのかな?」

「う……。スライムは少ない魔素で生まれるので『魔素の変換効率が最もいいモンスター』といわれているピヨ」

「はあ、なるほどね。よく分かったよ」

「うう……」

 ナムパは泣き真似をした。改めて、情緒豊かな鳥である。



 このダンジョンは10階層で成り立っていて、意外と広い。

 中身がスカスカなのを忘れれば、新参ダンジョンとしては大規模なほうらしい。

「近くには無人島しかないし、強力な生命反応もないから、入口を地上に近づけてもいいかなーと思いはじめたピヨ」

 俺が訪れる以前の話、深海にダンジョンを造ってみたナムパだが、やがて侵入者が恋しくなったのだろう。9階層も増築し、敵に見つかりづらいというせっかくの長所を手放そうとしていたようだ。

 途中で魔素が足りなくなって断念したらしい。

 残念ながら、さらに15階層ほど伸ばさないことには、太陽は拝めない。今の入口は、相も変わらず海の最中だ。

 階層の作成には、トラップや迷路を設置するのとは比較にならないほどの量の魔素が必要なので、一階層増やすだけでも、当分先になる。

 しかし、10階層か。

「10階層もあれば、モンスターの一匹や二匹スポーンしたっていいよなー」

「さっきモニターにちらっとスライム映ってたピヨ」

「おおー! そういうことは早く言ってほしいな」

 モニターの目的は、あくまで侵入者の動向を追うため。普段から視点を動かしすぎると魔素の無駄遣いになるらしい。

 俺とナムパはスライムを探すべく、ダンジョン最深層の部屋から、ようやく一歩外へ出ることにした。

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