盗難の発覚
カーマイン公女は急いでジェイド騎士団長を呼び出した。
「イナイライの使者が来た本当の理由がわかりました」
王国中央との関係上、爵位は速やかに継承するものの、前男爵の喪が明ける一年後までは諸侯への挨拶は差し控える、というココリコ姫男爵の方針は前男爵の事故死直後に伝えられていたし、グリアシエが使者を名乗ってする今回の来訪をコクリコ姫男爵が承認していないことは前日の念話器通話で確認してある。
こちらのそうした疑念を隠したまま当たり前のように使節団の歓迎式を執り行ったのは、コクリコ姫男爵の頭越しにしたグリアシエの行動の意図が明らかでなかったためで、歓迎式にアラザール公本人が出席していなかったのも同じ理由からだった。
「ジェイド騎士団長、封邪の鏡が盗み出されました。信頼できる騎士を2人連れて、至急、騎士団宿舎の中庭に向かってください。わたくしもすぐにピオニー女騎士と向かいます」
「なんですと!?」
応接室の壁に掛けられている巨大な邪龍の絵を見ながら、ジェイド騎士団長は当然の疑問を抱くが、それを口にする前にカーマイン公女がつづけた。
「これは単なる絵です。昨夜、皆が寝静まったあとで、使節団の雑役夫が本物とこの贋作をすり替え、使節団の本隊が出発するのを待たず、早朝に領都を抜け出したのです。転移組の紫魔導士が見咎めて後を追ったらしいのですが、発見され、捕らえられているようです。
単なる盗難ならば国境を越えるまえに使節団を捕らえるだけで良かったのですが、ことは急を要します」
「わかりました。仰せの通りにいたします」