魔封じの腕輪
「お待たせしました」
「おう、よく来た」
優梨を迎えたピオニー女騎士は、もともと紫魔導士の適性があって修行していたが、経緯があって剣技を磨き騎士団に入団し、魔法も使えるが剣もふるう「紫魔法剣士」という新しい兵種を設置させるきっかけとなった努力家で、優梨の紫魔法の最初の師匠でもある。
「さっそくだが、今後、私たち紫魔法を使うものは、平時は全員魔封じの腕輪をつけることになった。お前の分ができてきていたのを預かってきたぞ」
見ると、ピオニー女騎士はもう同じ腕輪を右の上腕にはめている。
「ピオニーさんが前から着けてたのとは違う腕輪ですね」
「そうだ。私もいままで自主的に着けていた魔封じの腕輪を外して公国支給の品を着けることになった。これは公国政府の許可なしでは自分では外せないようになっている」
「勝手に頭の中を覗かれるのは厭だから有事以外には魔法を封じる、て趣旨はわからないでもないですけど、封じないと勝手に使うだろと疑われている、て思うと不愉快ですね」
「それは仕方ない。自分にはなくて他人には備わっている能力については、理屈では他人の善性を信じたくても、感情では疑心暗鬼になる。人間というのはそういうものだ。
周囲の他人を安心させてやるのが目的だから、外からよく見えるように着けておけ」
瑪瑙のような材質の冷たい緑灰色の腕輪に優梨が右腕を通すと、上腕まで上げたところで、どういう加減か腕輪の内側が膨れてサイズがピッタリになり、ずり落ちなくなった。
「これでピオニーさんとも以心伝心というわけにはいかなくなるんですね」
「さあ、綾川が来て以来私たちはずっと一緒にいるのだから、紫魔法など使わなくてもお互いの考えていることはある程度伝わるのではないか、と私は思っているのだがな。
それはそうと、今日は珍しいものが見られるようだから一緒に来い」