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19 舐めんじゃねぇぞ!


 尊は玉響に協力を求めました。


 美夜と尊が話をした直ぐ後、鬼頭真と夏夜は西院七条家に呼ばれてやって来た。


「ようこそお越しくださいました。

 我が主人はち庭でお待ちです」


 そう言ったきり無言となった吉岡は庭の奥へ奥へとやって来ると、畏まって石祠に向かって言った。


「尊様、お連れいたしました」


 お待ちしておりました…と何処からともなく姿を現した尊は鬼頭親子に頭を下げたが、夏夜は声を荒げて尊に詰め寄った。


「おい、尊!なんだって言うんだ!いくら何でも、これは俺達に失礼だろう?呼んだ理由ぐらいさっさと話せよ!」


「義父上、夏夜。お怒りでございましょう。ですが、もう少しだけ私にお付き合い下さい」


 真も夏夜も尊の態度に不審を感じたが何も言えなかった。不思議な力が尊から漂っていたからだ。石祠の前で尊が呪文を唱えると、闇が渦巻く空間が現れ、真と夏夜も吸い込まれて行った。

 

 気がつくと真と夏夜は朽ち果てた神殿らしい建物に着いていた。

 

 尊がさらに小さな声で呪文を唱えると、神殿の中が煌めく装飾で溢れ、一段高い場所に置かれた円鏡がその光を反射して眩しいほどに輝いた。


 真と夏夜が余りの眩しさに思わず片手で光を遮り後退りしながら前を見ると、神官服に身を包んだ尊がそこに立っていた。


 金の冠を付け、黒地に眩いばかりに金糸の刺繍が施された神官服の尊がゆっくりと鬼頭親子に向き合った。


 凛とした吉岡の声が神殿に響き渡る。


「鬼頭真殿、夏夜殿、お控え下さい。

 古より神に使える巫覡になられた西院七条尊様でございます。本来ならお姿を見る事さえ叶わないお方でございます」


 はっとした真と夏夜は、慌ててひれ伏した。


「義父上、夏夜。驚かせて申し訳ありません。

 今少しお待ちを…」


 尊がゆっくりと円鏡の前に進んで平伏すると、円鏡から一条の光が差して尊を包み込んだ。ゆらゆらとした光がゆっくりと消えた時、平伏していた尊は頭をあげて真と夏夜に向き合った。


「今、神にお許しを得ましたので、お2人に大事な話をしたいと思います。

 私が巫覡である事をお義父上はご存じであると吉岡から聞いています。ですが、夏夜には私から話したかったのです。

 先ほど吉岡が言った様に、私は亡き父の跡を継き巫覡となりました。巫覡となった私には神託を受け未来予知をする力があります。

 夏夜、黙っていてすまなかった」


 そう言って巫覡西院七条尊は深々と頭を下げた。


「以前の神託で、私はこの国の未来を見ました。

 高衣玖皇子が現帝、山牟呂皇太子殿下を殺害し、帝になる未来です」


 えっ!と夏夜が大きな声を出した。


「それだけではありません。

 その後、高衣玖皇子はカナン国の刺客に暗殺され、この国はカナンに乗っ取られる。そして、この国の民はカナンの奴隷となってしまう…。

 そんな未来です」


「そんな事…!あるもんか!」


 夏夜が眉間に皺を寄せて叫んだ。尊はそんな夏夜に落ち着いた声をかけた。


「夏夜、落ち着いて。

 ()()()()()()そんな未来がやってくる。それは本当の事です。

 しかし、未来は変えることが出来ると神は仰せです。そのためには高衣玖皇子を何が何でも止めなければなりません。

 その方法について玉響一族にお願いがあるのです」


 尊は大きく息をした。


「高衣玖皇子はなぜか美夜を欲しています。妃にするという以外に何か理由があるとしたら、カナンが絡んでいるはず。未来を変えるなら、カナンと高衣玖皇子の関係を断ち切るしかありません。

 おそらく高衣玖皇子は神に近い力を持つ者から玉響の遣い人の事を聞いたのでしょう。普通の者は知らない事ですから、カナンでそれなりの力の持つ何かが絡んでいます」

 

 夏夜が焦った様な声を出した。


「も、もしかして、高衣玖皇子は美夜を自分の妃にするだけじゃなく、カナンへの貢物にしようとしているのか?!」


 尊は大きく頷いた。


「おそらく…そうなのだと思う。

 しかし玉響の鉄壁の守りは付け入る隙がない。ならばと考えたのは孤児院を利用し遣い人を誘き寄せる事です。自分の目で美夜が本当に玉響の遣い人だと確認し、どうにか攫おうと目論んでいる…、といったところでしょう」


 尊は話の続きをちょっと躊躇った。


「……ですので、私は高衣玖皇子に罠を仕掛けます。うまく掛かってくれれば、美夜は高衣玖皇子に攫われるでしょう」


 えっ?と真と夏夜が揃って大声を出した。


「ああ、ご心配はいりません。

 私が神のお力を借りて作る形代(かたしろ)の美夜を高衣玖皇子に攫ってもらいます。

 本物の美夜にそんな危険な事はさせません!」


 尊がキッパリとそう言うと、夏夜がふうと安堵の息を漏らした。


「それと、山牟呂皇太子殿下にお出ましを願います。現帝は、言葉は悪いですが、無能な帝です。高衣玖皇子がああなったのも現帝のせいです。

 山牟呂皇太子殿下がいれば、高衣玖皇子を牽制できます」


 子供の頃から山牟呂皇太子殿下を知る真が、そうだな、殿下ならできるだろう、と言った。


「しかし、殿下は素直に出てくるかな…」


「出て来させます。国の一大事です。出て来てもらわねばなりません」


 そこまで話して尊は居住いを直した。


「玉響に1つ目のお願いです。

 玉響一族には高衣玖皇子を帝にするために加担している、帝の側近を見つけて欲しいのです。高衣玖皇子1人だけで行動しても帝になる事などできるはずありません。必ず協力者がいます。その者達を炙り出してください」


 うーんと真が唸った。


「かなりの役職にある者、という事ですな」


 尊が頷いた。

 

「そして、2つ目のお願いです。

 カナン国と高衣玖皇子が内通していると証明する手助けを願いたいのです」


 形代の美夜に '見る力' を持たせておけば高衣玖皇子の隠れ家はすぐに見つかる、と尊は言った。


「その隠れ家の中の捜索をお願いしたいのです。

 協力していただけますか?」


 夏夜は父であり玉響の長である真を見た。その顔は、やりましょう父上と言っていたが、真は少し慎重だった。


「美夜は本当に安全なのですね?」


「はい。愛する美夜の事は私が必ず守ります」


「…では、否はありませんな。

 玉響は巫覡殿のご指示に従いましょう」


 硬い表情だった真は初めて不敵な笑い顔を見せた。





      ***** *****






 数日後の夜、薄暗い院長室の中で真木院長は鼻歌を歌っていた。


(貴族学院の娘達がこの時期に来たのは幸運だった。

 西院七条美夜の名が来訪者名簿の中にあるのを知った時の、高衣玖皇子殿下のお顔といったら…。あのお方でも、あんなニヤけた顔をなさるのだと心の中で笑ってしまった)


 真木院長は手に持っている書類に目を通して、また鼻歌を歌い出した。


(高衣玖皇子殿下はカナンに売り飛ばした娘にちょっかいを出してるとばかり思ってたけど、玉響の遣い人の話を聞かせていたみたいだった。あのお方の事だから、何か魂胆があったに違いないわね。

 本当に玉響がいるわけもないのに。バカらしい!)


 手にしていたのは人身売買の契約書で、そこには広志の名前が書いてあった。


(そういえば、高衣玖皇子殿下は広志に小遣いを渡して何かさせてたわね?私が知らないとでも思ったのかしら。

 なんだか少しムカつくから、広志はCランクにしておこう。そうすれば、余興に使ってくれるでしょうよ!エサ…ね!

 でも、まあどうでもいいわ。私はもうカナンに行くから。貯めたお金を持って山浦の所に行くのよ。

 あんないい男を捕まえた私も大したもんだわ。先にお金を渡してカナンに住まわせておいたから、後は私が行くだけ!待ち遠しいわ)

 

 すると、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる真木院長の耳に鈴の音がかすかに聞こえた。


 しゃらん、しゃらん…しゃらん、しゃらん!


 鈴の音が少しずつ大きくなって行く。


「…だれっ?」


 しゃらしゃらしゃら…しゃらんっ!


 美夜が巫女の姿で現れた。


「玉響の遣い人でございますよ。

 なぜ玉響が現れたのか、お分かりですね」


「な…な…!」


「丁度よかったですこと!手にしているその契約書はそのまま証拠になりますからね。

 まあ、なんと!あの広志君がCランクで売られるのですか?何か広志くんに気に入らない所があったのかしら?」


 しゃらん、しゃらん…


 顔面を引き攣らせた院長は助けを呼ぼうとしたが、掠れた声が出ただけだった。


「や…」


「何を言っても誰にも聞こえはしません。

 お前に売られた者達の苦しみを思えば、この恐怖もどうと言う事もありますまい?」


「や…やめて」


 しゃらん、しゃらん…


 巫女が神楽を口ずさむ。


 参らせたまえ…

 人の世の…怨み集めて

 御力を参らせたまえ…


 参らせたまえ…

 人の世の…怨み集めて

 御力を参らせたまえ…


 巫女が左右に鈴を降った。


 しゃらしゃら…しゃらしゃら…


 すると、院長の体の中から光輝く珠が現れ、ゆっくりと巫女の方へと動いていった。巫女はその珠を手に取り大切そうに懐に入れると、大きく鈴を振った。


 しゃん!


 巫女は恐怖に慄く院長の耳に囁いた。


「お前を信じていた子供達の恨みをその身に纏って、地獄に堕ちて行きなされ」


 美夜が院長の左右に鈴を振ると院長はガクッと首を垂れた。


 美夜は辺りを見回して、すうっと消えて行った。




 美夜が消えた後、誰もいないはずの施設長室の隅から微かな笑い声が聞こえた。


 くすくす…くすくす…


 部屋の中に人影が現れた。


「美夜。素晴らしい!

 やはりお前はわたしのモノにならなくてはいけないね。

 玉響の遣い人…。待っていなさい。迎えに行くよ」


 その人影(高衣玖皇子)はくすくすと笑いながら、ゆっくりと部屋を出て行った。



 だが、高衣玖皇子が出た部屋には姿の見えない玉響(時三)がいて、ふんと鼻で笑っていた。


(舐めんじゃねぇぞ!)


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