1、ここじゃない世界Ⅲ
午後の授業が終わり、HRの最中。
後ろを向き和也が話しかけてきた。
和也「なぁ、今日はどうする?」
蒼と和也はほぼ毎日といっていいほど放課後は遊び歩いている。
ゲームセンターやマッ〇、たまに和也がナンパをして見事に玉砕している所をみたりなど色々している。
当然この日もいつものように聞いてくるが今日は如月との約束がある。
蒼「あー、今日は用事があるんだよ」
和也「そうか。じゃあしょうがねぇか」
蒼は軽くごめんなと言うと気にすんなと言うような顔で和也は頷き、前を向き直した。
HRが終わり、蒼は席を立って帰り支度をしながら周りを見回してみるとすでに如月はいなかった。
蒼(帰るの早!!)
帰宅の早さに内心驚く。
蒼も和也に挨拶をして教室を出ようとすると、
担任「神代。少し話があるから職員室について来い!」
担任の怒声混じりの呼びかけに蒼は驚く。
蒼「な、なんすか?」
すると今度は一転して笑顔で
担任「お前の生活態度についてのお説教だ」
この後、一時間にもおよぶ担任教諭の遅刻や授業のサボリを理由にコッテリ絞られることになった。
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蒼は今、自転車をこぎ大急ぎで丘の上公園に向かっていた。
蒼「くっそー、一時間も説教しやがって! ……如月のやつ、怒って帰っちまったかなぁ」
溜め息を混じらせ声に出して言っていると丘の上公園に到着。
街の全景を一望できる此処は、蒼の一番好きな場所だ。
それほど広くはない公園で如月を見つけるのは容易だった。
(怒ってるよなぁ‥)
そんな事を思いながら歩く。
如月との距離が近づくにつれて、蒼は彼女の姿に魅了されそうになった。
(そういえば誰かが言ってたなぁ。夕陽を背にした如月は、どんな宝石にも勝るほどの魅力だって)
どこで、誰が言っていたのかなんて、そんなこと覚えてなかった。
そもそもこの話すら本当なのか半信半疑だった蒼だがこれを見た以上信じざるをえなかった。
如月「ずいぶんと遅かったね」
如月が蒼に気づき、言葉を発する。
蒼「ごめん。説教喰らってた」
蒼の言葉を聞いて如月はクスクスと笑い、冗談混じりに
如月「神代くんは不良だもんね!」
如月の表情をみて蒼は少し驚いた。
学校が終わってからすでに一時間は過ぎている。少なくともこの寒い中、それだけの時間は待っているハズ。
もしかしたら怒声を浴びせられるんじゃないか、それ以前に帰っているんじゃないかと思った蒼に如月の態度は意外だった。
如月「もしかして、遅れたのを私が怒ってるって思った?」
如月の言葉に蒼はコクンと頷く。
如月「自分で此処に呼び出したんだよ? それぐらいで怒らないよ!」
如月は蒼を背にして夕陽の方を振り向き言葉を続ける。
如月「それに、来ないんじゃないかって思って諦めてたの」
如月は切なそうに声を出した。
その時、蒼は奇妙な感覚にとらわれた。
(なんだ? このやけに良いシチュエーションは!? これってよくある誰もいない場所で夕陽を背景に、こ、告白ってやつか!!)
思春期真っ只中の少年にはドラマや漫画にある、この状況に思いを馳せるのも仕方無い事である。
如月「神代くん。私、どうしてもあなたに‥」
(キ、キタ‥!)
まさにお手本のような如月の言葉により一層、蒼の中で『告白』という二文字が強くなる。