黄昏の道 【月夜譚No.260】
デコピンされた額を両手で押さえる。そんな弟の仕草が可愛くて、彼は思わず噴き出した。
幼い瞳が歳の離れた兄を見上げ、ぷうと頬を膨らませる。それもまた可愛くて、口元に笑みを残したまま弟の頭を撫でた。
「罰ゲームなんだから、仕方ないだろう? それに、そんなに痛くなかっただろ」
「でもぉ……」
愚図りそうな声に彼は眉を傾けて、ポケットから飴を取り出した。レモン味の弟が気に入っているものだ。
それを見た途端、頬が萎んで嬉しそうに瞳が輝く。額から離した手を伸ばして、それを貰えることを露ほども疑っていない。
現金なものだと苦笑した彼は、期待通りにその小さな手に飴の包みを落とした。
早速飴玉を頬張る姿にまた笑って、今度は手を繋いで歩き始めた。
もうすぐ日が暮れる。飴玉一つでは満たされない腹を二人で擦りながら、彼等は夕飯と家族が待つ家に続く道を行く。