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死にたい奴と電話ボックス

作者: 斑鳩 琥

 七月十日、今日も日付が変わる頃まで仕事をしていた。

[こんな人生もう嫌だ…。]

そんなことを思いながら誰もいない大通りをトボトボと歩いていた。

このところずっと始発で出社し終電で帰るような生活が続いている。

[自分の人生こんなはずではなかったのに…。はぁ、いっそ死んでいなくなりたい……。]

そのような最低なことを考えてしまうほどに俺の心は疲弊していた。

[あ…。家に帰ると連絡しないと…。また前みたいに鍵をかけられて閉め出されてしまう……。]

以前この時間に帰宅した際、自宅のドアを開けようとしたらロックがかかっており閉め出されてしまったのだ。

その時妻と[遅くなる場合は連絡すること]と約束したのである。

書類でパンパンに膨れたカバンの中に手を突っ込んで、ガサガサと携帯電話を探した。

やっとの思いで書類の海から携帯を見つけ自宅に連絡しようとしたが、充電が切れていて携帯の画面が暗いまま反応がなかった。

[なんてついていないんだ…。]

俺は携帯を再びカバンの中にしまい、そして何かないかと辺りを見渡した。

するとそこには一つの電話ボックスがあった。


 [電話ボックスか……。]

実を言うと俺は電話ボックスが苦手なのである。

暗い道でポツンと不気味に光を放っており、なぜだがわからないが心の底から近づきたくないと思ってしまう。

しかし今は悩んでいる場合ではない。一刻も早く自宅に電話しないとまた締め出しを喰らってしまうのである。

[仕方ないな。さっさと電話をかけて帰ろう]

俺は決心をし電話ボックスに向かってスタスタと歩いて行った。

建て付けが悪いのか扉を開けるときにギギギ…と不気味な音が鳴り、早くも帰りたい気持ちでいっぱいになった。

そして受話器を耳にあて10円玉を入れてボタンを押した。

しかし何も音が鳴らない。

[なんで繋がらないんだ?]

俺はイライラしながら受話器を戻した。

通常ならその際に入れた10円玉が帰ってくるはずなのに返却口を確認しても何も出てこない。

「なんだよ!!くそ!」

俺は怒りのあまり公衆電話をグーで叩いた。

しかし痛いのは自分の手だけで、結局先ほど入れた 10円玉は戻ってこなかった。

[なんで俺の人生こんなについていないんだ……。]

そんなことを考えていると無意識のうちに目から涙が溢れ出してきた。

[はぁ…。もういいや。このまま家に帰ってどうにかして開けてもらおう。]

下を向いたまま電話ボックスを出ようと扉に手をかけた。

しかしどれだけ力を込めても一向に扉が開かないのである。

[あれ?]

押しても引いてもびくともしない。

俺は額に汗を浮かべながら扉を開けようと奮闘していた。

しかし扉は全く開かないのである。

「おい、なんで開かないんだ!誰か!誰か助けてください!」

俺は一心不乱に大声で助けを求めていた。

「うふふふふ…」

するとどこからか女の笑い声が聞こえてきた。

「なんだ!おい!誰か!助けてくれ!」

俺はパニックになり声が枯れるほど叫び続けた。

どれだけ扉を叩いても扉はぴくりとも開かない。

「う…なんだ。急に視界が……。」

突然視界が霞み始め俺はその場に倒れ込んでしまった。

「息が…でき…。」

朦朧とする意識の中で俺が目にしたものは、電話ボックスの外側に張り付いている髪の長い女の姿だった。

「たす…け…。死ん…しまう。」

俺は最後の力を振り絞りその得体の知らない女に助けを求めた。

しかしその女は、真っ白な顔に満面の笑みを浮かべながらこっちをみているだけであった。

[ダメだ…。くるしい…]

俺は目の前が真っ暗になりその場で動くことができなくなってしまった。

意識が完全に飛びそうになる中、女の声が聞こえてきたのであった。

「あなた、死にたがっている割に毎回命乞いをするのよね。可笑しいわ。そろそろいい加減に死にたいと願いながら死んで欲しいものだわ。ふふふ…。でも私もあなたを最期を見るのは好きなのよ。どうやって殺せば満足してくれるのかしら。次が楽しみだわ…。」

そんな声を聞きながら俺の意識は闇の中に溶けて行ったのである。


 さぁ666 回目の七月十日を始めようか……。


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