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こぼれ落ちた種は  作者: いりこ
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痛み

 いつもの様に千夏は学校が終わると、ひまわりの病室に行った。

 病室に入ると、横たわっていつも笑顔で迎えてくれるひまわり。いつもと同じく満面の笑みで千夏を迎え入れた。ひまわりの母もレース編みをして居た。千夏は二人に挨拶をして、ひまわりと他愛もない話をして笑って居た。

 ひまわりは笑顔だったが油汗をかき始めた。

「ひまわり凄い汗かいてるね。どうしたの? 」

と千夏が聞くと、母が編んでいたレースを椅子に放り投げて飛んで来た。

「ひまわり!また痛み出てるの言わなかったの⁉︎ 」

と言ってナースコールを押した。看護師の走る足音がどんどん近づいて来て扉を凄い勢いで開けられた。千夏もひまわりに何か起こっているか伝わって来て、緊張が走り何もできない自分の鼓動の音量が上がった、

「ひまわりちゃん、また頑張っちゃったのねー。遠慮しないで言ってよ〜。直ぐ痛み治るからね、大丈夫よ」

と看護師は緊張を解す簡単な会話をしながら手際良く点滴の管に薬液をシリンジで注入した。

 ひまわりは横たわったまま、二人に背中を向けた。

「ひまわり」

と母は声掛けた。

「ヨーグルト買ってきて。千夏ちゃんの分もね」

とひまわりは低い声で言った。母は切なそうに溜息を吐いて病室を出た。病室の扉が閉まると目に涙を溜めながら、ひまわりは寝返りをして千夏の方に向きを変えた。

「…ごめんね」

ひまわりが涙声で呟いた。

「痛みはどう? 」

「治まってきた。…いつも喜んで居たいのにね。…痛みってダメよね。痛い時ってお母さん凄く心配な顔するの。お母さん私の為に頑張っててね…。いつもなら『ありがとう』と思えるの。でも痛みが来ると私弱くなっちゃって『ごめんね』でいっぱいになっちゃうの。そうなると自分を責めてしまう…。責める材料は沢山有り過ぎるもの…。

 私が病気になる前にはね、家を建てる予定だったの。お母さん一生懸命やりくりしてお金貯めたのよ。そしてね、お母さん料理好きだから大きなオーブンのあるキッチンにするって言ってたの。

でも私が病気になって家建てる為のお金で東京の病院や他の地方の病院に行って、あらゆる治療して…全部使ってしまって家建てれなくなっちゃった…。お父さんとお母さんの夢…私のせいで叶えられなくなったの」

とひまわりは声を振るわせた。

 千夏はひまわりの手を握った。

「きっとお父さんとお母さんの夢が変わったのね。家よりも、ひまわりの笑顔を見てる事が夢に変わったんだと思う。ひまわりとの幸せな時間を買いたくなったのだと思う。

もしね、ひまわりの治療にお金を使わないで家を建てても、ひまわりが居なかったら…。お母さんが大きなオーブンで美味しい料理を作っても、ひまわりが笑顔で頬張れないなら…、新しい家も寂しい空間になるよ。

なら…ひまわりの笑顔の為にお金を掛けたくなるのは分かるよ」

と優しく言った。

「ありがとう。今素直にそう思う」

ひまわりは千夏の手を握り締めて、再び涙した。二人の手はひまわりの涙で濡れた。千夏は震えるひまわりの背中を撫でた。

 ヨーグルトを買って病室前まで戻って居た母も二人の会話に胸詰まらせて涙が溢れた。涙が止まるのを待って

「ヨーグルト買って来たわよ」

と赤い目で笑って入って来た。

 ここの病室では命が消えようとしては居ない。一生懸命に生きて居る人が集まって居るのだった。

 千夏はひまわりの涙を始めて見た。自分もひまわりに心の中を全て言い当てられて、驚いて居たけど…。ひまわりの優しい強さに驚いて居たけど…。皆んな悩みを抱えて居るんだ…。弱さを待って居ても、その中で生き方を模索して居るんだ…。ひまわりも悩む。大きな病気を抱えて居るのだから当然だろう。でも懸命に生きて居る。 

 命の尊さを感じずには居られなかった。

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