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こぼれ落ちた種は  作者: いりこ
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クラスの輩

 千夏の土下座の件があってから、柚達の嫌がらせは拍車が掛かった。今迄隙を見せなかった人が甘んじて嫌がらせを受け入れたと云う行動は、柚達に勝利感を与えた様だった。そう感じていたのは岩野も同じだった。

 千夏は『そんな輩』と冷静に捉えて動じないで過ごした。

 

 ある日の給食の時間、千夏の席に配られたうどんの中に練りからしをチューブ一本分を柚が絞り出して居た。

 給食当番の作業が終わり着席した千夏は、うどんに乗ったからしを見て手を挙げて

「先生、私のうどんにからしを大量に入れられてます」

と申告した。柚達はクスクス笑っていた。岩野は

「お前父親死んで貧乏なんだろ?じゃあ我慢して食えよ」

と、うどんを頬張りながら応えた。千夏は

「からしだって食べ物を美味しくするために作られてます。嫌がらせの道具にするなんて食べ物を粗末にした人を叱るべきじゃないですか?先生」と岩野を強い視線で見た。

「貧乏人が与えられた食事にケチ付けるのか?文句言わずに食えよ」

と岩野が箸を置いて席を立ち詰め寄ると、柚と夢香と綾乃も

「新聞配達だけで暮らしてるのでしょ?なら有り難く食べるべきよね」

「自分でからし入れて、人のせいにしてるとか? 」

「そうよ!お母さんが泣き女だから此処で発散してるのよ! 」

と嘲笑った。この泣き女で千夏は反応した。

「泣き女って綾乃言ったよね。今言ったよね』

千夏は詰め寄った。綾乃は『何か不味い事言ったのか…』と怖くなり後退りした。すると柚が

「だって本当に泣き女じゃない! 」

と横槍を入れた。その横槍を聞いて千夏は

「その泣き女って、どこで知ったの?ウチの玄関扉に『泣き女』って毎日マジックで書かれてるの。書いた本人じゃないと知らない筈よね。アンタ達が書いたから『泣き女』って言葉が今でたのでしょう⁉︎ 」

千夏は核心を突いた。柚達は口をパクパクしてアタフタした。

 岩野が

「給食の時間だぞ。文句言わずに食べろ!お前は皆んなの迷惑になってるのが気付かないのか! 」

と怒鳴った。

「この問題の解決はどうでも良いと言う事ですか⁉︎ 」

千夏はは真っ直ぐ岩野の目を見た。怯まない千夏の目に岩野は怯えた。しかし興奮が冷めず引き下がる事が出来なくなり、うどんの器を千夏に放り投げて

「サッサと拾って食え!野良犬みたいな顔しやがって! 」

と怒鳴った。

 それでも千夏は怖がらずに岩野を凝視した。岩野は震えながら一歩後ずさった。

「片付けろ! 」

と千夏に怒鳴り付けたが、指差している手が震えていた。

「先生が散らかしたのだから、自分で片付けてください」

と言って千夏はトイレに行き、制服の汚れを落とした。その間岩野は身の置き場所を探す様にアタフタした。そして千夏の隣に座っている生徒に

「お前が片付けろ! 」

と怒鳴った。生徒は岩野をチラチラ見ながら無言で片付けた。

「何見てるんだ! 」

岩野のヒステリーは治らなかった。教卓に戻りうどんを再び食べ始めたが、顔は怒りで真っ赤になって居た。

 隣の席の子が拭いた雑巾を洗いに来た。千夏が制服の汚れをまだ落としている最中だった。

「あっ、ごめん…。貴女が片付けてくれたの? 」

申し訳無さそうに言う千夏の穏やかさに驚きながら

「いや、いいのよ。でも細谷さん先生や柚達に囲まれてあんなに言われて…からし入れられたりしても動じないのよね。凄いよ」

と雑巾を洗いながら言った。

「だって、真っ当で居たら怖い物無いから」 

と千夏は制服をハンカチで履きながら応えた。そして 

「雑巾私が洗うわ」

と申し出ると、

「いや私洗っとく。真っ当なんだもん。先生のぶち撒けた処理少しでもしない方が格好良いよ」

と洗い続けた。

「ありがとう。ごめんね後始末させちゃって」

と千夏は教室に戻り、何も無かったかの様に無事だったヨーグルトを食べた。

 落ち着いている千夏を見て、岩野の興奮した赤い顔は、青ざめた顔色に変わった。

 柚は今回の不発弾に終わった様な出来事を苦い顔で、悔しさを給食と共に飲み込んだ。

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