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こぼれ落ちた種は  作者: いりこ
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ひまわりとは

ひまわりが病に伏す姿を見て千夏は言葉を失った。それを見たひまわりはプッと吹き出して笑った。

「な、何がおかしいのよ⁉︎ 」

「だって予想した通りの顔なんだもん」

驚きとひまわりの抱えている物に、千夏はどう接して良いか困惑した。

「フフフ…『大丈夫?』と聞いても大丈夫じゃ無さそうだし、言葉見つからないし『何の病気?』とも聞きずらいし困ってるんでしょ? 」

ひまわりの言う通りだった。

「あっ、何でわかるの?って顔してる」

とひまわりは屈託なく更に付け加えた。

 千夏もこんなに太刀打ち出来ずに困惑するのは久しぶりだった。掌で転がされる…まさにその通り、ひまわりの掌の中に居た。

 ひまわりは自分の病気の事を話し始めた。

「私末期癌なの。見つかった時にはもうあちこちに転移しててね。色々治療してみたけど悪化する一方で。だから残りの時間は死を待つのではなくて、全部大切に生きる事に決めたの。だから  痛みや苦しみを取り除いて貰う治療だけしてるの。あと2ヶ月くらいかなあ。だからその2ヶ月は、貴女と楽しく過ごす事に決めたの! 」 

と生き生きと話した。千夏は

「えっ…待って。死ぬって…。まだ治療法何かあるかもしれないじゃ無い」

ひまわりが生きる術を見つけれる様に…と言わずにはいられなかった。

「うん、全部やったのよ。ぜーんぶ!でも悪化したのよ。今日も昼休み終わったら帰ろうと思ったけど、無理だったなぁ。その前に早退しちゃった」

「もう一度何か方法探してみたら?何かあるかも…」

「うん、何回も調べた調べた!日本国中の病院行ったのよ。でも悪化したのよー。全てやり尽くしてもう治療法無いの」

「いや、もう一度…」

と千夏が食い下がるとひまわりは笑った。

「ね、助けたくなるでしょう?力になりたいって」

「そりゃあ…」

ひまわりの言葉を遮り諦めない何かを探そうとして居た。

「だから生きて行ける貴女が、自分の人生半分諦めてるの見てたら助けたくなる私の気持ち分かるでしょ」

千夏は言葉に詰まった。全て見透かされている…。無神経ではなかったんだ…。再び言葉を失った。

「何で私を助けたいの? 」

「貴女は目が綺麗だから。真っ直ぐでブレない瞳だから。死期が迫るとね、人の気持ちに敏感になるの。不思議がってキツネにつままれた様な顔してる貴女に力になりたいの」

ひまわりの顔は優しい顔をしていた。千夏はこんな優しい眼差しを注がれたのは久しぶりだった。その眼差しに戸惑って居た。そして

「柚達と仲良くしてたじゃ無い」

ポツリと言った。

「柚ちゃんは意地悪よね。近づいてきたから話したけど。一緒に居る子達は柚にいつも気を遣ってる。自分が標的にされない様に…。柚ちゃんは 幸せな状況に素直に喜べないよね。貴女はちゃんと幸せに感謝できるもの」

この短時間でクラスメイトの性格を見極めている…。千夏はそんなひまわりの感性の鋭さに また言葉を失った。

「千夏ちゃん、毎日ここに来て。3分でも良いから」

飾る事なく笑顔で言うひまわりの顔を見て、千夏は断る事も出来ず

「うん」

と返事をした。

「絶対よ!絶対! 」

ひまわりに念を押され明日来ない訳に行かなくなった。

「分かった」

そう言って病室を後にした。

 帰り道千夏は気付くと、ひまわりの病気や迫った死期、感性を反芻する様に思い巡らせていた。

 新聞を配達しても噂する人達を自分から日々無視していたが、今日はひまわりの事が何度も頭に浮かんでいる間に仕事は終わった。

 玄関扉の落書きを消して居る時も、直ぐ後ろで大家が言う長い小言が耳に入って来なかった。無反応な千夏に呆れ疲れて部屋に戻って行った。

 ひまわりの存在と言動が兎に角衝撃的だった。千夏は次の日の学校帰りも気付けば、ひまわりの病室に居た。

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