霊感刑事の予感とジャスミンの決意と俺の動揺
「ところで長谷川さん、最近、何か変わったことはなかったですか?」霊感刑事はコーヒーメーカーからホットコーヒーの入った紙コップを取り出しながら訊いてきた。
「うーん、そうですねぇ。変わったことといったら、やはりジャスミンさんが霊を見えるようになったことと、権左衛門という老人幽霊がこの店に来たことぐらいかな」俺は隣のジャスミンを見ると、彼女は恥ずかしそうに頷いた。
「ほう、ジャスミンさん。ここに来て幽霊が見えるようになったということは、私と同じですね。じゃあジャスミンさんも元々霊感はあったのですね?」
「アッ、ハイ。小さいときからユーレイの声を聞いたり、ユーレイのいる雰囲気を感じたりしてイマシタ」
「うむ、やはりこの店は霊力を増す場所みたいですね。それとも・・・・・・」袴田さんはそう言うと何か考え始めた。俺は熟考している袴田さんを見ていると美月の言葉を思い出した。
「袴田さん、一つ大事なことを忘れていました。俺の大学の講義で北山大悟の後任が決まったんです」
「えっ、もう後任が決まったのですか? あの対決から二週間くらいしか経っていないのに」
「ええ、そうです。東川靖という准教授ですが、六日前に北山大悟の後任として講義も行いました」
「長谷川さん・・・、その東川准教授は北山大悟の関連はあるのですか?」霊感刑事の眠たそうな眼が強い光を帯びてきた。
「うーん、まだその辺りはわかりません。だけど早川さんは東川准教授が北山大悟の学説をよく理解していると評価していました」
「・・・・・・」袴田刑事はまた何事か考え始めた。
「ハセガワサン、早川サンがどうかシタノデスカ?」隣のレジでヨーコ、坂下と話していたジョージが訊いてきた。こいつは好きな女性に関しては地獄耳なのだ。
「どうもしていないよ、早川さんは。俺の大学で北山大悟の後任が決まったってことを袴田さんに報告しただけだ」
「オーッ、アノ北山の後任ということは、ソイツハ北山大悟のヘンテコな理論を受け継いでイルンジャナイデスカ? 大変デス。マタ早川サンが洗脳サレマス。ボクがタスケニ行かなければ」こいつ、何言ってんだ?
「早川さんは普通に元気だ」俺はジョージに冷たい視線を送ったが、仕事をしない同僚は北の森で早川さんを介抱したことを思い出しているらしく相変わらずヘラヘラしている。
「なになに、クモちゃん! まだあの北山の子分がいたのか、ワン? そいつはワルモノだ、ワン。あの時みたいに、やっつけるだ、ワンワン!」
「フフフッ、また僕たちの出番のようですね」お前たち幽霊二人はあの時、ビビッて何もしてなかっただろ。
おバカトリオは袴田刑事のところに行って「ボス、やはりこれは新たな事件の始まりですぜ、ワンワン」とか言って騒いでいる。柴丸も「バウバウ」言いながら短い尻尾を振っている。
「長谷川サン・・・」ジャスミンが心配そうに俺を見た。
「アッ、ジャスミンさん、ゴメンね。あいつらがギャーギャー騒ぐので、ジャスミンさんの悩みをしっかり聞いてあげられなくて」
「イイエ、そんなコトありません。権左衛門サンのコトもどうしたらいいか、分かりましたし」
「それは良かった」俺は少し安堵した。
「長谷川サンはあの連続殺人事件に巻き込まれたのデスネ」
「エッ、ああっ、そうだけど・・・」俺は嫌な予感がした。
「長谷川サンの特別な力を取るために、北山というワルモノが長谷川さんの霊を乗っ取ろうとしたとジョージさんたちが言ってイマシタ」あいつらはホントに何でも無節操にペラペラ話す能天気トリオだな。
「長谷川サンがやられそうになったトキ、ジョージさん、ヨーコさん、坂下サンが大活躍して長谷川サンを助けて、ワルモノをやっつけたのデスネ」見事に全然違う。俺はいつものように訂正する気力も失ってしまった。
「長谷川サン、いつもイロイロ助けてもらって、ありがとうございます。ワタシもユーレイを見えるようになったから、長谷川サンのお手伝いとか手助けになることをしたいと思ってイマス・・・」ジャスミンは黒い瞳を潤ませ恥ずかしそうにそう言った。
「あ、あっ、ありがとう・・・」俺はそう答えるしかなかった。そして左胸がチクッと痛んだことに訳もなく動揺した。