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美月との朝食中にジョージ達を思い出してはダメなのだ!

「・・・・・・、ハッ」気がつくと俺の左頬に美月の白い人差し指が当たっていた。妹の澄んだ銀色の瞳が俺を見つめている。

「どうしたの、お兄ちゃん。お店で疲れることとかあったの?」優しく可憐な妹はちょっと心配そうに訊くのだ。あの能天気な三人組とは比較の対象にすらならない。

「いや、まぁ、そのーっ・・・同僚の女の子が霊を見ることができるようになったんだ」

 俺は美月の淹れてくれた朝のコーヒーを飲みながら答えた。

「その女の子はフィリピンから来たジャスミンさんかな」

「うん、そうだ」俺はトーストを食べながら、いつものように妹の聡明さに感心した。一を知れば十を知るとは美月のことだ。ジョージなんかは仕事を一つ教えても五秒後には忘れてしまう。しかしあいつはジャスミンの前では普通に脳が働いてちゃんと仕事をする。あいつは俺と一緒だと楽しそうにヘラヘラして女の子のことばかり考えて仕事をしない。俺という存在がジョージの助平スイッチを押してしまうのだろうか?

「お兄ちゃん、大丈夫?」美月が首を傾げて心配そうに俺を見ている。

「あ、ああっ、大丈夫だ。ちょっと店のことで考えることがあって・・・」いかん、いかん。貴重な美月との朝食タイムに、あのヘンテコなアメリカ人のことなど考えては、それこそ時間の無駄と言うものだ。

「そのジャスミンさんも幽霊さんが見えるようになったということは元々霊感があったのかしら?」

「ああ、幽霊の声が聞こえるとか、その雰囲気が分かるとか、彼女は元々霊感があったとジョージが言っていた」

「それじゃあ、袴田刑事さんと同じだね、ジャスミンさんは」

「あっ! そうだな」俺はくたびれたポロシャツ男、霊感刑事袴田さんのことを想い出した。彼も俺の勤めているコンビニエンスストアに通うようになって、霊的能力がアップしたのだ。

「うーん・・・・・・」俺は再び考え込んでしまった。俺はものごころつく頃から幽霊が見えていて彼らと話もしてきた。変な話だが俺は普通の人間よりも幽霊の方が話しやすかった。そのためか幽霊がやたら俺に近づいてくる。袴田刑事が言っているように俺が幽霊を呼び寄せているのだろう。だけど一年半前のマー君殺人事件あたりから様子が変わってきた。北山大悟が犯した連続殺人事件はこれまでの俺と幽霊たちとの交流を質的に変化させた。その質的変化は何なのか分からないでいる。そして袴田刑事とジャスミンの霊的覚醒。それらの原因は俺の存在なのだろうか。それとも三丁目のコンビニエンスストアという場の力が大きく影響しているのだろうか。

「お兄ちゃん・・・」気がつくと俺の左手を美月の両手が包んでいた。

「あまり一人で抱え込まないでね」美月は微笑みながら言った。俺は美しく優しい妹の笑顔を見ると、強張った体がユルユルと解けていくのを感じた。

「美月、もう一つ考えていることがある」

「うん、何かな、お兄ちゃん」妹は俺の黒いコーヒーカップに二杯目のコーヒーを入れている。

「俺は大学で北山大悟の『深層心理学概論』を受講していただろ。だけどあいつが意識不明になって休講になっていた。それが昨日、新しい東川靖という准教授が北山の後任で教室にやって来たんだ」

「エッ、あの事件から二週間しか経っていないのに、もう後任の先生が現れたの?」

「それに北山大悟の助手だった土田詔子も新しい東川准教授の助手みたいだ」

「じゃあその新任の准教授は体に障がいがあるのかな?」

「ああ、彼は車椅子に座って講義をした。そのことは特に講義に支障はなかったけど」俺は美月の美しい銀色の瞳がやや黒っぽくなっているのに気づいた。この変化は妹の天才的な頭脳が高速回転しているときに現れる。

「講義の内容はどうだった、お兄ちゃん?」

「あー、そうだなぁ。北山の後を任されたということだけど、スムーズだったかな。早川さんも東川准教授のことを評価していたよ。北山の理論を深く学んでいるって言っていたな」

「早川さんは相変わらず北山教授を信奉しているのね。あの時のことは全く覚えていないのかしら?」俺は一瞬ドキッとした。俺たちが北山一味と対決したとき、北山の奴は早川さんが好きな男は俺だということを暴露した。俺の左腕にあるデジタル腕時計型盗聴器がその言葉を受信して俺の近くに待機していた美月もそのことを知っているはずだ。何だか分からないが俺は精神的にオタオタしてしまった。

「おそらく覚えていないと思う・・・」

「早川さんが新任の准教授を高く評価しているのならば、その東川って人も北山教授の危険な思想の信奉者かもしれないわね」美月は少し困った表情を浮かべた。

「俺もそう思ったんだ」

「でもお兄ちゃん、それはあくまで可能性としてであって、東川准教授はあの事件と関わっていないかもしれないよ。北山教授は本もたくさん書いていたし、心理学会では異端だけども彼を支持する人もいたと思う。だからあまり悩まないでね」兄想いの妹は明るく言った。

「ああ、分かった・・・・・・」俺は美月の言葉を聞くと体も心も軽くなったけど、何故かコーヒーの苦みが残っていた。



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