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酔っ払っていても美月の脳は高速回転する・・・

 午後九時過ぎに家に帰ると玄関にニャン太郎が待っていた。小さな白猫幽霊は俺を見て「ニャニャニャニャニャ」と心配そうに言った。俺は猫語が分からない。ヨーコは「ニャンニャン」と言っているが、あいつも当然猫語はわかっていない。

「ただいま」俺は台所に入ると美月がいきなり抱きつきてきた。

「おかえりーぃ、お兄ちゃーん」酒臭い!

「美月、酒飲んでいたのか?」食卓には半分以上減っているボウモアの瓶とアイスペールとグラスが二個並んでいる。

「だってぇ、今晩せっかくぅ一緒にごはん食べるはずだったのにぃー。もうーぅ、またジャスミンさんに邪魔されたしーッ」

「邪魔って言われても・・・。ほら美月も言ってたじゃないか。このところ俺の周りでまた変なことがあって、慌ただしくなってるって」

「だからってぇ私とお兄ちゃんのぅ、大切な時間を奪うってひどくないですかぁ。ジャスミンなんか嫌いだぁ!」酔っ払いだ。母親の七海さんに似ている。

「美月、酔ってんのか?」

「まったく酔ってません! まったく素面ですぅ、ヒック」酔ってるな・・・。

「美月、たくさん飲んだんだろ。ほら水でも飲むか?」俺はくっついている妹を離して彼女の席に座らせた。

「お兄ちゃんーン・・・。ワタシとの―ッ、夕ご飯をすっぽかした罰でぇー一緒にぃお酒飲もうよぅ。じゃなにゃいとぅ、許さにゃいんだからぁー」何だかヨーコの喋り方に似てるな。それに目が座ってるし。俺は仕方なくグラスに氷をいれスコッチウイスキーを少し注いだ。足元のニャン太郎が同情して「ニャーニャンニャニャァ」と言ってくれた。

「カンパーイーッ!」美月は嬉しそうに自分のグラスと俺のグラスを合わせた。そして美味しそうに琥珀色の液体を喉に流し込んだ。豪快な飲みっぷりである。

「美味し―ッ。やっぱりィお兄ちゃんと飲むとぉー最高―ッ。お兄ちゃんもぅ飲んでようーッ、ヒック」

「アッ、ああ」俺は少しだけボウモアを飲んだ。カッとした刺激が口中に広がり食道から胃にかけて熱い塊が通っていく。

「お兄ちゃん、美味しいィ?」美月は首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。銀色の瞳が碧くなっている・・・・・・。

「アッ、ああっ美味しいよ」俺は酒類全般の味がまだ分からないのだ。

「じゃあーっ、この間の出来事を教えてぇ」美月はそう言うと座っている椅子をジワリと動かした。俺は昨日の夕方、袴田刑事のホームレス殺害疑惑ことを話した。

「ホームレス殺害疑惑ぅですかぁー」美月はそう言うと椅子をまた動かした。それから俺は仕事帰りに教会の炊き出しのことを話した。

「ふーん・・・。西田夕子さーんとぉ・・・赤城史郎、しろーぅさんですねぇ」美月は「史郎、しろーぅ」と呪文を唱えるように数度繰り返し、またボウモアを飲んだ。

「アッ、にゃくなっちゃった。お兄ちゃーん、ボウモアお代わりぃ、お願いーぃ」俺は言われるままに妹のグラスに氷とスコッチウイスキーを淹入れると、美月は嬉しそうにグラスにピンクの唇をつけた。

「アーッ、やっぱりぃ、お兄ちゃんがぁついてくれたぁ、お酒はぁ最高にぃ美味しいよぅ」

 美月は七海さんの影響で一六歳くらいから酒を飲んでいた。と言っても食事中にワインを少したしなむとか、七海さんが家に帰って来た時に一緒にウイスキーを飲むとかぐらいだ。今回のようにちゃんと酔っぱらっている美月を見るのは初めてだ。どうしたのだろうか?

「お兄ちゃーん、大学ではぁ何かぁにゃかったぁ? ほらぁ今朝ぁ、北山大悟が死んじゃったでしょーぅ。北山大悟のぉお弟子さんのぉ東川准教授についてぇ何かぁにゃかったかニャ?」美月は酔っぱらっているのに、どうしてこんなに頭が回転するのか? それに何となく猫語だし・・・。

「ああ、早川さんは北山大悟のゼミナールに入りたいって言っていた、東川准教授が引き継いだゼミナールに。そのことで俺に協力してほしいって言ってきた。またあの変なゼミナールが開催されるらしい」

「ウーン、早川さんはぁやっぱりぃ北山大悟教授ぅひとすじだにゃーっ、偉ぁーい!」えっ、偉いのか? また美月はにじり寄ってきて俺と妹の椅子はピッタリくっついてしまった

「お兄ちゃんーっ。ウィー、北山大悟はぁ確かにぃ殺人を犯したぁ最低の人間だけどぉ、早川さんがぁ北山教授をぉ想うことはぁ別だと思わにゃい? ヒック」美月は両手を俺の右手に絡ませって半ば閉じかけた碧い瞳で俺を見た。

「そうかなぁ・・・」

「フフフッ、フニャフニャ」美月は微笑みながらその柔らかい体を俺に預けた。

「ねえ、お兄ちゃん・・・。ジャスミンさんとはぁどんなこと、話したのぅ?」美月の声が低くなったような気がして俺は体が強張った。俺は冷静さを装いレインボーでの会話の概略を酔っぱらっている美月に伝えた。

「にゃるほど、にゃるほど・・・西田夕子女史のぉ、お勉強会のぉお誘いですかぁー。にゃるほどーっ」美月の天才的な頭脳は酔っぱらっているけど、高速回転しているらしく碧い瞳がさらに深みを増した。そしてグラスに残っているボウモアを一気に飲み干した。酒豪だ! 母娘揃って・・・。美月を見て、それから俺を見たニャン太郎が小さく「ニャ」と言った。



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