ジャスミンはチーム・ジョージのサポートで霊的覚醒したんだ、ワン!
「お疲れさまデス。長谷川サン、チョットだけいいデスカ?」俺が勤めている三丁目のコンビニエンスストアに入ると、勤務を終えたジャスミンが話しかけてきた。
「うん、いいよ」
いつも明るいジャスミンが少し不安そうな顔をしている。
「どうしたの? ジャスミンさん。ジョージが君に変なことしたの?」ジョージはジャスミンも大好きなのだ。
「いいえ、そんなことアリマセン。ジョージさんはいつも私に良くしてくれます。そうじゃなくて、私、最近変なヒトが見えるんです」
「んん・・・・・・」俺は嫌な予感がした。変なヒトと言えばジョージだが、あいつは元からヘンテコだしキュートなフィリピン人のジャスミンの前ではいい格好をする。
「お化けというかユーレイって言うのですか? ぼんやりとしたヒトの姿・・・がお話していて」ジャスミンは不思議そうに俺を見ている。
「ジャスミンさんは幽霊をこの店で見たの?」
「ハイ、イートインスペースで若い男のヒトと女の子と小さな犬がいます。あの・・・長谷川サンもユーレイが見えるってジョージさんが言っていました」ジョージの奴はホントに余計なことをペラペラと・・・んん、そう言えばあの助平外国人は何処に? と思いイートインスペースを見た。案の定ジョージとヨーコとナルシー坂下、おバカ三人組がヘラヘラと喋っている。
「おい、ジョージ! お前何やってるんだ。ジャスミンさん、帰るぞ」
「オーノー! ジャスミンチャン、お疲れさまデシタァ」ジョージは脱兎のごとくジャスミンの前に移動した。相変わらずバカげた身体能力だ。
「ハセガワサン、ジャスミンチャンはヨーコチャンたちが見えるようにナリマシタ」
「ああ、今ジャスミンさんから聞いたよ」ジャスミンは少し困った顔をしている。
「ジャスミンチャンにヨーコチャンたちは怖くない、優しいヒトたちですゥと紹介しました。ジャスミンチャン、怖くないデスヨネーッ」ジョージはやけに嬉しそうだ。
「ジャスミンさん、大丈夫? やっぱり幽霊が見えることは怖いんじゃない?」
「イイエ、大丈夫です。やっぱり幽霊を見えるようななったことはトテモ驚きました。だけど以前から、このお店は何か他とは違った感じがしてマシタ。それにジョージさんや長谷川サンも見ることができるって聞いたので安心シマシタ」
「ジャスミンチャン、大丈夫ですゥ。ユーレイがヘンテコなことしても僕がお守りシマース! 任せてクダサーイ」ジョージ、お前が一番ヘンテコなコトするだろ!
「ジャスミンさん、何か不安なことがあれば僕にも遠慮なく言ってください」
「あっ、ありがとうございます」ジャスミンは少し照れながらそう言った。
「じゃあ、ワタシ、帰りまマス。ジョージさん、長谷川サン、お先に失礼シマス」ジャスミンはジョージと俺にペコっと頭をさげ、それからイートインスペースに向かって同じように頭を下げた。
「ジャスミンさん、お疲れ様―ッ」
「ジャスミン、バイバーイ!」坂下とヨーコの声が聞こえた。その声を聞くとキュートなフィリピン女性は曖昧な微笑みを浮かべて店を出て行った。
「フフフッ、ジャスミンチャンもついて霊的にカクセーしましたネ、ハセガワサン」ジョージの顔は相変わらず緩んでいる。
「何だよジョージ。ジャスミンさんが幽霊を見えるようになったことがそんなに嬉しいのか?」
「イエス、イエス、ハセガワサン。ジャスミンチャンが霊を見えるようになったのは僕のエイキョウですゥ。ジャスミンチャンは愛するジョージさんのようになりたい、ジョージさんとオナジ世界のフーケイが見たいと願い、ソウなったのデスゥ」
「でもジャスミンさんはお前が霊を見ることができるって知らなかっただろ?」
「フフフッ、甘いですね―ッ、ハセガワサン。ジャスミンチャンはモトモト霊感があったのデスゥ。ユーレイのフンイキとかコエとかハヤクカラ察知出来てマシタ。ソレニこの店はレーカンの強いヒトがよく集まるジャナイデスカ」ジョージがドヤ顔してる。何考えてるんだ、この男?
「クモちゃんは相変わらず女の子に鈍いだワン!」
「女の子だけじゃなくて物事全般に鈍いですよ、お兄様は」相変わらず失礼な幽霊たちが俺の前に現れた。
「ひょっとしてお前たちがジャスミンさんにいろいろちょっかいをかけたのか?」
「ちょっかいではないのだ、ワン。霊的カクセーのためのお手伝いをしたのだ、ワン」
「何だよ、その霊的覚醒のお手伝いってのは?」
「それはジャスミンさんの周りに居たり、声掛けしたりして霊の居る環境に適応できるようにしたのです。僕の美しい声を聞くと、やはり気分が良いと思いますよ、ジャスミンさんは」ナルシー坂下が偉そうに説明している。
「ジャスミンチャンは幽霊のコエとかオトは早くからキクことがデキタから、ヨーコチャンと坂下クンにイロイロお話してもらいマシタァ」ジョージが意味ありげにニタニタしている。俺はまた嫌な予感がした。
「クモちゃんは幽霊にもタッチできるぅ危険でエッチな男だワン。クモちゃんはあたしを何度も強引に抱きしめてアヘアへハアハアドッピュンしたって、ちゃんと伝えワン」また事実を捻じ曲げて言う女だな、ヨーコは! それに俺はアヘアへもドッピュンもしていないぞ!
「それから北の森の美しく気高い守り神のシロに頭を舐められて、直立不動の姿勢で硬直して鯉の口になった超ビビりパクパク男ということもお伝えしました、お兄様! パクパク」この勘違いナルシストもまた、そんなことを言う。それにそんな下らない話でジャスミンの霊的能力がアップするのか。このおバカトリオは毎回どうしてこんなバカバカしいことをするのだろう?
「ジャスミンチャンもこれで『チーム・ジョージ』の一員になったのデスゥ! オーッ、イエ―!」ジョージが右手を突き上げてそう叫んだ。すると柴丸はワンワンと吠え、ヨーコと坂下は「イエ―!」とか「キャーだ、ワンワン」とか言って軽薄な締まりのない顔をして喜んでいる。
んん? 「チーム・ジョージ」って何だ? おバカの変態集団か? 俺はその下らないメンバーになった記憶はないし、賢明なジャスミンだってきっと入らないだろう。それよりも霊的覚醒したジャスミンが霊に関わる事件に巻き込まれるのではないかという不安が、俺の胸に沸き上がってきた。俺はその予感が外れてほしいと思ったが、口の中に錆びた鉄を噛んだような嫌な感触があった。