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ジャスミンの手はゴッドハンド!

「お疲れ様デス。長谷川さん」レジにいるジャスミンの笑顔に俺は顔が緩んでしまいそうになる。

「ハセガワサン、最近、オミセにクルノガ早いデスネーッ」ジョージの奴、意味ありげにヘラヘラしている。こいつのヘラヘラ顔はいろんなパターンがあるのだ。基本形は女の子のことを考えている能天気なヘラヘラ顔で、あとは誤魔化したときのヘラヘラ顔―この時はヘンテコな日本語が少しつまり気味なる。今回は俺がジャスミンに対して好意を抱いているのではないかと思案しているヘラヘラ顔だ。まあどうでもいいことなのだが、この聖職者修行中の男が何故いつもヘラヘラと笑っていられるのか? こいつの信奉している神様はヘラヘラ神か?

「ジャスミンさん、昨日は介抱してくれて、ありがとう」

「エッ、いえ、そんなこと・・・。長谷川さん、痛みはないデスか?」

「うん、ジャスミンさんのおかげで痛みはほとんどないよ」

「ソーですか。良かったデス」

「ウウウッ、ジャスミンチャン。ボクモ立ちっパナシデ腰がイタイですゥ。そのオテテでカイホウしてクダサイ」ジョージの奴、わざとらしく「イテテ」と言いながら腰を曲げている。

「ジョージ、嘘つくなよ。お前は四十八時間立ちっぱなしでも平気だろ!」

「ハセガワサン、ソンナぁー。ヒトを体力バカミタイニ言わないでクダサイヨ、イテテ」

「お前は胸にナイフが刺さっても平気で次の日に仕事してただろ」

「オーッアノトキは、ミツキチャンが愛ヲコメテ優しくチリョウシテクレタからデス。アッ、ソウダ! オニイサマ。今回のジケンノコトヲ、ミツキチャンとイッショに検討シマショウヨ」ジョージの奴、美月の姿を思い浮かべたらしく、スッと立って、また能天気にヘラヘラ笑っている。

「そのお兄様はやめろよ、気色悪い。それに美月は研究で忙しいんだ。ジョージ、お前は腰が痛かったんじゃないのか。何真っ直ぐ立っているんだ?」

「アッ、忘れてマシタァ」すぐ忘れる奴だな。

「あの長谷川さん。あちらに袴田刑事サンが来られていますヨ」ジャスミンの小麦色の左手がイートインスペースを指し示した。

「ジョージ、また忙しい袴田さんを呼んだのか?」俺はキっとジョージを睨んだ。

「ノーノ―、チガイマスヨ。コンカイハ、ボスがジブンカラ来たのデスヨ。サクヤの武吉サンノコトは報告シマシタケド。ボスもチーム・ジョージの一員デスカラ」

「何で袴田さんがチーム・ジョージの一員なんだよ。それにジョージ、袴田さんがボスならチーム・ジョージじゃなくてチーム・ハカマダだろ?」

「マアマア、ソンナ細かいコトはイイジャナイデスカ。ソレニチーム・ハカマダよりもチーム・ジョージの方がカッコイイデショ」何言ってんだ、こいつは。ジャスミンが少し呆れている。

 俺はジョージとのバカバカしい会話を切り上げてアイスコーヒーのLサイズを二つ作り袴田さんが座っているところに行った。例によってヨーコとナルシー坂下が霊感刑事にまとわりついている。柴丸は大人しく袴田さんの足元に座っているが。

「こんばんは、袴田さん。今日はどうしてここへ?」俺はアイスコーヒーを霊化しながら疲労感満載の霊感刑事に尋ねた。相変わらず紺色のポロシャツもくたびれている。

「ええ、少し長谷川さんにお知らせしたいことがありまして。それからヨーコさんたちから聞いたのですが、昨夜も新人の幽霊が燃えて消えてしまったのですね」

「はい、宮本武吉という爺さん幽霊でこの前の三井ハルさんと同じように灰色の炎に包まれ化け猫のようになって消えてしまいました。その爺さん幽霊も孤独死してます。それからジャスミンさんの施設の利用者です」袴田さんは静かにホットコーヒーを飲みながら俺の話を聞いていた。

「孤独死はとても多くて老人の場合はほとんど事件性が無いと見られています。殺人事件も今はとても多いですから」

「じゃあ、化け猫に変化した老人の死は殺人事件としては見られないと・・・。俺から見たらかなり変な死に方だったと想像しますが」

「そうですね。長谷川さんのような霊能力者から見れば怪しい死に方をしたのだろうと推測もできます。ただ一人暮らしの老人の孤独死は日常茶飯事ですから。ヨーコさんや坂下さんのように特殊な事件であれば別ですが」

「そうですか・・・」俺は霊感刑事の話には納得できなかった。袴田さんも仕方なく話しているという感じだった。

「へぇー、ノボル君。あたし達のジケンは特別だってぇ、凄いんだ、ワン」

「フフフッ、やはり僕たちの事件は超A級殺人事件だったのですね」ナルシー坂下は相変わらず名探偵の推理ポーズをして自己愛に耽っていた。俺と袴田さんは喜んでいるおバカコンビを無視して話を続けた。

「ところで長谷川さん、最近、ホームレスの孤独死も増えているのです。ホームレスの人たちは不健康な人がほとんどですのでやはり急死するケースが多い」

「はい・・・」俺は何か嫌な予感がした。

「ただ、最近の増え方が私には何か引っかかっています。ホームレスの死の中に僅かばかり人為的なケースがあるような気がするのです」

「・・・・・・」胸の内に不安の雲が広がった俺の隣にジャスミンがいた。

「ボス、その人為的なケースというのは殺人ということですね?」迷探偵坂下が再び小皺を寄せた眉間に人差し指を当てるポーズをして口を開いた。

「ええ、そうです」

「その根拠は?」坂下は普通の探偵っぽく訊いた。

「たまたま亡くなったホームレスの人の現場に行かされましてね、その人を見たときに何か違和感がありました。一応ホームレスの方が亡くなった場合、状況確認して事件性の有無を判断します・・・まあ形式的なものです」

「ナルホドーッ、ボス、コレはヤハリ連続殺人事件デスネーッ。チーム・ジョージの出番デスゥ」

「おい、ジョージ。レジはどーした?」

「エーッ、ボクハずっとレジにイマシタヨ。それにボクはチーム・ジョージのキャプテンだからハカマダさんのオハナシをキカネバならないデショ。ハセガワサン、そろそろコウタイシテくださいヨ」チーム・ジョージは少人数なのにキャプテンとボスがいるのか?

「フン」と言いながら俺はレジにもどった。

「長谷川さん、私ももう少しいますネ」ジャスミンが隣のレジに入った。

「ジャスミンさん、もう十一時になったよ。帰らなきゃ」

「アッ、ハイ。でも明日は土曜日でみどり苑のお仕事、お休みですから大丈夫デス。それより長谷川さん、少し顔色が悪いようですが、大丈夫ですか? やはり昨日の痛みがまだ残っているのですカ?」俺の顔色が冴えないのは袴田さんの話を聞いたからだ。だけどさすがにそうは言えない。

「いや、あの、この時期はちょっと苦手で。蒸し暑いでしょ」

「アッ、そうですね」

「昨日の痛みはジャスミンさんが介抱してくれたので、ホントになくなったよ。ジャスミンさんの手はゴッドハンドだね」話下手な俺なのに何故か言葉が淀みなく出る?

「エーッ、ゴッドハンドって言われたことないデス。でも良かったデス、長谷川さんの役に立てて」ジャスミンは黒い瞳を輝かせ嬉しそうだ。俺は昨夜、武吉幽霊が化け猫になって燃え尽きたのを目撃してしまった彼女が、意外と元気にしていることが不思議だった。(若い女の子は図太い面もあるのかな?)

 その日ジャスミンは午前零時過ぎに帰って行った。


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