表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/30

「イヤだぁ、クモちゃんはパクパクピョンピョン男だ、ニャー」とヨーコは言った・・・

「お兄ちゃん、大丈夫?」美月は俺のコーヒーカップに二杯目のコーヒーを淹れながら心配そうに訊いた。

「ああ、まあ何とか。美月に教わった受け身も役に立ったし」

「本当?」合気道を習得している美月は疑っている。俺の運動神経の鈍さは妹が一番よく知っているので、俺の言葉は説得力がない。

 昨夜は幽霊の武吉に吹っ飛ばされて全身を床に打ちつけてしまったが、幸い骨には異常がなかった。ジョージがウンウンと唸っている俺の体をスタッフルームでチェックして「ダイジョウブですゥ。骨モ関節モ、モンダイないデスゥ。デモフシギデスネ、アレダケ吹っ飛ばされたノニ」と首を捻りながら言ったのだ。あいつはカポエラの達人なので体の構造には詳しい。しかしジョージは北山大悟が放ったナイフー黒蛇が胸に突き刺さっても、翌日にはコンビニに出勤した化け物だから俺は少し不安でもある。ジョージの基準で俺の体を判断しないでほしいのだが・・・。

「しかしジイサンユーレイにフットバサレルとはハセガワサン、アキレルホド弱ッチイですネーッ」ジョージは変な感心をしている。

「クモちゃんは武吉爺ちゃんにちょっと触られただけでピョーンと飛んだ、ワン。ニャン太郎は火に包まれても平気だったのにねぇ、ニャン」ニャン太郎が嬉しそうに「ニャン」と答えている。

「お兄様はシロに舐められた時はビビッて口をパクパクしたのでパクパク男。そして今回は武吉爺さんにピョーンっと飛ばされました。ゆえにパクパクピョンピョン男ということにしましょう」

「イヤだぁ、クモちゃんはパクパクピョンピョン男だ、ニャー」

「ハセガワサンは運動神経ナイノニ、パクパクピョンピョンとイソガシイですネーッ」うるさい奴らだ。

「デモ、ドーシテ、ハセガワサンはアンナにフットンダノかな?」

「あの、武吉さんは空手? うーんカンフーっていうのですか・・・武術をやっていたらしいデス」ジャスミンは俺の背中を優しくさすりながら言った。彼女がひと撫でするたびに俺の体が暖かくなって痛みが消えていく・・・、そして体の奥から力が戻っていく感じがした。

「そういえば武吉さんはお兄様に触れた時、左手を伸ばして腰を落としていましたよ」

「そうだ、ワン。カッコ良かった、ニャン」ヨーコ、なに感心してるんだ!

「ヒョットシタラ、発勁カモシレマセンネーッ」ジョージはカポエラ使いだから武術には詳しい。

「ホーッ! ハッケイ、すごーいだ、ニャン」ヨーコ、発勁を知っているのか?

「僕、初めて見ましたよ」お前ら、俺の体のことはどうでもいいのか?

「長谷川さん、まだ痛みマスカ?」ジャスミンは不安なそして慈しみの混ざった表情を浮かべている。ホントにあのおバカトリオとえらい違いだ。ジャスミンの献身的な介抱で俺の体の痛みはほぼ無くなった。

「しかし二日続けて新米幽霊が燃えていなくなるとは変ですね」迷探偵坂下が珍しくマトモなことを言った。

「だいたい、権ちゃんが新米ユーレイを怒らせるから、いけないんだ、ニャン。あれぇ、権ちゃんどこ行ったのだ、ワン?」

「権左衛門サン、イマセンねーッ」ジョージも俺も辺りを見回したが、あの変態老人幽霊の姿は見当たらなかった。

「権左衛門サンはカエッタノカナ。 トコロデ、ジャスミンチャン、大丈夫デスカ? 武吉サンがあんなふうにナッテシマって」ジョージはしんみりと言った。

「アッ、ハイ、大丈夫デス。ビックリしましたケド」その言葉通り、ジャスミンはしっかりしていた。優しいだけでなく度胸もあるみたいだ。

「しかし武吉さんはやたら怒っていましたね」坂下はチラッとジャスミンを見た。

「ホントだ、ワン! ジャスミンちゃんに酷いこと言ったニャン。もうーっ、だから罰が当たったんだ、ワンワン」そんな単純な問題なのか?

「ソレニ夕子サンのこともヘンだったデスネ・・・」ジョージはまた例のごとく敏腕刑事のように熟考していた。こいつ、ときどき人格が変わるみたいで何故かカッコよく見えてしまう。

「夕子サンは看護師だから宮本サンのところへ訪問看護に行っていたのかもしれませんが・・・」

「フーン」押しなべて頭の働かない俺たちは、そこで話は止まってしまった。

 俺は以上のことを美月に話した。武吉幽霊が異様な姿になって燃えた様子も何とか話すことができた。美月がその間、蒼い顔をしている俺にピタッと寄り添ってくれたので・・・・・・。もちろんおバカトリオの俺に対する理不尽な攻撃は省略した。

「新米幽霊さんが二人とも炎に包まれていなくなった・・・。お兄ちゃん、これってある種の呪いのようなものかもしれないね」美月は困ったように言った。

「呪い・・・・・・確かにあの二人、化け猫みたいになったし・・・」またもや俺の背中に悪寒が走った。俺の震えが美月にも伝わったのか、血の繋がっていない妹は俺をギュッと抱きしめてくれた。ヨーコたちが言うように俺はやはり小心者の怖がり屋かもしれない。

「ねえお兄ちゃん、燃えてしまった幽霊さんたちは権左衛門さんと口喧嘩をしたのでしょう?」

「ああ、権左衛門はかなり困った爺さん幽霊だ。幽霊になったばかりの二人を挑発して怒らせたり、ヨーコにはセクハラしたり、もうーホントに」俺は権左衛門のニタニタした顔を思い出すと少しイラっとした。

「へぇーお兄ちゃんが真剣に怒るなんて珍しいよ。その権左衛門さんはなかなかの人だねぇ」

「エッ! 俺はジョージやヨーコたちにも怒ったりしてるけど」

「フフッ、確かにジョージさんやヨーコちゃん達にも怒っているけど、お兄ちゃん楽しそうだよ」

「そうかな?」

美月は俺の体の強張りがなくなったので、柔らかい体をゆっくりと離した。

「そう言えば権左衛門はジャスミンの上司の西田夕子さんのことを性悪女って言っていた」

「うん」美月は確かめるように何度も頷いた。

「ジャスミンも最近、西田さんが少し変わったとか言っていたし」

「んん・・・・・・」俺は美月の美しい銀色の瞳が黒く変わりつつあることに気づいた。妹の天才的な脳が高速回転している印なのだ。俺は黙ってコーヒーをゆっくり飲んだ。美月の淹れたコーヒーは冷めていたけど、やはり美味しかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ