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ニャン太郎は権左衛門と相性が悪いのだ、ニャン!

十一時三十分、ジャスミンが帰ろうとすると俺と彼女の間に小さな白い物体が現れた。

「ニャーン」澄んだ高い音が聴こえた。

「ニャン太郎?」いきなり俺たちの足元に現れた小猫幽霊はジャスミンの小麦色の足首に顔を摺り寄せている。

「カワイイですねーッ。ひょっとしてこの小猫幽霊はヨーコさんが拾ってきて長谷川サンが面倒をみたニャン太郎デスカ?」ジャスミンはしゃがんでニャン太郎の頭を撫でようとするが、その手は少し透けているニャン太郎に触ることはできない。

「うん、この猫幽霊は昇天したと思ったけど何故か一昨日、俺の家に再び現れたんだ」

「ショウテンって何ですか? 長谷川サン」

「ああ、昇天ってあの世に行くことだよ」

「ナルホド、そうですか。勉強になりました。ところで長谷川サン、あの世に行った幽霊がこの世にもどって来るコトって結構あるのデスカ?」ジャスミンは不思議そうに小首を傾げた。

「いや、ほとんどないと思う」

「それでは、このニャン太郎は長谷川サンに何かを伝えにきたのかもしれまセンネ」

「・・・・・・フーム」ニャン太郎が俺に何かを伝えにきた? 俺は猫の言葉は話せないのでニャン太郎の話は理解できそうにない。だけどジャスミンが言ったことは俺の脳にある種の衝撃を与えた。

「じゃあ、長谷川サン、ワタシ帰ります。いつも、ありがとうございマス」ジャスミンは俺に小さく手を振ると俺も反射的に手を振った。彼女はクスッと笑い、それからイートインスペースの方に手を振った。

「オーッジャスミンチャン、お帰りデスカーッ」相変わらず騒々しいジョージがジャスミンの前に一瞬でやって来た。こいつテレポーテーションできるのか?

「ハイ、ワタシ、明日も朝から仕事ですので。アッ、権左衛門サンはどうするのでショウカ? もうすぐ十二時で眠くなると思うのデスガ」

「権左衛門サンはヨーコチャンとお話シテイマス。彼はヨーコチャンの大ファンにナッタノデス。権左衛門サンが眠くナッタラ、ヨーコチャン達がオクッテイクと思いマスヨ」

「そうデスカ。じゃあ、ワタシこれで失礼シマス。ジョージさん、長谷川サン、おやすみなさい」ジャスミンは俺たちにペコリと頭を下げて店を出て行った。ジョージは「ジャスミンチャン、グッナーイト」とか言って手を振った。

「ニャーン」気がつくとニャン太郎はジョージの足元にいた。

「ホワッツ? ンン、ハセガワサン、この猫はニャン太郎デスヨネ?」ジョージは足元にいる白い小猫幽霊を訝し気に見た。

「ああ、一昨日の夜に俺の家に現れた。そして俺とジャスミンさんが話しているときにここにやって来たんだ。ジョージ、あの世に行ってまたこの世にもどってきた幽霊に会ったことあるか?」

「オーウ、そんなユーレイにはアッタコトないデス。そんなコトはハジメテですゥ」ジョージはしゃがんでニャン太郎を見ては不思議がっていた。

「さっき、ジャスミンさんがニャン太郎を見て、この猫幽霊は俺に何かを伝えるために現れたんじゃないかと言っていた」

「ンーン、そうデスカ・・・」

「おい、ジョージ。ジャスミンさんから施設の訪問介護利用者が二人、突然死したことを聞いただろ」

「ハイ、聞きマシタ。ハセガワサン、良くナイ情報デスネ・・・」ジョージはこういう話だと頼りになる。

「ワンワン、バウウ」柴丸が俺たち目がけて走って来た。そしてニャン太郎の前で「ウーグリュッー、ワオン」と甲高い声で話し始めた。ニャン太郎は目を細めて柴丸の話を聞いている。

「ハセガワサン、この二匹オハナシしてマスヨ」

「ああ、初対面なのに会話してるなぁ。二匹ともヨーコが連れてきたから、相性がいいのか」

 俺とジョージが感心していると今度はヨーコがやって来た。

「柴丸、そっちに行ったらクモちゃんのお仕事の邪魔になるだ、ワン。あれぇ・・・」ヨーコも白い小猫幽霊に気づいた。

「もしかして、ニャン太郎か、ワン! あっ、ニャン」また犬猫混ぜ合わせモードになっている。ヨーコは嬉しそうにニャン太郎を抱き上げた。

「ヨーコチャン、ワシはもう眠くなったのじゃ。今日はヨーコチャンのお胸を枕に眠りたいのじゃ」また不謹慎な老人幽霊がヨタヨタとやって来た。

「もう、権ちゃんは立派な大人だから、一人でちゃんと眠るだ、ニャン」ヨーコの豊かな胸でゴロゴロ言っていたニャン太郎が、権左衛門を見ると険しい顔になり「シャー!」と助平老人を威嚇した。

「おのれぇ、助平猫め。ヨーコチャンのおっぱいを独り占めしおって。悪霊退散じゃ! 喝っ!」権左衛門は両手で訳の分からない印を結んだが、ニャン太郎は更に口を大きく開け牙を剥き出して、素行の良くない老人幽霊に飛びかかろうとした。

「ニャン太郎、どうしただ、ワン。権ちゃんはエッチだけど、そんなに悪くないだ、ニャン」

 ヨーコが必死にニャン太郎を落ち着かせようと白い体を優しく撫でているが、ニャン太郎は白い毛を逆立てて「シャー!」と怒っている。

「権左衛門さん、ちょっとここを離れたほうがいいですよ。あの猫、本気であなたに飛びかかってきますよ」坂下が権左衛門を強引にイートインスペースの方に連れて行った。

「ワシもあの猫になりたいのじゃー。ヨーコチャンにナデナデしてほしいのじゃぁ」まだあんなこと言っている。俺が呆れているとジョージがボソッと呟ように言った。

「ハセガワサン、ニャン太郎がアンナに怒るってコトは何か変デスヨ」

 俺は頷いた。足元にいる柴丸が「バウバウ」と吠えていた。

 店の壁に掛かっている時計の針は午前零時を回っていた。



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