ジゴロと婆ぁの長い夜
下町の裏通りにある寂れたバーで、くたびれた背広の男が安酒をあおりながら新聞を読んでいる。
隣のテーブルに陣取るフィガロ達にはその1面。今、この国で一番話題になってる出来事の記事が読み取れた。
『至高の美!スヴェリ郷が、所有する美術品数点を 北の大国 に献上!』
「へぇ、あの大富豪のスヴェリ郷がねぇ。豪気なこった。」
「北の大国は最近力付けてきている。媚びでも売っとこうって魂胆だろう。」
同席者のいかにも忌々しげな口調に、フィガロは口元を歪めて笑う。
高飛車で、淡々と用件だけを一方的に話す相手の男。彼が新聞記事に抱いた嫌悪は興味深いし小気味が良い。
「とにかく、事は急を要する。」
そう言って、男が仕立ての良い外套の内側から茶色い封筒を差し出した。
ずっしりと重い封筒だ。中に詰め込まれている高額紙幣の枚数が容易に悟れる厚みだった。
「手付金だ。これで身支度を調えて、明日一番で王宮に来い!そこで貴様がこれからするべき事を詳細に教えてやる。
スヴェリの企てを阻止する為にも、かの国の大魔女を堕とさねばならんのだ!」
テーブルの上に放り出された封筒を取り上げ、フィガロは中身を確かめた。
「大魔女ねぇ。俺みたいな ジゴロ に簡単に堕とせるお方じゃないと思いますがねぇ。」
「心にもない事を言うな。貴様なら 行き遅れ 1人陥落するなど容易い事だろう?
13人もいる姉妹の中で自分が最後になって焦ってるはずだ。そんな女なら貴様ごときでも簡単に騙して堕とせるさ!
明日から貴様はダーレイ国の国王・レヴォルグ様の『甥』になるんだ。
これから終生大魔女に取り入りこの国の為に尽くせ!」
早口で一気にここまで言って、男は再び憤怒の面持ちでフィガロを睨む。
「・・・金持ちの子女ばかりを狙って手に掛け金品を巻き上げ続けよって!
北の大国の脅威がなければ、かの国の王宮ではなく一生監獄にぶち込んでやりたいくらいだ!」
怒り顕わな男の様子に、フィガロはまったく動じない。
封筒を手にして席を立つと、面白そうに微笑した。
「わかりました。かの国の王宮を俺の監獄にすれば良いわけですね?
ダメで元々、やってみましょう♪」
爽やかで、非常に魅力的な笑みだった。
それが肩をワナワナ震わせる男の気持ちを逆撫でした。
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(な・・・ナメたマネしてくれるじゃないのよ、この国の連中は!!!)
大魔女のこめかみには盛大に、それは見事な青筋が立った。
(誰が 行き遅れ ですって?失礼な!
しかも、推してきた相手が場末酒場にいるジゴロ?!
よくもそこまで馬鹿にしておくれだわね!覚悟しなさいよ、目に物見せてやるわ!!!)
水晶玉には意気揚々と酒場を後にするフィガロの姿が映っている。
手にはあの札束の封筒。それを見下ろしほくそ笑むジゴロにすこぶるイラついた。
(金持ちの女の子ばかりを狙ってたぶらかす詐欺師。
4番目の妹がこの手の輩に引っかかって大変だったわ。
そうね、コイツにも罰が必要かしら♪)
悪意のこもった微笑を浮かべ、大魔女は首飾りに手を添えた。
キィン!
指先で弾かれた宝石が高らかに鳴り響く。
陰気な裏通りから大きな通りへと足を向けるフィガロの後ろに、女が1人現れたのはその時だった。
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ダーレイ国は優れた魔法具の生産することで知られている。
それ故、この国は他国との親交をあまり深めてこなかった。自国に有り余る程魔法があるため諸外国に頼る必要がなく、得るものが無いと言う理由で魔法不足に困る国々を援助する事もしなかった。
(だから、侵略されても助けてくれる国は少ないってワケだ。
世界征服 を目論む北の大国にとっちゃ、ダーレイは格好の獲物だね。それで水面下でお偉いさんがいろいろ焦ってる、と。
スヴェリが北の大国に媚びうって友好関係を結び、その手柄を嫉む連中が大魔女の国との国交を望む。
こんな時にまで勢力争いか。めでたいモンだぜ、お偉いさんの頭ン中は。
ま、どうでもいいけどね。俺は大魔女の国へ行くんだし。
俺に堕とせなかった女はいないんだ。大魔女のダンナに収まれば贅沢三昧で暮してゆけるぞ♪)
ずっしりとした封筒の重みを楽しみながら、フィガロはブラブラと通りを歩く。
そんなフィガロの行く手を阻み、立ちはだかった者達がいた。
その中の1人、ピンクの派手なワンピースを着た年増女が鬼の形相でいきり立つ!
「見つけたわよ、この結婚詐欺師!
アタシが今日まで貢いだお金、返してちょうだい!!!」
「おわぁ!?ク、クラウディア?!」
品の良い背広姿の老紳士もまた怒っていた。
「よくもワシの可愛い孫娘をたぶらかしてくれたな?!このロクデナシめが!!!」
「ア、アンタはルゼット郷か?!シュテファニーの爺さんの?!」
筋肉隆々の若い男も、それは超絶に怒っていた。
「俺の女房を返せ、この悪党!家じゃ子供達がワンワン泣いてんだぞ!!!」
「エミリーの亭主?!いや、彼女に関してはちょっとしたつまみ食いで・・・。」
「ふざけるな、てめぇ!ぶっ殺してやるっっっ!!!」
「ひーーーっっっ!!!」
怒り狂った襲撃者達が一斉に、狼狽えるジゴロに襲い掛かる!
行き交う人々が驚き立ちすくむ中、騒ぎを止めたのはとても意外な人物だった。
「およしよ、金なら返してやるからさ。
往来でみっともない事、しなさんな!」
「えっ?!」
襲撃者達の振り上げた拳がピタりと止る。
振り向くと、立っていたのは1人の女。
フィガロは目を丸くした。まったく覚えのない、見た事のない女だった。
しかもかなりのご高齢。しわくちゃ顔で白髪の お婆ちゃん である。
襲撃者に襲い掛かられ驚いた拍子に落としたらしい。彼女の手にはズッシリぶ厚いあの封筒が握られていた。
「ひぃふうみぃ・・・おやおや、かなりあるじゃないか。」
老婆は勝手に封筒を開け、中身の札を数え始めた。
そして・・・。
「ほれ、とっとと持って行きな!」
ばさーーーっ!
空に向かって放り投げられた封筒から、札が豪快に舞い散った!
ぎゃーーーーーっっっ!♡♪
大通りは阿鼻叫喚の修羅場となった。
札に群がる人々の中で、老婆とジゴロが逃げて行くのに気付く者などいなかった。
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「何しやがんだクソ婆ぁ!人の金、勝手にバラ撒いてくれやがって!」
「助けてやったんだろうが。ゴチャゴチャうるさい男だね!」
「アレはこれからする大仕事の前金だったんだぞ?!なんて事してくれやがった!」
「ナニが大仕事だい。アタシゃ酒場で聞いてたんだよ?
女騙して美味い汁吸おうってハラだったクセに、偉そーな事言ってンじゃないよ!」
つん、と取り澄まして通りを歩く老婆の後を、フィガロは必死で付いていく。
こうして一緒に歩くのだけでも不快だったが仕方が無い。老婆にガッチリ腕を掴まれているのだ。
「お前さんみたいなクズをほっとくとナニしでかすかわかったモンじゃない。
それにコレも何かの縁だ。ちょいとアタシに付き合ってもらうよ♪」
「待て!なんで俺が婆ぁとデートしなきゃならねぇんだよ!?」
「年寄りは大事に扱いな!コレだから今の若いモンは!」
「だから待てって!なんなんだこの展開はーーーっっっ?!」
枯れ木のような細い腕は思いの外力があった。
フィガロは老婆に引きずられるようにして大通りを後にした。
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どこへ行くかと尋ねても、老婆は「付いてくりゃわかる」とだけしか言わなかった。
辿り着いたのはあの有名な スヴェリ郷の屋敷。これにはとても驚かされた。
嫌がるフィガロの尻を叩いて、老婆は屋敷に侵入した。
不法侵入である。こんな事になるなんて、想像すらしていなかった。
「・・・婆さん、アンタ、いったい何モンなんだ???」
暗い廊下をそろそろ歩く老婆の背中にこう聞いた。
「見たまんまの婆ぁさ。それ以外でも以下でもありゃしないよ。」
「いや、おかしいだろ?どー考えても!」
フィガロは少々混乱していた。
屋敷裏手の外壁を越えて忍び込んだ2人は、あっさり使用人に見つかった。
屋敷に入るなりその家の執事とばったり出くわしたのだ。言い逃れは何も出来ない、さすがに監獄行きを覚悟した。
ところが、老いた執事は驚いたものの、騒ぎ立てようとはしなかった。
それどころか、老婆に向かって深々と頭を下げて一礼した。
これにはフィガロが驚いた。不法侵入者などに取るべき態度じゃあり得ない!
「さぁ着いた!」
考えにふけっていたフィガロはハッと我に返った。
目的の場所にたどり着いていたようだ。
そこは絵画や彫像、陶器や調度品が所狭しと置かれた豪華絢爛な部屋だった。
「やっぱり、ここにあったのね・・・!」
老婆がある物の前に佇み、食い入るように眺めている。
大きな赤い宝石がはめ込まれた王冠を掲げる天使像。
老婆の身丈ほどもある、大理石の彫像だった。
「誰だ!貴様ら、ここで何をしている!!!」
薄暗かった室内が急にパッと明るくなった!
心臓が止る思いがした。入口の方へ振り返ると、痩せぎすの老人が猟銃を構え2人を睨み付けていた。
新聞などでよく見かける顔だ。この家の主に間違いない。
(・・・スヴェリ郷?!)
フィガロは老婆を背中に庇い、闘志漲るの家の主と対峙した。
しかし・・・。
「まさか・・・! 君は、レベッカなのか!?」
フィガロの肩越しに老婆を見たスヴェリ郷が、今にも火を噴きそうだった銃口を下ろす。
天使像を見つめる老婆がゆっくり振り向いた。
スヴェリ郷を見返す彼女の姿は凜々しく気品に満ちあふれ、まるで別人のようだった。
「お久しぶりね、アントニー。お元気そうで何よりだわ。」
声質まで変っていた。
さっきまでのだみ声でなく、深く落ち着きのある美しい声に。
「お屋敷に勝手に足を踏み入れた事はお詫びしますわ。夜分にお騒がせしてごめんなさい。
でも、この天使像の宝石はいただいて行きます。何も異存はないはずよ?」
「!? ま、待ってくれ!
それは北の大国に献上する美術品で・・・!」
「貴方が献上したいのは美術品ではないでしょう?」
「う・・・。」
スヴェリ郷は押し黙り、苦しげに俯いた。
そんな彼に、レベッカと呼ばれた老婆は冷たい目線を投げ掛ける。
「この像が献上品の一部として新聞に掲載されてるのを見て、すぐにわかりましたわ。
天使像が持つ宝冠の宝石。これは私の 夫 の物だって!
知ってるでしょう、アントニー。これはとても危険な力を秘めた 魔石 なのよ?
美術品に紛れ込ませて北の大国に渡す気だったのね。させるわけにはいきません!」
「だ、だめだレベッカ!
帰りたまえ、さもなくば撃つぞ!」
激しく狼狽えるスヴェリが声を荒げ、再び猟銃を構え直した。
悪あがきとも取れる脅迫に、レベッカは少しも動じなかった。
「えぇ、どうぞ?構いませんわ!
ジェラルドの 魔石 を取り戻せるなら本望よ!
例えここで殺されたって、私はちっとも構いません!!!」
死のような静寂が、つかの間その場を支配した。
目を剥き愕然となるスヴェリ郷の手から猟銃が滑り落ち、床にゴトリと音を立てた。
「なぜなんだ?レベッカ・・・。」
彼は空になった両手を震わせ、レベッカの方へと差し伸べる。
「なぜ、そこまでアイツの事を・・・。
なぜ、私 を選んでくれなかったんだ・・・?!」
哀れな男の悲痛な叫び。
それに応えるレベッカの言葉は、冷たく無慈悲で残酷だった。
「貴方はジェラルドじゃ、ない。それだけですわ!」
突然、レベッカが淑女の仮面を脱ぎ捨てた。
元の老婆に戻った彼女は、ニヤリと笑いとどめを刺した!
「悔しかったら、女にこれほど本気で惚れられてみな!
人の才能を嫉んで恨んで、盗みまで働いた挙げ句、金や権力に弄ばれる。
そんな人生送った男にゃ、到底無理な話だね!」
スヴェリ郷はガクッと膝から崩れ落ちた。
愚かな男の後ろにはいつの間にか、老執事がひっそり佇んでいた。
執事は静かに深々と、レベッカに向かって頭を下げた。
きっと彼は知っているのだろう。昔、この2人の間でいったい何があったのかを。
主が犯した過去の愚行と、これから犯す未来の愚行。
執事がレベッカ達を見逃したのは、それらの罪を憂いた故の事だろう。
--(´・ ・`)--(´・ ・`)--(´・ ・`)--
てんやわんやの一夜が明けた。
空は生憎曇り空。日が昇っても薄暗い。
それでも海を見渡せる崖の上は風が吹き抜け、爽快な気分が味わえた。
スヴェリ郷の屋敷を出て、魔石で走る車を借りてフィガロとレベッカはこの場所に来た。
たった今、あの天使像の宝冠から取り外した魔石を海に投げ捨てたところだった。
魔石は海底深くへ沈んで行った。その海を眺めるレベッカの足下に、天使像の残骸が粉々になって散らばっている。
「良かったのかよ?捨てちまって。」
車のボディにもたれるフィガロが遠慮がちに声を掛けた。
「いいんだよ、これで・・・。」
レベッカは振り向こうせず、小さく首を縦に振った。
レベッカの夫・ジェラルドは、天才って呼ばれる大魔道士だったという。
魔石造りの名人だったが驕る事なく人々に尽くす、誠実で優しい人だった。
「でもある日、とんでもない魔石を造っちまってね。
魔力を何百倍にも増大させるなんて魔石が出来ちまったのさ。
あの人にはそれがどれだけ危険な物かわかっていた。
例えば、悪党がそれを手に入れちまったら、どうなると思う?」
老婆の言葉にフィガロはブルッと身震いした。
近々戦争でも起こすのではないかと噂される、北の大国が手に入れてしまったら・・・。
「あの人はその魔石を処分しちまうつもりだった。
なのに、盗まれちまったのさ。
どこを捜しても見つかりゃしない。あの人は責任感じてね。自分の事を責め続けたよ。
今際の際まで気を揉んでるモンだから、アタシはあの人に言ってやったんだ。
『私が探しだして、必ず処分してみせる』ってね。」
「それで、あんな事したのか・・・。」
「そうさ。やっとあの人との約束を果たせたわ。
これでもう、いつ お迎え が来ても大丈夫!」
レベッカはしっとり濡れた目で、空を見上げて微笑んだ。
重たい雲がひしめく空は、今にも雨が降りそうだった。
「お爺さん!
お爺さん、見ていてくれましたか?
私、やり遂げたわ。貴方との約束、ちゃんと果たしてみせましたよ!
だから、私がそっちへ逝く時はきっと迎えに来て下さるわね?
出会ったばかりの頃よりも、一緒に暮したどの日々よりも今が一番、貴方の事が愛しいわ!
来て下さるわよね、あなた?
たった一目でも構わない、きっと会いに来て下さるわよね!?」
キィン!
フィガロは高く鳴り響く不思議な音を耳にした。
その時だった。
曇っていた空が割れ、魔石が沈んだ青い海に清らかな陽光が差し込んできた。
眩しい光が煌めき踊り、佇むレベッカを温かく照らす。
「あぁ!・・・!」
その優しい光の中に、夫の姿を見たのかも知れない。
レベッカはその場に泣き崩れた。
嗚咽に震えるその肩に、フィガロは自分の上着を脱いでそっと掛けた。
光は絶える事なく降り注ぎ、波穏やかな海がキラキラ輝き始める。
魔石が眠る静かな海は眩しく、どこまでも美しかった。
---(ToT)---(ToT)---(ToT)---
(な、泣かせてくれるじゃないのよぉ!)
大魔女は側のテーブルにあるティッシュケースから一枚抜き取り、思いっきり鼻をかんだ。
(罰を与えるつもりだったのに、予想外の結果だったわ!
・・・あら? まだ続きがあるようだけど・・・。)
大魔女が除く水晶玉は静かに輝き、まだフィガロとレベッカを映していた。
---♡---♡---♡---♡---
次に辿り着いたのは、のどかな田舎町だった。
緑豊かな田園風景が地平線まで広がる中に、小さな可愛い家があちこちに建っているのが見える。
吹き渡る風は土の匂いをふんだんに含み、すっかり晴れた空の青さが驚くほど心に染みる。
レベッカは車の助手席で、読んでいた新聞を折りたたんだ。
「新聞にゃ、アタシ達の事なんかこれっぽっちも載ってない。
その代わり、街じゃ大変な事になっちまってるよ。
なんだろね?この『奇病』ってのは。
王族と政府関係者が全員、ロバ耳 になっちまったってさ。」
「・・・着いたぜ、バァさん。」
フィガロは車を止めた。
庭に色とりどりの花が咲く小さな平屋の一軒家。ここがレベッカの家なのだそうだ。
「あぁ、ありがとさん。悪かったね。巻き込んじまって。」
「まったくだ。あの天使像屋敷から持ち出すの大変だったんだぞ?メチャクチャ重かったし。」
レベッカはくつくつ笑った。
「お前さん、根っからの悪党じゃないみたいだね。
ジゴロなんて止めて真っ当に働きな!
良かったらウチで雇ってやるよ。農業にゃ男手は何人有っても足らないんだ。
なんだったら孫娘を紹介してやってもいい。
アタシによく似た気立ての良い娘だよ。お前さんにゃもったいないくらいかもね。
ま、とにかくお茶でも飲んでいきな。ウチの孫娘が焼くアップルパイは絶品だよ!」
そう言うとレベッカは車から降り、スタスタ平屋へ入っていった。
(冗談じゃない!)
フィガロは慌てて車を切り替えした。
あんなとんでもないバァさんと関わるのはもう真っ平である。
彼は必死の面持ちで車を発進させようとした。
しかし。
「あの!祖母を助けていだだいて有り難うございました!」
澄んだ可愛い声がした。
思わす振り向くと、亜麻色の髪をお下げにした可憐な娘が恥ずかしそうに佇んでいた。
「ウチのおバァちゃん、急にいなくなってとっても心配してたんです。
見つけてここまで送って下さって、本当に有り難うございました。
あの、お茶でもいかがですか?
アップルパイもありますよ?ぜひお立ち寄りになってください♪」
「・・・。」
今までフィガロが狙い堕としてきたような、都会の女達とはまったく違う。
飾らない素直さと誠実さ、何より優しさがにじみ出る温かい微笑が愛らしい。
娘の肩越しに見える平屋の窓。そこからこっそりこっちを眺めてほくそ笑んでる婆ぁが見える。
その姿にイラついた。
急にアップルパイが食べたくなった、なんともチョロい自分にも!
「・・・そんじゃ、まぁ、ちょっとだけ・・・♡」
フィガロはモソモソ車から降りた。
(農業するのも悪くないかな・・・。)
もうそう思い始めてる自分が、なんだかとても恥ずかしかった。