薬師との出会い
「ティア様、この先ですよ」
「うん、わかった」
クリスに案内されたのはドワーフの二人がいたお店とはまた違う方向にある街はずれのお店だった。
何故、目的地が毎度町はずれにあるのだろうか?
と思いながらもようやく到着した。
クリスが店の看板は指さしていった。
「お待たせしました。ここです」
「……ニキーク販売店」
店の前に立つとそのお店外観に少し驚いた。
良い言い方をすれば古民家風だが、中々にボロボロだ。
さすがのディアナも少し嫌な顔をしている。
僕達二人の何とも言えない表情に気付いたのか、クリスは少し慌てた様子で取り繕うと言った。
「み、見た目はあまり良くありませんが、お店の人の知識や腕は確かですから大丈夫です‼ ニキークさん、いらっしゃいますかぁ‼」
「……」
クリスがそれなりに大きな声を出すが返事がない、留守だろうか?
そう思った時、店のドアが開かれて、返事に怒鳴り声が聞こえてきた。
「でっけぇ声出すな‼ 調合が失敗するだろうが‼」
「あ、ニキークさん、やっぱりいたじゃないですか」
突然の怒鳴り声で僕もディアナも少し構えたが、クリスはどこ吹く風でお店の中に入っていく。
僕達は慌ててクリスのあとを追った。
店の中は少し薄暗く、薬草の匂いだろうか、少し青臭いような匂いが鼻に付いた。
薄暗さに少し目が慣れてくると、お店の中にはあちこちに薬草を干したものが大量置いてある。
ニキークとクリスはお店の奥にいるようで、僕とディアナも店の奥に進んだ。
奥ではニキークが薬の調合をしながら、クリスと何やら話しをしているようだった。
「クリス、忠告してやったのに結局、ドワーフの所に行ったのか? あいつらはマレインに睨まれているからやめとけって言っただろう」
「ええ、でも私にも後ろ盾があるから、事前に情報さえあれば大丈夫ともお伝えしたじゃないですか」
「後ろ盾ぇ? まさか、いま連れてきたその二人がそれだって言うのか?」
ニキークは話しながら僕とディアナをギロリと睨んだ。
彼は大分良い年齢なのか、強面だが、顔に年齢を感じさせるダークエルフだった。
普通なら怖いと感じるだろうが、僕には殺気の無い凄んだ顔はむしろ可愛く見えてしまう。
僕はにっこりと笑顔で返事をした。
その様子にニキークは少し驚いた様子で言った。
「……薄気味悪い嬢ちゃんだな。わしに睨まれたら普通は泣くか、逃げるかのどっちかだぞ?」
「ティア様とディアナさんは、ちょっとやそっとじゃ動じませんよ。ね、二人とも」
クリスに振られて、僕達二人は苦笑いしていた。
僕達、三人のやりとりを見ていたニキークは調合の手を止めると、こちらを見ながら言った。
「……フン。まぁ、クリスが信頼しているならマレインよりマシだろう。どんな用事だ? 言ってみろ」
「おお‼ ニキークさんがそこまで言うなんて‼ 私の時とは全然違うじゃないですか⁉」
ニキークの言葉にクリスはからかうようにおどけて言った。
彼は顔赤くしながら、怒鳴った。
「……う、うるせい‼ おれは美人と可愛い嬢ちゃんには弱いんだよ‼ おい嬢ちゃん、てめえが生意気なクソ坊主なら、すぐに叩き出しているからな‼」
彼から「可愛い嬢ちゃん」と言われて、僕は何とも言えない気分になった。
ニキークの言葉を聞いた二人はまた「クスクス」と笑っていた。
僕は気持ちを切り替えて、咳払いをしてから言った。
「ゴホン……それでしたら、『ルーテ草』という薬草を聞いたことがないでしょうか? 恐らく、魔の森で取れると思うのです」
「……『ルーテ草』か、わりぃが聞いたことねえ。恐らくわしが聞いた事が無いなら、知っている奴は他におらんと思うぞ」
「そう……ですか」
僕はニキークの言葉を聞いて俯いた。
でも、まだ手がかりが何かあるかも知れない、僕は必死の形相でニキークに言った。
「……何か、何かないですか⁉ 魔の森だけで取れる薬草が何かあると思うのです‼ お願いします‼ 何でも……何でも良いのです‼」
僕の様子にニキークは怪訝な表情を浮かべると、低い声で僕達に尋ねた。
「……何か、訳ありみてぇだが、詳細がわからねぇと何も話せねぇよ。わしを頼るっていうなら隠し事は無しだ。それが無理なら残念だが帰ってくれ」
彼が言い終えるとクリスが補足するように僕にニキークの事を話してくれた。
「……ティア様、ニキークさんは口と態度は悪いですが、信用の出来る人物です。お店がこんなにボロいのも必要以上にお客さんからお金を取らないからです。偏屈で頑固ではありますが、口も頭同様にかたいのでご安心下さい」
「……おい、クリス。てめぇ、わしを馬鹿にしているだろう?」
「いえいえ、そんなこと思っていませんよ? 隠し事は無しですから」
二人のおどけたやりとりに僕はある疑問が浮かんで質問をしてみた。
「……二人とも随分と仲がいいみたいだけど、以前からの知り合いだったの?」
「いえ? 昨日、初めて会いましたよ」
クリスは僕の質問にきょとんとした表情で答えたあと、耳打ちでニキークとのやりとりについて話してくれた。
僕が御前試合等で大変だった日、クリスは事前に調べていた情報確認を含めて聞き込みをしてから、ニキークの所に行った。
僕達が来た時と同様に門前払いをされたが、逆にクリスの闘争心に火が付いたそうだ。
門前払いされても気にせずに店の中にズカズカと入っていったらしい。
ニキークからは最初「薬のことも知らない他国の娘が何用だ‼」と怒鳴られた。
だが、彼女は店で取り扱っている薬草の状態がとても良いことにすぐ気が付いた。
そこを突破口にして会話を広げて気に入られたそうだ。
「どの国でも頑固なおじいちゃんはいますからね。この手の人は話好きが多いですから、まだ扱いやすいですよ」
クリスが最後に耳打ちしてきた言葉に思わず苦笑してしまった。
ニキークからすればクリスを認めたという意識なのだろう。
だが、実際はクリスの掌の上にいるということだ。
「……おい。こそこそと何を話している? わしも暇じゃない。話すことが出来ないなら帰ってくれ」
「いえ、すみませんでした。では、私も正直にお話いたします」
僕の表情が変わったことにニキークも気付いたのだろう。
悪態を付く様子は無くなり、その目は僕を見据えている。
深呼吸をしてから僕は言った。
「……魔力枯渇症の特効薬に繋がる薬草が魔の森にあるはずなのです。名前は『ルーテ草』のはずですが、ひょっとしたら違う名前かもしれません。何か類似品でも何でも情報はないでしょうか……」
僕の言葉にディアナが目を丸くして驚いていた。
彼女にはこのことを伝えていないから当然の反応だと思う。
クリスはすでに知っているから驚いた様子はない。
僕の言葉を聞いたニキークは、腕を組んで考えに耽るように俯いた。
無言の時間が少し経過してから、彼は顔を上げておもむろに言った。
「……『ルーテ草』はやっぱり聞いたことがねぇ」
「……‼ そうですか……」
彼の言葉を聞いて僕は拳を握り締めながら俯いた。だが、彼はまだ話を続けていた。
「……だが、一つだけ心当たりがある」
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