直属の独立遊撃部隊2
「独立遊撃部隊ってことは、戦況や状況に応じた臨機応変の対応が求められる。リッド様も今までよりも多忙になるって言っていたのにねぇ」
「力だけじゃ駄目。状況判断能力、自分の強みと弱みも理解しないといけないよね」
「でも、ここに僕達がいるってことは潜入とか隠密任務も想定しているってことでしょ。ふふ、リッド様がどんな陰謀を張り巡らすのか。今から楽しみだなぁ」
ダンは頭の後ろで両手を組んで背もたれに体を預け、ザブは肩を竦めてやれやれと首を振り、ロウは何やら不敵に笑っている。
三兄弟は狸人族部族長ギョウブも手を焼いたという、陰謀大好きな悪戯っ子だ。
その気質はバルディアに来てからも変わらずで、化術向上のためと言って女性に化けて女湯に忍び込んだり、大人の騎士団員に化けて第一騎士団に潜り込み、はたまたメイドや給仕に化けて僕や父上のところにやって来たこともある。
その度に大目玉を食らっているが、彼らは全て化術向上のためだと言って聞かない。
事を起こす三人に悪意はなく、純粋な化術向上のため、強いてはバルディアのためになると本気で考えてくれているという。
実際、三人の使いこなす化術の精度は日を追うごとに上がっていて、バルディアの情報を取りに来た国内外の諜報員拘束にも一役買っている。
でも、まぁ、あの様子からして三人も部隊所属は満更でもないみたいだし、本人達なりの照れ隠しなんだろう。
「……サルビア達を差し置いて、本当に私がここにいていいのかなぁ」
「そんなことは気にしなくて大丈夫でしょ」
後ろの席で鼠人族のアリーナが自信なさげに呟くと、隣に座っていた猿人族のスキャラが笑顔で告げて「それに……」と続けた。
「サルビアは情報局の要、シルビアは帝都のバルディア邸に常勤、セルビアは通信魔法要員でライナー様の側に仕えているのよ。彼女達は動かせないでしょ」
「それはまぁ、そうかもしれないけど……」
アリーナは合点がいかないのか、口を尖らせて両手の指先をあわせてもじもじとしはじめた。
鼠人族の三姉妹の長女サルビア、次女シルビア、三女セルビア。
彼女達はバルディアにやってきた鼠人族の子達の中で、雷の属性を用いる通信魔法の扱いに最も長けた子達だ。
実力だけならこの場に居てもおかしくないんだけどね。
でも、スキャラの言うとおり、三姉妹には重要な仕事を任せているし、すぐに後任者を立てられないということで今回は見送った。
一応、本人達にもその旨は伝えている。
『お気遣いありがとうございます。情報局で私は私の勤めを果たしてご覧に入れます』
『承知しました。帝都からの情報伝達はお任せくださいませ』
『畏まりました。リッド様の父であり、当主ライナー様の側に仕えることを任されること、誠に光栄だと思っております。引き続き、役目を全うします』
サルビア、シルビア、セルビアはそれぞれそう言って笑顔で納得してくれた。
「こらこら、そんなにうじうじしてたらサルビア達に怒られるわよ。それと、リッド様にもね」
「え、どうして?」
スキャラの言葉に、アリーナがきょとんと小首を傾げた。
「だって、アリーナならできるって考えたからリッド様は貴女を選抜したのよ。その期待に自分から背を向けてどうするのよ」
「あ……」
「サルビア達に申し訳ないって思うなら、彼女達の分まで頑張ることよ。戻った時に胸を張って報告できるようにね」
「う、うん。そうだね。スキャラ、私頑張るね」
「うんうん、その調子その調子。まぁ、私も同じことが言えるんだけどね」
アリーナはふんすと鼻を鳴らし、やる気に満ちた表情を浮かべている。
そんな彼女の様子にスキャラはにやりと口元を緩めた後、自嘲気味に自らの頬を掻いた。
アリーナを選んだのは、彼女の潜在能力がサルビア達と比べても遜色ないに他ならない。
今回の高負荷修練で、その才能がきっと花開いてくれるだろう。
彼女を励ましてくれたスキャラは、オヴェリア達に負けず劣らず実力者で、第二騎士団では分隊長を務めていた子だ。
性格的には好戦的なオヴェリアとミア、礼儀正しいシェリルの三人を足して割ったような、礼儀正しい口調が使える姉御肌といったところだろうか。
ただし、彼女は戦闘になると口調が荒々しくなる癖がある。
何でも、鉢巻戦の僕を意識してのことらしい。
そこまで荒々しい口調を使った記憶はないんだけどね。
礼儀正しい口調の姉御肌という性格も相まって、同じ第二騎士団の子達から相談を受けることも多いみたい。
感情的で好戦的なオヴェリアとミア、礼儀正しい口調だけど畏まり過ぎる部分があるシェリルなどなど。
第二騎士団分隊長の子達は癖が強い子が多いなか、スキャラは話しやすいんだろう。
「皆、色々言いつつもやる気満々みたいだね。カルアもやっぱりやる気満々?」
最後尾の席に座っている兎人族のラムルは、笑みを浮かべて隣で腕を組んで座っている熊人族のカルアに話しかけた。
「そうだな。しかし、ラムルもそうだろう」
「ふふ、そうだね。リッド様の期待に応えるため。そして、ここに居ない皆の分まで頑張るつもりだよ」
「あぁ、共に頑張ろう」
ラムルが可愛らしく微笑み、カルアは腕を組んだままふっと口元を緩めた。
武人のような雰囲気を纏っているカルアは、第二騎士団に所属している子達の中でも確実に五本指に入る実力者だ。
あどけない雰囲気を持つラムルは可愛らしい顔付きの男の子なんだけど、その潜在能力はカルアに決して負けていない。
特に冷静な状況判断、決断力だけなら皆の中でも頭一つ抜けていると言っても良いぐらいだ。
室内が色めき合って様々な声が聞こえてくるなか、僕は息を吸い込み「皆、静かにして前に注目」と呼びかけた。
「部隊名は、当主である父上から発表してもらいます。では、父上。どうかお願いします」
「うむ」
父上は相槌を打ち、僕の横に並び立った。
次いで、父上が咳払いをして「まず、君達に言っておく」と発した瞬間、室内の空気がぴんと張り詰め、壁がきしみ、体に魔圧が重くのしかかる。
凄まじい緊張感と重圧で、思わずごくりと喉が鳴った。
「バルディア家の嫡男であるリッド直属の独立遊撃部隊となれば、与えられる権限は君達が思っている以上に大きく、そして責任も重大なものとなる。直属である以上、君達の言動がリッドの、引いてはバルディアの品位に関わってくるからだ。この場にいる皆には、そのことをよく肝に銘じてもらいたい。よいな?」
父上の発する魔圧に飲まれ、皆はたじろいでいる。
その反応に父上は眉をぴくりとさせた。
「どうした、返事が聞こえんぞ」
「……⁉ は、はい。畏まりました」
皆はハッとして、示し合わせたようにその場に立って姿勢を正し、大声で答えた。
「よい返事だ。皆、座ってくれ。話を続けよう」
「は、はい……」
父上の言葉に従い、皆が恐る恐る席に着いていく。
僕は少し慣れているけど、父上が厳めしい顔で発する声は本当に怖いのだ。
見慣れない皆からすれば、相当に恐ろしかったに違いない。
「では、部隊名を発表する」
父上は何事もなかったように淡々と告げ、皆の視線が一点に集中する。
「今回の部隊設立と部隊名決定にはリッドや私を含め、数多くの人員と意見が関わっていることを伝えておく。そして……」
父上は少し間を置き、強い目力で部屋の皆を見渡した。
「部隊名は『ブレイド・ベル』だ」
「……ブレイド……ベル」
皆がざわめくなか、父上に目配せされた僕は咳払いをして耳目を集めた。
「誰よりも先んじて勇気と剣を持て。その身が血潮に染まろうとも、魂に宿った気高き剣と勇気で警鐘を鳴らせ。勇気が囁くだろう、剣を降ろすなと。剣が叫ぶだろう。祖国と故郷、家族を守れと。常に勇敢であれ――エヴァー・ブレイブ」
部屋がしんとなるなか、僕は「つまり……」と続けた。
「勇気と剣で警鐘を鳴らし、祖国と故郷、家族を守る部隊。それが僕直属の『独立遊撃部隊ブレイド・ベル』ってことだね」
室内がしんとし、ややあって皆から「おぉ⁉」と歓声が上がった。
良かった、皆気に入ってくれたみたいだ。
ブレイドは『帝国の剣』と評されるバルディア辺境伯家と、剣を用いた家紋。
ベルはその通りにバルディアを守るための『警鐘』を意味している。
今回設立された独立遊撃部隊の主な活動は事件を未然に防ぐ、あるいは事件が大きくなる前に解決することだから、そうした部隊目的も部隊名に含めたんだよね。
何はともあれ、一生懸命考えた甲斐があったなぁ。
ほっと胸を撫で下ろしていると、「いやぁ、良かった良かった」とミアの声が聞こえてきた。
「リッド様のことだから、百足【ムカデ】に続いて蜻蛉【トンボ】やら兜虫【カブトムシ】やら、虫が部隊名に使われるかと思ったぜ」
「確かになぁ。虫よりは剣と鐘のほうが格好いいからな」
オヴェリアが腕を組み、うんうんと頷いた。
「ちょっと貴女達、そんなこと言わないの。リッド様、私は『ブレイド・ベル』という部隊名、とても素晴らしいと存じます」
慌てた様子でシェリルが皆を注意し、こちらを見てにこりと微笑んでくれた。
「へへ、私も良いと思うな」
笑顔で言ってくれたのはアリアだ。
「剣で鐘を鳴らすってのは、ちょっと変だけど。お兄ちゃんっぽくていいね」
「……うん。リッドお兄っぽくていい」
「そうですね。リッドお兄様らしいです」
アリアに続きエリア、シリアも嬉しそうに頷いてくれた。
他の皆もこくりと頷き、誰ともなく室内は拍手の渦に包まれる。
「あ、あはは。皆、ありがとう」
こうして今日、僕直属の『独立遊撃部隊ブレイド・ベル』が正式に誕生した。
ここにいる皆には、いずれ僕に負けず劣らずの実力を付けてもらうつもりだ。
そのためにすべきことはまだまだ沢山あるけど、『僕の直属部隊所属』がまずその一歩でもある。
さぁ、皆。笑っていられるのは今のうちだけだからね。
僕は心の中でほくそ笑みつつ、それから部隊の活動目的などを父上達と一緒に皆へ説明していった。




