因果応報の始まり(2)
「あいつらを倒せ‼ 金に糸目は付けん‼ 者どもかかれぇええええ‼」
「うぉぉおおおおおお‼」
マレインの発令により、ゴロツキ共が大勢こちらに向かってきている。
服装は他国やレナルーテや帝国も混ざっている。
持っている武器も刀、槍、鎖鎌、こん棒など様々だ。
いかつい顔をした男ばかりで中々の迫力だ。
そんな、彼らに腰が引けたエレンは僕の後ろで相変わらず泣き叫んでいる。
「来たよ⁉ 来たよ、来たよ⁉ やつらが来たよぉおおおおおお‼」
「エレン、少しは落ち着きなよ……」
僕がエレンを宥めていると、アスナが僕に振り向き言った。
「ティア様、恐れ入りますが姫様をお願い致します。私は奴らを姫様に代わり成敗してきます」
「うん。ファラは僕が守るから大丈夫。アスナも気を付けてね。あと、殺しちゃダメだよ?」
「フフ、生き地獄を見せてやれということですね。承知しました」
いや、そういう意味じゃないのだけどな。
アスナを心配そうに見ていたファラも彼女に声をかけた。
「アスナ、気を付けて下さいね」
「ご心配は無用です。姫様」
アスナはファラに余裕のある笑顔で返事をすると、男達に振り返った。
今のアスナは袴姿に、頭巾で顔を隠しているという中々に奇抜な恰好だ。
アスナは抜いた刀を反対に持ち直して「峰打ち」の状態にすると男達を見据えた。
「……推して参る‼」
彼女は一言発すると男達に突撃した。
それは、僕との試合で見せたあの突撃スタイルだ。
彼女が敵に飛び込んだ瞬間、男達が大量に「ひぎゃぁあああ‼」と悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
アスナが飛び込んだの見ると、ディアナが僕に話しかけてきた。
「では、ティア様、私も行ってまいります」
「……アスナもだけど、ディアナもやり過ぎちゃダメだよ」
「……承知致しました」
ディアナは僕の言葉に不敵な笑みを浮かべると、男達を見据え、吐き捨てるように言った。
「……我が主に仇なす者に裁きの鉄槌を‼」
ディアナは身体強化を発動して男達の中に入り込んだ。
その素早い動きに一瞬たじろぐ男達だが、すぐにディアナに武器を振り降ろす。
「死に晒せぇええ‼」
「……遅いですね」
ディアナは男達の攻撃を躱しながら懐に飛び込み、みぞおち、金的、顔面中央、こめかみ、顎などの急所だけを的確に拳と蹴りを入れている。
その結果、男達を次々に「ぐぇええ……‼」と悶絶させ阿鼻叫喚している。
その時、アスナとディアナとは別の方向から男達の悲鳴が聞こえた。
「うぎゃぁあああ‼ やめろぉおおお‼」
魔物のシャドウクーガーはいつの間にか男達を襲っていた。
彼はどうやら意図的に男達の股間を狙っているようだ。
鋭い牙や爪で切り裂こうとしているのだろう。
どうやら、僕が「殺しちゃダメ」と言ったから命は奪わないが、男としては殺すつもりらしい。
その時、シャドウクーガーに向かっていく大男がいた。
「この、化け物がぁ‼ テメェの血は何色だぁ⁉」
男は持っていた斧をシャドウクーガーに振り降ろす。
だが、軽い身のこなしで男の攻撃を避けると、シャドウクーガーは懐に飛び込んで……
「ぎゃぁあああああああ⁉」
大男の悲痛な叫び声が屋敷に響いた。
最初の勢いは何処に行ったのか、もはや屋敷の中は男達の悲痛な叫びに満ちていた。
その様子を二階から見ていたマレインは驚愕して、震えながら叫んだ。
「ば、馬鹿な⁉ なんなのだ、あいつらは‼ クソ、その女や魔物に構うな‼ 餓鬼だ‼ 子供とスライムを人質にしろ‼」
マレインの指示を聞いた男達が数名、アスナとディアナを無視して僕達に向かってきた。
その動きに気付いたエレンがまた泣き叫んだ。
「うわぁああああ‼ ティア様、こっちに来ましたよ‼ どうするのですかぁああ‼」
「だから、エレン、落ち着いてってば……」
僕はエレンから少し離れると、ファラにニコリと笑顔向けて優しく言った。
「大丈夫、僕が守るから安心してね」
「は、はい……‼」
ファラは耳を上下させながら、心配そうな表情をしていた。
僕は、二人を守る様に前に出ると、向かってくる男達に手を突き出した。
その動作に気付いた、男達が怒号をあげる。
「餓鬼がぁ‼ 舐めた態度してるんじゃあねえぞぉ‼」
僕は彼らを見据えると心の中で唱えた。
(火槍)
魔法名を心の中で唱えた瞬間、突き出している手から、先端が尖った文字通り火の槍が生成された。
そして、男達に向かって放たれ襲い掛かった。
男達は立ち止まり慄きながら叫んだ。
「餓鬼が魔法だとぉおお⁉」
その直後、男達の居た地点から激しい爆発音が鳴り響いた。
音が止むと彼らは黒焦げになってその場に倒れていた。
僕は不敵な笑みを浮かべて彼らに言った。
「さぁ、黒焦げになりたいならいつでもどうぞ……」
「ティア様、さすがです……‼」
「僕、ティア様に一生付いていきます!」
僕の魔法を見たファラとエレンは安心した様子ではしゃいでいた。
男達は僕の魔法に腰が引けてしまって、足がすくんでいるようだ。
だが、そんな男達を乱闘中の二人と一匹が見逃すわけがない。
屋敷内には悲痛な叫びが轟いた。
用意していた手駒を次々に倒されているマレインは真っ青になりながら叫んだ。
「クソ‼ こうなれば、『鉄仮面』を呼べ‼」
「……呼んだか?」
マレインはハッとして後ろを振り返った。
そこには鉄仮面と全身鎧に身を包んだ、長身の男が立っていた。
鉄仮面をしているせいか、彼が息をするたびに「スーハー」と呼吸音が回り聞こえてくる。
その姿はとても異様な不気味さを醸し出していた。
「そ、そうだ‼ 鉄仮面、下の階にいるあの女子供と魔物を倒してくれ‼ 金に糸目は付けん」
「……いいだろう」
鉄仮面と呼ばれた男は、二階から飛び降りた。
彼が一階に降り立つと激しい音が鳴り響きゴロツキの男達は慄いて、アスナやディアナ達から離れ始めた。
鉄仮面はアスナとディアナを見ると腰に下げていた大刀を抜いた。
そして、アスナに指をさして言った。
「お前……俺の大嫌いなやつに剣筋がそっくりだ……‼ 見ているとイライラが止まらねぇんだよ‼」
彼は言いがかりをつけるように吐き捨てると、アスナに斬りかかった。
だが、彼の剣筋に捉えられるようなアスナではない。
「下郎が……」彼女は呟きながら彼の斬撃を避け、体勢を立て直すとすぐさま反撃の斬撃を与えた。
斬撃と同時にあたりに激しい金属音が鳴り響いた。
その時、アスナの顔が険しく歪んだ。
「……硬いな」
アスナは自分の刀に目線を静かに送った。
その時、彼女の手に持っていた刀に異変が起きた。
「ピシッ」と罅がはいり真ん中から刃が折れてしまった。
その様子に僕達は驚愕した。
折れた刀を見てファラがアスナを心配する様子で叫んだ。
「アスナ‼ 大丈夫ですか‼」
その言葉を聞いた瞬間、鉄仮面は何かに気付いたようで大声で笑い始めた。
「……‼ フフフフフフ、アハハハハ‼ そうか、貴様はアスナというのか‼ こんなところでまた巡り会えるとは思わなかったぞ‼ 貴様、俺の声、太刀筋に覚えはないか?」
「……あいにくと貴様のような悪趣味な鉄仮面に覚えはないな」
アスナの返事を聞いた男は、息を荒くして怒りに震えている様子で言った。
「グッククク、貴様のせいで俺は泥水をすすることになったのに、俺を覚えていない……だと⁉ ふざけるなぁ‼」
鉄仮面は大声を発したかと思うと、二階にいたマレインを睨みつけながら怒号した。
「おい‼ マレイン、金は要らん‼ だが、俺がこいつらを片付けたらこの女だけは俺の好きにさせてもらうぞ‼」
「わ、わかった。お前の好きにしろ‼」
鉄仮面に睨まれたマレインは慄きながらすぐに返事をした。
「ククククク、これでお前らを倒せばようやく貴様は俺の物になる。アスナ、俺は貴様を一瞬だって忘れたことはないのだぞ……⁉」
「気持ちの悪いやつだ。私はお前のように悪趣味な奴は知らんと言っているだろう……」
アスナは折れた二刀で鉄仮面に対して構えた。
その時、鉄仮面とアスナの間にディアナが割って入るとアスナに諭すように言った。
「……アスナ殿、こちらの鉄仮面は私がお相手致します」
「ディアナ殿、どういうおつもりか? 私が後れを取ると?」
急に割って入られたことにアスナはプライドを刺激されたのか、不服な表情をしている。
「アスナ殿が負けるとは思いませんが、その折れた二刀では時間がかかります。何よりも主君に余計な心配をかけます。ここは引いてください」
アスナはディアナの言葉にハッとして、ファラを見ると彼女がとても心配した瞳をしていることに気付いた。
アスナはディアナに申し訳なさそうに返事をした。
「……かたじけない。ここはディアナ殿にお任せしよう」
「フフ、では雑魚をお願いしますね」
「わかった」
アスナは不敵な笑みを浮かべたディアナに、鉄仮面の相手を譲る様にその場を下がった。
だが、その様子に鉄仮面は激怒した。
「てめぇ‼ 何を勝手に決めてやがる‼ 俺の相手はあいつだ‼ テメェはおよびじゃねぇんだよ‼」
言葉を吐き捨てるように言うと鉄仮面はディアナに斬りかかった。
だが、彼女はその動きをなんなく躱して、彼の全身鎧に手を当てると火の魔法を発動させた。
しかし、鉄仮面は動じず、笑みを浮かべるように言いながら大刀を振るった。
「馬鹿が‼ この鎧は特別製なのだ。 ちょっとやそっとの斬撃や魔法じゃビクともしねぇんだよ‼」
ディアナはその斬撃も軽々と避けて彼と距離を取り、呟いた。
「……なるほど。ですが、やりようはあります」
彼女の様子が気に入らない鉄仮面は怒りに染まった叫びをあげた。
「やりようはあるだと? ふざけるな‼ 男に勝る女なぞ存在しねぇんだ‼ 絶対だ‼」
「教養の無い男ですね。その考えが過ちであることを私が教えてあげましょう……」
ディアナは鉄仮面に対して呆れた様子で睨み、吐き捨てるように言った。
恐らく、マレイン側の戦力は彼が最後なのだろう。
マレインは二人の様子を慄きながら必死の形相で二階から眺めている。
二人の決着がこの戦いに終わりを告げることになると思い、僕もその様子を見つめていた。
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