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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第九章

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フェイの夢

虹色に輝く雪の結晶のような神秘的な形をした牢宮核【ダンジョンコア】。


その前に正座するフェイを僕達は取り囲んでいた。


マルバスとイビは武器を片手に牢宮核を破壊できるように身構えている。


正気を取り戻したフローベルも眉を顰め、フェイを訝しんでいる状況だ。


僕は咳払いをして「さて……」と切り出した。


「改めて聞かせてもらえるかな。どうして、こんなことをしてまで地上に出たいのか。そして、地上に出て何をするつもりだったのかをね」


「う、うん……」


彼は恐る恐る頷いて俯きながら「ずっと、ずっと寂しかったんだ……」と悲しそうに口火を切った。


曰く、フェイは十数年以上前に牢宮内で唐突に意識を持って生まれたらしい。


当初は蔓延る魔物と自分を同類かと思ったが、接触してみると魔物達は彼の支配下にあることを直感し、自らは牢宮核の化身であることを把握したそうだ。


僕は何者なんだろう。


どうして、他の魔物と違うんだろう?


彼は戸惑いつつ広い牢宮内を探検しながら、自らが生まれた答えを探した。


でも、その答えは見つからない。


話し相手もおらず、存在理由もわからず、ただただ孤独の牢宮内を彷徨う日々が続いたある日、牢宮で感じたことのない魔力を察知した。


地上、外部から人が入り込んできたのだ。


直感的に部外者を危険な存在であると感じ取った彼は、彼らを観察することにした。


牢宮内に入り込んできた部外者は冒険者であることがほとんどらしく、彼らは牢宮内を歩き、魔石や宝を得るべく荒らしていたという。


一方で冒険者の発する魔力を牢宮が取り込んでいたこともフェイは理解し、牢宮【ダンジョン】と冒険者がある種の共存関係にあることを知った。


彼が様々な知見を得ていく中で特に強い関心を抱いたのは、彼らが話す『地上』のことだったそうだ。


地上に興味を持ったフェイは、何度か牢宮を出ようと試みた。


でも、地上に近づけば近づくほどに牢宮核の魔力供給が薄くなっていき、息も絶え絶えになって身動きが取れなくなってしまったそうだ。


冒険者以外にも牢宮に迷い込む人達がいたらしく、彼らを救う代わりにフェイは地上の情報を求めた。


そして、牢宮の外にはお日様の光が朝と昼は明るく照らし、夜は月明かりと星空が広がっているということを知った時、フェイはますます外に出てみたいと強く願うようになったという。


日々、地上への憧れを強くしていくフェイは、とある冒険者一行に話しかけて地上に連れて行ってほしいと相談を持ちかけたそうだ。


牢宮核の魔力供給がなくても、冒険者達から魔力を分けてもらえれば一時的にでも地上に出られると考えた結果だった。


冒険者達はフェイを訝しむも、牢宮核まで案内してくれれば地上に連れて行くと語ったそうだ。


フェイは喜び、牢宮核のところまで案内したが冒険者達はフェイを背後から襲い、牢宮核の大部分を破壊して結晶化させたという。


『どうして、どうしてこんなことするの?』


『馬鹿め。牢宮内で人の言葉を話す魔物の言うことなんて誰が信じるかよ』


必死に助けを求めるフェイに向かって、冒険者達は冷たく吐き捨てると嘲笑しながら去って行ったという。


幸い牢宮核は破壊を免れたが、この事件をきっかけにフェイは人を信じずに利用することを決意したそうだ。


『お前達が僕を信じず利用するというのなら、僕もお前達を信じずに利用するだけだ』


長年掛けて牢宮核が以前の力を取り戻すと、フェイは迷い込んできた冒険者達に様々な魔法を施して研究を行った。


ただし、騒ぎが大きくなると沢山の冒険者に襲われると考えて時間を掛けて密かに行っていたらしい。


ようやく最近になって人を形代にする方法が形になって、表立った活動を始めたところに僕達が標的となったというのが事の顛末だそうだ。


地上での呼びかけに反応した対象者であれば、形代候補になれる最低限の魔力を持っている証になるらしい。


「僕は、ただ地上に出て見たかった。本物の日の光、夜の月明かりをこの目で見たかっただけなんだよ。どうせ信じてもらえないだろうけどさ」


フェイは投げ捨てるように語り終えると、目を潤ませながら悔しそうに鼻を啜った。


天真爛漫だった今までとは打って変わって意気消沈した彼の姿に、マルバスとイビは眉を顰めて懐疑的な視線を向けている。


フローベルは何か思うところがあるのか、同情的な眼差しだ。


今までの言動と経緯からして、イビとマルバスが懐疑的になるのは当然だろう。


僕だって急にこんな話をされても『はい、そうですか』なんて、普通は信じられない。


「……なるほどね。それで、迷い込んできた冒険者達はどうしたの?」


僕が尋ねると、フェイは鼻を鳴らして肩を竦めた。


「研究が終わったら用無しだから、形代候補にもならない奴等は身包み剥いで地上に捨てたよ。できるだけ、人の魔力が沢山感じるところに捨てたし、多分生きていると思うよ」


「そっか。だけど、どうして牢宮で取り込まなかったんだい。そうすれば牢宮核の成長に繋がったはずでしょ」


「……何かもやもやして嫌だったんだよ。それに命まで奪ったらさ、僕を裏切った奴等と一緒になるみたいで格好悪いじゃないか」


フェイが口を尖らせてそっぽを向くと、「詭弁だな」とマルバスが眼鏡の山をくいっとあげた。


「命は奪わずとも心を壊して形代候補にしていた、となればだ。お前に捕まった奴等は自我を消失させられ、生殺与奪の権利を奪われ眠っていたのだろう。それは生きる屍だ」


「そ、それは、その、ちゃんとした形代を得たら皆解放するつもりだったんだ。本当だよ」


「クソ蝶、てめぇの事情はわかった」


イビが強い口調で切り出すと「だがよ……」と続け、フェイを凄んだ。


「それで、てめぇがあたし達にしたことが帳消しになるわけじゃねぇ。本当だ、信じてくれって言われたって、誰が信じられるんだよ。少なからず、あたしはそんな甘ちゃんじゃねぇぜ」


「……いいさ。どうせ信じてくれるなんて思ってないからね。さぁ、僕の話は終わりだ。皆を返して地上に送れっていうならそうするし、牢宮核を壊したいならそうしなよ」


フェイは鼻を鳴らしていじけた様子でその場にあぐらを掻いて座ってしまった。


煮るなり焼くなり好きにしろと言わんばかりだ。


イビやマルバスの言葉も尤もなんだけど、牢宮核の位置を探るため、フェイに魔力変換強制自覚をした時、どういう訳か彼の記憶が僕の脳裏に流れ込んできた。


そして、その時に見た記憶と彼の話には嘘偽りはない。


牢宮核を破壊しても傷つけても、いずれ彼はまた同じ事を繰り返すだろう。


それじゃあ、なんの解決にもならない。


下手をすれば、将来的にもっと大きな問題に発展する可能性もある。


ひとしきり考えを巡らし、やっぱりこれしかないかなぁ、と僕はある結論に至った。


「ねぇ、フェイ」


そう言ってしゃがみ込むと、僕は彼の頭にぽんと優しく手を置いた。


メル達にするように。


「……なんだよ」


口を尖らせるフェイの目を真っ直ぐ見据えると、僕はにこりと目を細めた。


「地上に行きたいなら、僕と一緒に行くっていうのはどう?」


「え……?」


思いがけない提案だったのか、フェイはきょとんと目を丸くした。


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