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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第九章

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フェイの目的と提案

「フェイ……⁉」


「まさか僕の幻覚を打ち破るとはねぇ。心の闇には誰もが恐れ戦き、すくみ上がって殻にこもっちゃうのになぁ」


僕は眉を顰め、彼をじろりと睨んだ。


兜で顔も覆っているから表情を見ることはできないけど、口調と声からして間違いなくにやにやと笑っている。


イビとマルバスは僕の両隣に立つと、武器の切っ先をフェイに向けた。


「てめぇ、このクソ蝶が。よくも人の心にずけずけと土足で入りやがったな。ぜってぇ、許さねぇ」


「こればかりは鳥頭に同意しよう。そして、覚えておけ。人の弱みを利用するときは、必ず成功させなければならん。失敗すれば逆鱗に触れ、手痛いしっぺ返しを喰らうことになるとな」


「イビの怖い顔、おっかないねぇ。マルバスがその言葉を使うと重みがあるよ。そう思わないか、リッド」


フェイは肩を竦めながらこちらに視線を向けてくる。


僕は眉をぴくりとさせるが「さぁ、どうかな」と頭を振った。


ここで下手な反応を示せば、フェイの思うつぼだ。


それに、今までのことで気になっていることがあった。


「それよりも、どうして幻覚なんて見せたのか教えてほしいな。そして、いつでも倒せたはずの僕達を放っておいた理由をね」


「いいよ、幻覚を打ち破ったご褒美に教えてあげる。でも、わざわざ尋ねてくるってことは、リッドは察しがついているんでしょ?」


彼は肩を竦めておどけた。


「おい、リッド。どういうことだよ」


イビが首を捻ると、僕は「おそらく……」と切り出した。


「幻覚を見せた目的は勝利することじゃない。僕達の自我を消失させ、君が宿る形代にするために必要な工程だった。どうだ、違うかい?」


真っ直ぐに見据えながら問い詰めると、彼は肩を小刻みに震わせる。


そして、高笑いを始めた。


「あっはは。そうさ、その通りだよ。ずっと探していたんだ、僕に相応しい形代をね。フローベルやルイ達、他の冒険者では器が少々小さくて困っていたんだよ。でも、やっと相応しい器を見つけたんだ」


フェイはそう告げると、すっと指をこちらに向けてきた。


「リッド、君こそ僕の器に相応しい。僕は君の全てを飲み込み、リッド・バルディアとなって地上に行くよ」


「……ふざけるな。僕の体は君の器じゃないし、はいそうですかと頷くわけないだろ」


苛立ちを隠さずに凄む。でも、彼は「はは」と噴き出した。


「そりゃ、そうだよね。じゃあ、こういう提案はどうかな。僕はもうリッドにしか興味がない。だから、イビとマルバス。君達が協力してくれるなら、リッド以外は全員解放するよ。もちろん、今形代にしているフローベルもね」


「な……⁉」


思いがけない提案に僕が目を丸くすると、「ほう……」とマルバスが相槌を打った。


「私からすればフローベルを始め、部下達が五体満足で無事に帰ってくるわけだ。確かに悪い提案ではないな」


「マルバス……⁉」


「あたしとしても、無事に地上へ出られるならそれに越したことはねぇな」


「イビまで……⁉」


ここまでやってきて、多少は信頼関係ができたと思っていたのに。


二人の言葉に愕然とするなか、「話が早くて助かるよ」とフェイが頷いた。


「じゃあ、早速……」


彼がこちらへ歩み寄ろうとしたその時、マルバスとイビが僕の前に出てフェイに武器の切っ先を向ける。


「君達、何の真似かな」


フェイが首を捻ると、マルバスが眼鏡の山をくいっと上げた。


「……悪い提案ではないとは言ったが、貴様の案に乗るぐらいなら木偶と組む方がましだ」


「あたしもだ。そもそも、人の心に土足で上がり込んでくる奴を信用するわけねぇだろ」


「二人とも……⁉」


力強い言葉が嬉しくて心が熱くなっているも、フェイは白けた様子で肩を竦めた。


「あらら、交渉は決裂か。じゃあ、しょうがない」


彼はゆっくりと剣を構え、こちらに向かって跳躍した。


「君達全員、僕の形代になってもらうよ」


マルバスとイビが武器を構えて身構えるも、僕は二人の前に出て両手に溜めていた魔力を解放した。


「螺旋槍」


「木偶、何のつもりだ⁉」


「リッド、あいつに魔法通じねぇぞ⁉」


背後から二人の驚愕した声が聞こえるも、僕は「まぁ、見てて」とちらりと目配せした。


「愚かだね、リッド」


向かってきたフェイは足を止め、多重魔障壁を展開した。


螺旋槍と魔障壁が打ち合わさり、硝子が衝突したような音が響きわたる。


「僕に遠距離魔法は通じない。魔力を無駄にしたね」


「さぁ、それはどうかな? 最大出力だ」


僕が消費魔力量を上げた瞬間、螺旋槍が巨大化して多重魔障壁ごとフェイを飲み込んだ。


「な……⁉」


「さぁ、吹っ飛びな」


螺旋槍はフェイを飲み込むと、そのまま広間の壁に直撃して大爆発が起きた。


爆音が轟き、衝撃で床が揺れる。


僕は肩で息をしながら片膝を突いた。


「木偶、貴様何の真似だ」


「そうだぜ。見た目は派手だったけどよ、あれじゃ倒せねぇだろう」


マルバスとイビが声を荒らげるなか、「わかっている」と僕は頷いた。


「でも、ちょっと作戦会議する時間を稼ぎたかったんだ」


「作戦、だと?」


マルバスが首を捻ると、僕は手短に試してみたい作戦を告げた。


「……というわけなんだ。この仮説が正しければ、フェイをフローベルから追い出せると思う」


「なるほど、木偶にしては考えたな。やってみる価値はありそうだが、私達も疲弊している。あまり時間は掛けられんぞ」


「うん。マルバスとイビが好機を作ってくれれば、必ず成功させてみせるよ」


「……好機なら、あたしが作るぜ」


イビがにやりと笑う。


でも、その目は何か決意に染まっているというか、とても真剣な眼差しだった。


「えっと、何をするつもりか聞いても良い?」


「歌を通して、あたしがお前達に補助魔法【バフ】を与えて、同時にフェイを弱体化【デバフ】させるんだよ」


「歌を通して補助魔法だって……⁉」


僕は新しい魔法の存在を知り、牢宮内だというのに胸が高鳴った。


補助魔法といえば、狐人族のノワールが扱う『燐火の灯』というのがある。


仕組みとしてはノワールの魔力をラガードに与え、一時的に対象の能力を爆増させるものだ。


ただし、術者と対象の魔力相性に成功の有無が左右されるし、ノワールしか扱えない種族魔法だったので一般化はできなかった。


イビの歌による補助魔法と言われて思い浮かべるのは、鳥人族領で魔物の大軍を相手に彼女が守護十翼【ブルートリッター】を指揮していた姿だ。


やっぱりあれは、歌っていたということになる。


それにしても、声を魔法化させるというのはどんな仕組みなんだろう。


練習したら僕にもできるだろうか。


声に魔法を乗せられるなら、初見殺し魔法とかも生み出せそうだ。


ただの会話だけで相手を制圧できる最強最悪の魔法とかね。


もちろん、悪用するつもりはない。


知的好奇心、そう、ただの知的好奇心だ。


「……おい、木偶。何だ、その締まりの無い顔は」


マルバスの放った棘のある言葉で、僕はハッと我に返った。


「あ、ごめん。初めて聞く魔法だったから、つい気になっちゃって」


決まりが悪くなって頬を掻いていると、イビが咳払いをした。


「じゃあ、簡単に流れを伝えるぜ」


「わかった、手短にな」


「うん、お願い」


僕とマルバスは彼女のいう補助魔法の説明を受けると、フェイを倒すべく動き出した。



リッド君の活躍が面白い、続きが読みたいと思いましたら『評価』『ブックマーク』『リアクション』『温かい感想』をいただければ幸いです!


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▽悪役モブ第二騎士団組織図

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