橋上の閃光
「な、何だこりゃ⁉ 悪役主人公【ダークヒーロー】。てめぇ、こんな隠し球を持ってやがったのか⁉」
「木偶、貴様……⁉」
橋上に魔波が狂風となって吹き荒れ、橋を囲む魔障壁を震わせている。
背後から驚愕した様子のイビとマルバスの声が聞こえてきたけど、今は返事をする余裕がない。
大出力の魔力制御を誤れば、僕を中心に自爆という名の大爆発が起きてしまうからだ。
『圧縮魔弾集束破砕砲【あっしゅくまだんしゅうそくはさいほう】、インフィニティキャノン』
狭間砦の戦い後、僕が扱える槍系統魔法で火力のみを追求し、戦いに決定的な結末をもたらすべく編み出した戦略兵器ならぬ戦略魔法だ。
普段から使っている圧縮魔法は『魔力制御、発動、圧縮、発射』という手順を踏んでいる。
これらを無意識で一瞬かつ効率的にするべく魔法に名を付け、発動時に暗唱もしくは心の中で呟いているわけだ。
ただ、魔法研究を重ねていく内に、この方法では威力上限があるのではないかと、疑問を抱くようになった。
手順にある『魔力制御』と『圧縮』の許容量は、術者の魔法技術や耐久力に左右されるからだ。
どんなに膨大な魔力を持っていても、体の中で一度に練り上げられる魔力量には限界がある。
限界を超えて練り上げることもできるけど、術者は相応の損傷を負ってしまう。
仮に限界を超えて大容量の魔力で魔法を発動できたとして、そこまで大容量となった魔法を圧縮することは現実的じゃない。
圧縮には反発もあるから、下手すれば自爆しかねない危険性もある。
じゃあ、どうすれば威力を上げられるのか。
悩んでいた時、僕は閃いた。
『そうだ。前世でやったロボットゲームで外部にエネルギー弾を放出後、回転させながら混ぜ合わせて強烈な光線を放つ技があったじゃないか。よし、やってみよう』
でも、これは口でいうほど簡単な魔法じゃなかった。
①・全属性の大容量魔弾を十弾生成して周囲に放出。
②・全ての魔弾に均一で一定量の魔力供給と加圧を同時並行。
③・②の手順で一定以上の威力になったら②を継続しつつ魔力制御による魔弾混合回転開始。
④・魔力制御にて魔弾混合率100となれば自爆せずに安定発射可能。
最初試した時、①~④の手順を僕一人でやってみたけど、すぐに挫折。
というか、物理的に不可能だと察した。
①と②まではかろうじて出来たけど、②を継続しながら③と④までするなんて人には不可能だ。
右に振り向いたまま左も見ろというか、両手が塞がっているのに両手を使えみたいな感じというか、絶対に一人で制御できる仕組みじゃなかった。
『良い案だと思ったけど、これは無理だなぁ。ロボットゲームみたく、補佐してくれる人工知能、AIみたいな存在があれば別だけど……あ⁉』
失敗した当時、僕はまたまた閃いた。
『そうだよ。僕にはメモリーがいるじゃないか』
『一緒にしないでよね』
メモリーはすぐ反応してくれた。
人工知能やAIと一緒にされて口を尖らせていたけどね。
彼の力を借りることで、魔法制御の役割を二分化することで試行錯誤の末に①~④の手順を全て成功に至ったわけだ。
成功当時、喜び勇んで誰もいない狐人族領の山岳地帯で高威力で試し打ちをしたんだけど、魔力出力が高すぎて逆に吹き飛ばされてしまう。
ここだけの話、魔法が扱えなければ山壁に叩きつけられて危うく死ぬところだった。
消防車とかで放水砲をしっかり押さえていないと、放水の勢いで暴れ回るような感じだ。
反省を得た僕は前世のゲーム知識を生かし、自身の体を魔法で地面に縛り付ける。
つまり、自らを一時的固定砲台化することでこの問題を解決。
ようやく新魔法こと『圧縮魔弾集束破砕砲・インフィニティキャノン』が完成したわけである。
この新魔法の特徴ともいえるのが、他魔法の追随を許さない圧倒的な火力を発揮できるという仕組みだ。
僕の扱う高威力の魔法に『螺旋槍【らせんそう】』というのがあるけど、術者の体内と発動後の圧縮で威力を高める仕組みだから威力には限界がある。
それでも、相当な威力を発揮できるけどね。
一方、『圧縮魔弾集束破砕砲』は外部に生み出した大容量の魔弾に術者が魔力を供給しながら加圧を続ける仕組み上、机上では威力限界が存在しない。
だから『インフィニティキャノン』というわけだ。
使用していく内に新たな問題点がでてくるかもしれないけど、威力だけなら僕の中で最上位の魔法だ。
何せ、狐人族領にあった山の形を少し変えてしまった実績がある。
もっとも言葉を柔らかくして『山崩れが起きたため』として報告しているから、この魔法のせいだとは誰も知らないけど。
ただ、威力確保のためとはいえ固定砲台になっちゃうし、溜め時間も長いから一対一では基本的に使えない。
そもそも威力がありすぎるから、人に使う予定はないけどね。
今回は橋上かつ周囲が魔障壁に囲まれ、魔物達にも逃げ道がない。
魔物の大軍とも適度に距離があり、正面に固まっている状況から一撃で殲滅できると判断して使用したわけだ。
橋上の魔物達は声を上げる間もなければ、痛みを感じることもなく僕の放った光線に呑まれて塵も残さず無となった。
光線は一瞬で遠目に見える城門に着弾し、爆音を轟かせて大爆発を起こす。
でも、光線の勢いは未だ留まることを知らない。
「ガァ、ガァアアアアア⁉」
空にいた魔物達は光線に耐えきれなかったらしく、その場で停滞してしまった。
でも、それは最低の悪手だ。
固定砲台だから移動は出来ないけど、射出角はある程度自由に変えられる。
光線を放っている両手を左右に軽く振って橋上の端から端に残っていた魔物達を一掃し、最後に上にゆっくり上げていく。
「さぁ、魔物は魔力に還る時間だよ」
「ガ――」
空で停滞していた魔物達が光線に呑まれて消えていく。
同時に空を覆っていた魔障壁に光線が衝突、空から甲高い音が響いて光線は青空に着弾。
そのまま大空に大穴を開けてしまった。
程なく、極太の光線が徐々に細くなっていき、すーっと残光と共に消えていく。
大空にできた真っ黒な大穴も、すぐに下の青空に戻っていった。
牢宮の壁も、穴が空くんだな。
『目標の殲滅を確認、圧縮魔弾集束破砕砲使用における補佐状態終了。通常状態移行に伴い、魔力制御と調整を全てリッドに返却……以上、お疲れ様でした。リッド、あんまり無理しちゃ駄目だよ。まったね~』
メモリーの声が脳裏に響くと、僕の体を橋上に固定していた氷が砕け散る。
激しい魔力消費の反動から力が抜けてへたり込むと、僕は遠目に見える城門を見据えた。
魔物の大軍は一体たりとも、欠片一つ残っていない。
「さて、フェイ。君が散らかした橋の掃除は済んだよ」
僕はどこかで聞いているであろう彼に向かって呟くと、にやりと笑った。
「……何という奴だ。兄上に匹敵、いや、そんなはずはない」
背後に立っていたマルバスが何かを小声で呟いたようだけどよく聞こえない。
振り向いてみれば、彼は勢いよく頭を振っていた。
どうしたんだろう。
首を捻って訝しんでいると、イビがやってきた。
「おい、がきんちょ。あれだけの魔法を射ったんだ。この後、動けるのかよ」
彼女の声には珍しく抑揚がなく、表情も何やら神妙だ。
やっぱり、さっきの魔法はちょっと派手すぎたかな。
「うん、心配してくれてありがとう。少し休めば大丈夫だよ」
「あれだけの大魔法を射ったのに少し休めば、か」
イビは少し呆れた様子で鼻を鳴らすと、小声で「なるほどな」と頷いた。
「あいつが気にかけるわけだぜ。悪役主人公、お前なら本当に……」
彼女は何か呟いているけど、声が小さすぎて何を言っているのかはよくわからない。
「ごめん、イビ。よく聞こえないんだけど」
「いや、なんでもねぇ。気にするな。それよりも、だ」
彼女はそう告げると、マルバスを見やった
「おい、ぼんぼん眼鏡。これ持ってろ」
「何……?」
マルバスが眉を顰めながら押しつけられた槍を受け取ると、彼女は僕のすぐ側でしゃがみ込み、両手で僕を抱いた。
所謂、お姫様だっこだ。
「イビ、急にどうしたの⁉」
「あたしが城門まで運んでやるから少し休め」
「いやいや、自分の足で歩けるから大丈夫だよ」
困惑しながら捲し立てるも、イビは頭を振った。
心なしか、彼女の手の力も強くなる。
「駄目だ。てめぇが一番疲弊しているからな。時に休むことも戦いの一部だ。ぼんぼん眼鏡、そういうことだから魔物が現れたら援護頼むぜ」
「……よかろう。戦いで大功を立てた者は労うべきだからな」
「え、えぇ⁉ マルバスまでどうしたんだよ」
急に二人してどうしたんだ。
唖然としていると、イビが不敵に笑って歩き出した。
「さて、お姫様のリッドを城に連れていくかな」
「な……⁉ 僕はお姫様じゃない」
「はは、細かいことは気にすんなって」
「僕にとっては細かいことじゃない!」
にやけるイビを睨み付けていると、マルバスが「やはり、鳥頭と木偶だな」と呟き、やれやれと肩を竦めた。




