五階層の門番
青子鬼【アイスゴブリン】達を倒し続け、魔獣の体毛で作られたと思われるもふもふかつ暖かな防寒着こと、足下まで隠せるロングコートを拾得できた。
このロングコート、驚いたことに装着者の魔力を得ることで保温効果が高まるらしく、想像以上に温かい。
前世でいうところの電気毛布みたいだ。
おそらく、青子鬼達は第五階層を突破するための鍵となる拾得物【ドロップアイテム】を得るために配置された魔物だと思われる。
逆に彼等から防寒着を拾得出来なければ、ここで積み。
ゲームオーバーだったということだ。
何にしても防寒準備を整えた僕達は少し休憩を挟み、いよいよ遠くに見える雪嶺の頂上に向けて歩み出した。
麓から中腹に掛けては青子鬼達と、彼等が使役する猟犬らしき白い毛並みに赤い目を持った白氷狼【アイスウルフ】が何度も襲いかかってくる。
今までの魔物達と違って、単体ではなく連携を駆使した攻撃をしてきた。
でも、僕達だって何だかんだいがみ合いつつもここまでやってきている。
阿吽の呼吸とまではいかないけど、自然とそれぞれが得意とする動き、求める動きを何となく理解できていた。
浅い階層でされたら厄介だったかもしれないけどね。
マルバスとイビの武芸と魔法は、各部族でも上位に位置するであろう実力だ。
もちろん、僕だって負けてない。
戦いの素人ならいざ知らず、実力者同士が集まったんだ。
長時間一緒に動き続ければ連携できるようになるのは当然とも言える。
やがて雪嶺の中腹に辿り着くと、景色がガラッと変わって天候が悪化した。
麓から中腹までの道のりは普通の木々が立ち並ぶ山林に雪が積もって、空は雲一つない青空が広がっていたんだけどね。
中腹に差し掛かると灰雲が空を覆い隠し、軽い吹雪が吹き始めたのだ。
木々は凍てつき、無数の氷柱ができていた。
襲ってくる魔物から青子鬼達がいなくなり、徒党を組んだ野性の白氷狼。
5m前後の大きさと鋭い爪と牙を持ち、凍てつく息吹を吐いてくる灰色の毛に覆われた白氷熊【アイスベア】。
空中から氷のつぶてを吐いてくる冷気が揺らめく翼を持つ白氷鳥【アイスバード】。
これらの敵を倒しながら先に進んでいくと、雪嶺らしく雪崩にも襲われる。
逃げ場のない状況下、僕は火槍、マルバスは狐火、イビは風刃横一閃を同時に放つことで雪崩を吹き飛ばして回避した。
ようやく雪嶺の山頂らしい場所に辿り着くと、舞台が視界に飛び込んでくる。
でもその時、吹雪が突然に激しさを増した。
今回も休む間を与えてくれないというか。
拾得した防寒着と動き続けていたおかげで凍えることはなかったけど、それでも体力はかなり奪われている。
僕達は意を決して、舞台に駆け上がった。
「さて、今度はどんな門番がお相手かな」
「どうせ、今までの魔物達をでかくしたような奴だろ」
「何が来ようと倒すのみだ。だが油断して足手まといになるなよ、木偶、鳥頭」
僕の言葉にイビがおどけて肩を竦めると、マルバスが冷淡に吐き捨てた。
その言葉にイビが舌打ちをしたその時、「グゥウ……⁉」という唸り声と共に白氷熊が忽然と三体現れる。
でも、一体だけ他の個体よりも一回り大きい。
「まさか、こいつらが門番なのか」
僕が首を傾げて訝しむと、イビがにやりと口元を緩めた。
「さてな、倒してみたらわかる話だ。悪役主人公、ぼんぼん眼鏡。火魔法で援護頼むぜ」
「援護は構わんが、油断するなと言ったはずだぞ」
彼女が槍を構え、マルバスが狐火の火弾を生み出した瞬間、「ガァアアアア」という凄まじい大音量の咆吼が上空から轟き、衝撃波が地上に降り注いだ。
僕達は思わず耳を塞ぎ、その場で吹き飛ばされないように踏ん張った。
何事かと空を見上げれば、吹雪を降らしていた灰雲が吹き飛び、真っ暗な闇の中に満天の星空が浮かんでいる。
でも、その中に真っ白な、いや星の光で銀色に輝く巨大な龍が羽ばたいていた。
あれが、義憤を冠する五階層の門番か。
龍から放たれるおぞましい殺気と、これまでにない威圧に、僕は喉をごくりと鳴らして息を飲んだ。




