マレイン・コンドロイ
「まだ、あいつらはドワーフを連れて戻って来んのか‼」
屋敷の中に初老のダークエルフの怒号が響いた。
彼の名はマレイン・コンドロイ。
レナルーテにある商会の協会トップであり、下級華族でもある。
彼はいま国外に早く逃げ出そうと焦っていた。
理由は簡単だ、後ろ盾になっていた「ノリス」が「幽明の部屋」に連れていかれたからだ。
あの部屋に連れていかれた人物は何者であれ、近いうちに命を落とす。
そして、それはノリスの命運を決定づけるものであり、彼の支援者や派閥に属していた者達へのみせしめであるとすぐに理解した。
ノリスがあれだけ派閥の中で力を持っていたのは彼が王に意見出来る立場であったからだ。
ノリスの血族が王妃となり、王子も手中にした。
政治力から言えば彼の派閥に所属することは勝馬に乗るようなものだった。
そして、彼には資金力もあり、発言力と資金力でノリスは派閥の中心となっていったのだ。
ちなみに、ノリスの資金力は彼の政治力を後ろ盾にしていた者達により支えられていた。
その一人として名を連ねていたのがマレイン・コンドロイ。
彼である。
そんな、状況をひっくり返したのがリッドであった。
リッドと言う子供は、年齢にそぐわない弁論をして、常識外れの武術と魔法を見せることによってノリスが仕組んだ策を悉く突破した。
だが、マレインからすればノリスも愚かであった。
王女を皇族に嫁がせることに固執しすぎたノリスはマレインから見れば、半ば暴走していたようにも見えた。
下級華族であるマレインは生き残るためにノリスを利用していたに過ぎない。
派閥や彼の理想に心酔していたわけではなかった。
だが、マレインはノリスの後ろ盾を得たあと、維持する為の政治献金を黒に近いグレーなことをやって集めていた。
もちろん、それを行えていたのはノリスという後ろ盾があったからだ。
しかし、その後ろ盾が無くなった今、問題にされればマレインの立場は危険な状態であった。
マレインは同族には手を出してない。
だが、同族以外であればあくどい事を平気で行っていた。
彼の手法はまず、他国からの来た相手を値踏みして価値のある物、才能、種族を見極めて最初は優しく接して金を貸す。
その後、協会を通して圧力をかけて商売を失敗させる。
そして、借金の形として物を奪う。
才能をこき使う。
種族次第では売り飛ばす。
など実に恨まれることをしていた。
そして、特にレナルーテでは数年前に起きたバルスト事変により、マレインが行った行為は特に嫌悪される部分である。
その為、黒に近いグレーは黒断定される恐れもあった。
だが、それでも行えていたのはノリスという後ろ盾があったからだ。
だが、その後ろ盾はもうない。
そうなると、マレインの行いを知っている者達の反応は早い。
ノリスが「幽明の部屋」に入ったのは昨日だというのに、すでに取引停止の申し出などが来ている所もある。
このままではいずれ国から断罪される恐れもあった。
そうなる前に出来ることは、金をまとめて国外に逃げるしかない。
その時、ようやくマレインの怒号に慌てて屋敷の執事が報告に来た。
「申し訳ありません。まだのようです……」
「くそ‼ 時間がないというのに‼ 役に立たんやつらだ‼」
マレインが言う「あいつら」と「役に立たないやつら」とは、ある三人組の男達である。
彼らはマレインが雇っている手下の男達だ。
マレインがしていることは、ダークエルフでは嫌悪される行為なので、マレインの手足となり動く、別種族の存在が必要だったのだ。
風貌が目立つところがあるが、多少は腕が立つ男達だ。
それなのに、何故ドワーフの小娘をすぐに連れてこない?
マレインはドワーフの小娘を回収したら国を出るつもりでいた。
だからこそ焦っていたのだ。
マレインがいら立った様子で思案していると、先ほどの執事がおどおどした様子で言った。
「……マレイン様、申し訳ありません。実は先ほど、魔の森で捕まえた『例の商品』が2匹とも脱走致しました。いま、回収の為に雇った男達を向かわしております……」
「なんだと⁉ あれにはもう買い手がいるのだぞ‼ 何としても、すぐに回収してこい‼」
マレインの怒号を聞いた執事は一礼してすぐ、その場を去った。
マレインは眉間に皺を寄せて、険しい顔で呟いた。
「くそ‼ 今日はまるで厄日だ……‼」
この時、刻一刻と因果応報の流れがまるで運命のように彼に近づいていることに、気付くものは誰もいなかった。
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