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【WEB版】やり込んだ乙女ゲームの悪役モブですが、断罪は嫌なので真っ当に生きます【書籍&コミカライズ大好評発売中】  作者: MIZUNA
第九章

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二階層の門番

「おい、クソ蝶。それは負ける奴に限って言う台詞だぜ」


「やめろ、鶏頭。無意味に煽るな」


イビが勝ち気に告げると、マルバスがため息を吐いて制止した。でも、フェイは気にする様子もなく「ふふ」と噴き出した。


「さぁ、君達がどう攻略するのか。楽しませてもらうよ」


彼が高らかに告げて指を鳴らすと、舞台上の四方八方に黒渦が生まれ、階層内で見かけた木乃伊化した兵士達と猛獣達が次々と出現してくる。


「物量戦か。こちらがもっとも嫌な手を繰り出してきたな」


「数だけいる雑魚なんぞ、いくらいても関係ねぇよ」


マルバスは警戒して構えるも、イビは余裕の表情を浮かべている。


でも、ここにきて、門番が単純な物量戦なんてあり得るだろうか。


いや、有り得ない。


前世でやったゲームの記憶を辿れば、雑魚が大量に出てくるボス戦は、必ず後に何かしらの仕掛けがあった。


フェイが『遊戯【ゲーム】』を楽しんでいるなら、ただ木乃伊兵達を倒して終わりということはないはずだ。


「イビ、マルバス。フェイがわざわざ出てきたってことは、ただの物量戦じゃないと思う。油断しないでよ」


「はは、言われるまでもねぇ」


「木偶こそ油断してくれるなよ。私は子供のお守りをする気はないぞ」


僕達は互いに背中を合わせ、四方八方から襲いくる木乃伊化した魔物達を次々に打ち倒していった。


イビは近中距離に迫った魔物達を槍を振り回して薙ぎ払い、打ち倒す。


マルバスは近距離に迫ってくる相手を薙刀で首を狩り、中距離の相手には『狐火』という火の属性魔法で打ち倒していく。


僕は中遠距離の魔物を弓と魔法で倒し、近距離に迫ってきた相手は短剣で首を落として一撃必殺で倒していく。


それと、イビとマルバスが倒した魔物を火槍を放つことで焼却し、留めを刺す役目を担った。


最初はそこまで強い相手ではなかったけど、途中から木乃伊兵達の武具が揃い始め、猛獣達も大型化していき、じわりじわりと消耗させられていく。


それでも、僕達を倒すには力不足感は否めない。


まさか、これで本当に終わりなのかな。


そう思ったまさにその時、四方八方にあった黒渦が僕達の前方で集まっていく。


程なく一つの巨大な黒渦が出来上がると、その中からぬっと漆黒の毛に覆われた二つの大きな爪を持つ手が現れた。


「ようやく本命。これまでは前座ってか」



イビが肩で息をしながら槍の矛先を渦に向けて構えたその時、偶然にも僕とマルバスが同時に火の属性魔法を放った。


「わざわざ登場を待つ必要性はないよね」


「むざむざ登場を待つ阿呆がどこにいる」


僕の放った火槍、マルバスの放った狐火が黒渦に直撃すると爆音が轟き、凄まじい勢いで火柱が立ち上がった。


魔波が吹き荒れ、僕達の服が突風の中を泳いだ。


「グゥオオオオオオオ⁉」


火に焼かれながら怒号を発し、頭の両脇に渦を巻いた銀色に光る角を持ち、体は漆黒の体毛に覆われ、背中には禍々しい翼を持つ山羊頭の魔物が黒渦の中から這い出てきた。


大きさはぱっと見で4mぐらいだろうか。一階層の牛鬼よりは一回り小さいようだ。


前世の記憶で見た目が近いものを挙げるなら、鬼山羊【バフォメット】だろうか。


「て、てめぇら、容赦ねぇな……」


鬼山羊が火柱に焼かれる姿を見て、イビが口元を引きつらせながら僕とマルバスを見やった。


「四方八方に黒渦を出現させ無限に魔物を召喚して物量戦を仕掛けてくる……というのは良かったけどね。見方を変えれば、黒渦からしか出てこないということでしょ。おまけに出現場所が一箇所だけになったんだ。そこを攻撃【リスキル】しない手はないよねぇ」


「癪だが意見には賛同だな」


マルバスが相槌を打って鼻を鳴らすと、イビが「はは」と笑った。


「なんだ、二人は意外と息が合うじゃねぇか」


「やめろ。こんな木偶と息が合うなど、虫唾が走る」


マルバスが冷たく吐き捨てるように告げた。


でも、さすがの物言いにかちんときてしまう。


「……僕のことを嫌いなのはわかるけど、この状況下で虫唾が走るは言い過ぎでしょ」


「事実を言ったまでだ。何が悪い」


「あ、あのねぇ……?」


全く反省の色を見せないマルバスを相手に、僕は笑顔を保ちつつ詰め寄った。


ただ、こめかみがピクピクしていたけど。


「ガァアアアアア」


雄叫びが轟き、ハッとして前を見やれば、鬼山羊は身を焼かれながら、こちらをじろりと睨んできた。


その瞳には横線が入っていて、まんま山羊の目だ。


「おい、悪役主人公【ダークヒーロー】。どうやらそこまで効いてないみたいだぜ」


「まぁ、今のは小手調べだったからね。やっぱり、翡翠の丸玉を壊すしかなさそうだ」


イビの言葉に答えたその時、鬼山羊が強烈な魔波を放って自身を焼いていた炎を掻き消した。


そして自らの角に手を掛け、そのまま角を折った。


骨が折れるような鈍い音が響き、何をするつもりかと窺っていると、鬼山羊がニヤリと口元を緩める。


その角は瞬く間に銀色に輝く巨大な鎌へと姿を変え、同時に頭の角も元通りとなった。


「なるほど。僕達の命をその大鎌で刈り取ろうってことかな」


「……あの武器を使う奴には碌な性格の奴はいねぇぜ」


「大鎌なぞ、見た目ばかりで使い勝手の悪い武器に過ぎん。恐れるなよ」


僕の言葉にイビとマルバスが続くと、鬼山羊が鎌を構えてこちらに向かって駆け出した。


「グォオオオ」


雄叫びを発しながら大鎌で横一閃を繰り出してくるも、僕達は一斉に飛び上がって回避しながら攻撃を繰り出した。


「火槍」


「風刃横一閃【ふうじんよこいっせん】」


「狐火一閃【きつねびいっせん】」


それぞれの攻撃が鬼山羊に命中して爆発が起こり、爆煙が立ち上がる。


イビの一撃に至っては鬼山羊の腕が切り落とされ、舞台上に重い音が響く。


僕達はすぐに集まり、陣を構えて再び対峙した。


でも、鬼山羊は悲鳴を挙げることもなく平然とこちらを振り向き、目付きを細め、口元を大きく歪ませる。


その瞬間、僕は「な……⁉」と目を丸くした。


切り落とされた鬼山羊の腕が瞬く間に再生したからだ。


ただ、目の前で起きた現象にも驚愕したけど、鬼山羊とすれ違いざまに、もう一つの懸念が生まれていた。


「おい、木偶に鶏頭。お前達は気付いたか」


「あぁ、何がだよ」


マルバスの言葉にイビが答えると、僕が続けて「やっぱり、そうだよね」と切り出した。


「鬼山羊の奴、翡翠の丸玉がないみたいだ」


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